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私は魔法使いなんかじゃない!  作者: いと・うさぎ
アムステール王国再建物語Ⅰ
92/235

運命の日③

「リナ様に黒魔術をかけたのは、お前なんだろ!? 彼女に何かあったら、俺はお前を殺す!」

「おい、リチェ、いい加減にしろ!」


 ジャックが、力ずくでリチェーヌを羽交い絞めにする。

 エミリアは、そんなリチェーヌを不思議そうに見ていた。


「黒魔術……? 何のことだ?」

「とぼけるな! リナ様がお前の屋敷に行った時飲まされたお茶に、毒を仕込んだんだろ!?」

「毒? わしはそんなもの入れてはおらぬ! 何か勘違いをしてるのではないか?!」



 ジャックは、そんなことを言うエミリアを見つめる。

 明らかに彼は動揺していないし、なんのことだか、さっぱり分かっていないようだった。

 これが演技だとしたら、恐ろしい老人だ。



「リチェ、この件はとりあえず、置いておけ。今は演説が最優先事項だろう?」

「…………」


 やっとリチェーヌは自分の剣をおろし、腰へしまった。

 それにほっとしたジャックは、彼の腕をほどく。



「リナ様が、黒魔術に……?」


 一方のエミリアは、独り言を発しながら、眉間に皺を寄せ、視線を落とし何やら考え始めた。

 エミリアでも把握していないことが、どうやら起こり始めているようだ。




                     ******


 


 

 正午まであと、十分を切った。

 アルフォードは原稿を握りしめ、部屋を出る。


「殿下……頑張ってください……リナ様もきっと応援していますから!」


 アンジェリカはどうやら、リナがいる部屋から、全速力で走ってきたようだ。

 ぜぇはぁ言いながら、アルフォードにエールを送る。


「ああ、いってくる」


 そう言って、イリヤと共に、城門へ向かった。


 今日は朝から変わりなく、雲一つない晴天だった。

 最近雨が多かったから、心配していたが、今日一日は雨は降りそうにもない。

 


 天気にも恵まれているから、きっと大丈夫。


 そう自分に言い聞かせ、廊下を進む。


 

 城門が近づくにつれ、鼓動が速くなっていくが自分でも分かった。

 呼吸も自然に浅くなる。

 手汗もすごいので、原稿が挟んである台紙がベトベトに……



「殿下、あれだけ練習したのですから大丈夫です。心の中の思いを伝えればいいのです」

「ああ……そうだな」



 そして、とうとう城門前へやってきた。

 扉を開ければ、民衆がいる。


 警備の兵士がスタンバイしている。

 騎士団の皆もじっとアルフォードの合図を待っている。

 すぐ後ろには、リチェーヌも控えている。


 

 ドクン……ドクン……



 心臓の音が皆に聞こえているのではないかと思うほど、大きく鼓動している。

 自分が手を挙げれば、扉が開く。

 

 ドクン……ドクン……



 皆はこんな姿の自分をどう思うだろう?

 こんな王子の話を聞いてくれる人は、果たしているのだろうか?

 自分は最後まで話を続けられるだろうか?



 ドクン……ドクン……



 台紙を握る指が震えてる。

 力が入らない。

 もう一度原稿の内容を確認するため、台紙を開く。



 ドクン……ドクン……



 息を吸うにも空気が入ってこない。

 額から汗がこぼれる。

 その汗が、一番上の原稿に落ちた。

 


(どうしたらいい……? どうしたら……)



 落ちた汗が、じわじわとインクをにじませる。

 それに気づいたアルフォードはあわてて、原稿に落ちた汗を拭こうと指でなぞった。

 すると――――


『You can change your world if you change your mind.』 

 ~あなたの考えが変われば、あなたは世界を変えられる~ 


 

 リナの書いた字の切り抜きが、すっと目に入った。

 お守り代わりに挟んでいたことに今気づく。


 ほかにも、イリヤやアンジェリカ、セラフィードからのアドバイスの言葉のメモも挟まっていた。


 アルフォードは目を閉じ、もう一度深く息を吸い込んでみた。

 今度はうまく空気が入ってきた。



 やれることはやってきた。

 自分を応援してくれる人たちがいる。



 そして――――手を挙げながら、




「いいぞ、扉を開けろ」





 決意を込めて言った。



 








 

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