運命の日③
「リナ様に黒魔術をかけたのは、お前なんだろ!? 彼女に何かあったら、俺はお前を殺す!」
「おい、リチェ、いい加減にしろ!」
ジャックが、力ずくでリチェーヌを羽交い絞めにする。
エミリアは、そんなリチェーヌを不思議そうに見ていた。
「黒魔術……? 何のことだ?」
「とぼけるな! リナ様がお前の屋敷に行った時飲まされたお茶に、毒を仕込んだんだろ!?」
「毒? わしはそんなもの入れてはおらぬ! 何か勘違いをしてるのではないか?!」
ジャックは、そんなことを言うエミリアを見つめる。
明らかに彼は動揺していないし、なんのことだか、さっぱり分かっていないようだった。
これが演技だとしたら、恐ろしい老人だ。
「リチェ、この件はとりあえず、置いておけ。今は演説が最優先事項だろう?」
「…………」
やっとリチェーヌは自分の剣をおろし、腰へしまった。
それにほっとしたジャックは、彼の腕をほどく。
「リナ様が、黒魔術に……?」
一方のエミリアは、独り言を発しながら、眉間に皺を寄せ、視線を落とし何やら考え始めた。
エミリアでも把握していないことが、どうやら起こり始めているようだ。
******
正午まであと、十分を切った。
アルフォードは原稿を握りしめ、部屋を出る。
「殿下……頑張ってください……リナ様もきっと応援していますから!」
アンジェリカはどうやら、リナがいる部屋から、全速力で走ってきたようだ。
ぜぇはぁ言いながら、アルフォードにエールを送る。
「ああ、いってくる」
そう言って、イリヤと共に、城門へ向かった。
今日は朝から変わりなく、雲一つない晴天だった。
最近雨が多かったから、心配していたが、今日一日は雨は降りそうにもない。
天気にも恵まれているから、きっと大丈夫。
そう自分に言い聞かせ、廊下を進む。
城門が近づくにつれ、鼓動が速くなっていくが自分でも分かった。
呼吸も自然に浅くなる。
手汗もすごいので、原稿が挟んである台紙がベトベトに……
「殿下、あれだけ練習したのですから大丈夫です。心の中の思いを伝えればいいのです」
「ああ……そうだな」
そして、とうとう城門前へやってきた。
扉を開ければ、民衆がいる。
警備の兵士がスタンバイしている。
騎士団の皆もじっとアルフォードの合図を待っている。
すぐ後ろには、リチェーヌも控えている。
ドクン……ドクン……
心臓の音が皆に聞こえているのではないかと思うほど、大きく鼓動している。
自分が手を挙げれば、扉が開く。
ドクン……ドクン……
皆はこんな姿の自分をどう思うだろう?
こんな王子の話を聞いてくれる人は、果たしているのだろうか?
自分は最後まで話を続けられるだろうか?
ドクン……ドクン……
台紙を握る指が震えてる。
力が入らない。
もう一度原稿の内容を確認するため、台紙を開く。
ドクン……ドクン……
息を吸うにも空気が入ってこない。
額から汗がこぼれる。
その汗が、一番上の原稿に落ちた。
(どうしたらいい……? どうしたら……)
落ちた汗が、じわじわとインクをにじませる。
それに気づいたアルフォードはあわてて、原稿に落ちた汗を拭こうと指でなぞった。
すると――――
『You can change your world if you change your mind.』
~あなたの考えが変われば、あなたは世界を変えられる~
リナの書いた字の切り抜きが、すっと目に入った。
お守り代わりに挟んでいたことに今気づく。
ほかにも、イリヤやアンジェリカ、セラフィードからのアドバイスの言葉のメモも挟まっていた。
アルフォードは目を閉じ、もう一度深く息を吸い込んでみた。
今度はうまく空気が入ってきた。
やれることはやってきた。
自分を応援してくれる人たちがいる。
そして――――手を挙げながら、
「いいぞ、扉を開けろ」
決意を込めて言った。




