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私は魔法使いなんかじゃない!  作者: いと・うさぎ
アムステール王国再建物語Ⅰ
93/235

アルフォードの演説①

 大きな城門がゆっくりと開く。


 そして、それに合わせアルフォードもゆっくりと車椅子のタイヤを回した。

 スロープになっている、ひな壇をゆっくり一人で登っていく。

 当初はイリヤが車椅子を押して、演説の壇上まで連れて行く予定だったが、急遽変更した。

 

 これは自分の力で成し遂げたい。


 その思いを皆が汲んでくれた。



 あちこちで、罵声が飛び交っている。

 酷い言葉が大声で叫ばれていた。

 それは、アルフォードの足に対しての暴言も含まれている。


(まだ、物は飛んでこないだけありがたい……)


 そう心でつぶやき、アルフォードは自分を落ち着かせようと必死になった。



 アルフォードが壇上へ登り切った。

 まだ何も発していないのに、すでに息が上がる。

 壇上は思ったより高さがあり、どうしても姿勢を正せない。

 


 一気に民衆の視線が注がれている。

 台紙の手が一層震え、自分の心臓音がうるさく響く。


 

(こんなにも……)



 予想を遥かに超えた人数の民衆が、そこにはいた。

 せいぜい集まって百名ぐらいだと思っていたが、ここには五百人以上はいるのではないか。

 

 大人だけでなく、十歳になっていないぐらいの子どもたちまで、アルフォードを見つめていた。

 そして、ここに集まったに人々の目は、アルフォードしか見ていない。

  

 民衆はみんな険しい顔をして、アルフォードの言葉を今か今かと待っている。

 最前列には憎いエミリアの姿もあった。


(エミリア……!)


 一瞬、怒りがこみ上げ我を忘れかけたが、聞こえてくる叫び声たちによって、アルフォードは意識を引き戻された。


「おい! さっさと始めろ! 怖気づいたのかぁ?」

「一体、何をいまさら我々に言うというんだ? 言い訳をするために、この場を設けたのか!?」

「なんだ? その姿は。情けをかけてほしいって魂胆が見え見えだ」

「不幸なのは私たちの方よ! 子どもたちに満足に食べさせてあげれないのよ!」



 どんどん罵声が波のように大きくなっていく。

 皆が思い思いの不満を吐き出す。


 それを、アルフォードは必死に耐えた。


 ゆっくり息を吐き、そしてゆっくり息を吸いながら、演台に用意されているマイクのような拡声器に手をかけ、姿勢を正す。


 そして、台紙を開き、ボタンを押した。

 



「忙しい中、この場に皆がこんなにも集まってくれて、ありがたく思う」



 アルフォードの言葉が、城門前の広場に、響き渡った瞬間、民衆は一斉に口を閉じた。

 それが逆にアルフォードにプレッシャーをかける。

 姿勢を正しているつもりだが、どうしても民衆に顔を向けられず、原稿に視線が落ちてしまう。


 でも、言葉だけは懸命に続けようと必死だった。



(皆と約束したんだ……リナから教えてもらったことを実行しないと……)



「今日この場で伝えたいことが二つある。一つは、過去のこと。五年前、前国王陛下が暗殺されたとき――――」


 それは、アルフォードが、原稿ではなく目の前の国民に視線を合わせた、一瞬の出来事だった。




 ガツンっ!



 

 突然、嫌な音が全体に響く。


 何が起こったか全く分からない。


 目の前が真っ赤になった。


 遠くで、自分を呼ぶ声が聞こえた。



 ぽたぽたと原稿に赤い液体がしたたり落ちていく。



(原稿が……)



 じわじわと広がる赤い液体は、演説原稿を吸い込んでいった。


 






















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