アルフォードの演説①
大きな城門がゆっくりと開く。
そして、それに合わせアルフォードもゆっくりと車椅子のタイヤを回した。
スロープになっている、ひな壇をゆっくり一人で登っていく。
当初はイリヤが車椅子を押して、演説の壇上まで連れて行く予定だったが、急遽変更した。
これは自分の力で成し遂げたい。
その思いを皆が汲んでくれた。
あちこちで、罵声が飛び交っている。
酷い言葉が大声で叫ばれていた。
それは、アルフォードの足に対しての暴言も含まれている。
(まだ、物は飛んでこないだけありがたい……)
そう心でつぶやき、アルフォードは自分を落ち着かせようと必死になった。
アルフォードが壇上へ登り切った。
まだ何も発していないのに、すでに息が上がる。
壇上は思ったより高さがあり、どうしても姿勢を正せない。
一気に民衆の視線が注がれている。
台紙の手が一層震え、自分の心臓音がうるさく響く。
(こんなにも……)
予想を遥かに超えた人数の民衆が、そこにはいた。
せいぜい集まって百名ぐらいだと思っていたが、ここには五百人以上はいるのではないか。
大人だけでなく、十歳になっていないぐらいの子どもたちまで、アルフォードを見つめていた。
そして、ここに集まったに人々の目は、アルフォードしか見ていない。
民衆はみんな険しい顔をして、アルフォードの言葉を今か今かと待っている。
最前列には憎いエミリアの姿もあった。
(エミリア……!)
一瞬、怒りがこみ上げ我を忘れかけたが、聞こえてくる叫び声たちによって、アルフォードは意識を引き戻された。
「おい! さっさと始めろ! 怖気づいたのかぁ?」
「一体、何をいまさら我々に言うというんだ? 言い訳をするために、この場を設けたのか!?」
「なんだ? その姿は。情けをかけてほしいって魂胆が見え見えだ」
「不幸なのは私たちの方よ! 子どもたちに満足に食べさせてあげれないのよ!」
どんどん罵声が波のように大きくなっていく。
皆が思い思いの不満を吐き出す。
それを、アルフォードは必死に耐えた。
ゆっくり息を吐き、そしてゆっくり息を吸いながら、演台に用意されているマイクのような拡声器に手をかけ、姿勢を正す。
そして、台紙を開き、ボタンを押した。
「忙しい中、この場に皆がこんなにも集まってくれて、ありがたく思う」
アルフォードの言葉が、城門前の広場に、響き渡った瞬間、民衆は一斉に口を閉じた。
それが逆にアルフォードにプレッシャーをかける。
姿勢を正しているつもりだが、どうしても民衆に顔を向けられず、原稿に視線が落ちてしまう。
でも、言葉だけは懸命に続けようと必死だった。
(皆と約束したんだ……リナから教えてもらったことを実行しないと……)
「今日この場で伝えたいことが二つある。一つは、過去のこと。五年前、前国王陛下が暗殺されたとき――――」
それは、アルフォードが、原稿ではなく目の前の国民に視線を合わせた、一瞬の出来事だった。
ガツンっ!
突然、嫌な音が全体に響く。
何が起こったか全く分からない。
目の前が真っ赤になった。
遠くで、自分を呼ぶ声が聞こえた。
ぽたぽたと原稿に赤い液体がしたたり落ちていく。
(原稿が……)
じわじわと広がる赤い液体は、演説原稿を吸い込んでいった。




