運命の日②
「殿下、こんなところに出てきては危険です!」
「大丈夫だ。警備はしっかりしているのだろう?」
「そうですが、万が一何かあっては……。イリヤ、殿下を城内へ」
イリヤはアルフォードの車椅子を押しながら、城内へと連れて行く。
隊長のジャックよりも、副隊長のカールが動揺しているのが少し面白かったので、アルフォードは思わず笑みをこぼした。
「殿下、笑っている場合ではないです! そんな隙を見せてはいけません」
「カールはイリヤより、口うるさいのだな」
「そんなことはございません! もうすぐ本番ですから、ちゃんと精神の統一していただきたく……」
「いいじゃないか~。カール、お前のおかげで、殿下の緊張もほぐれたようだぞ?」
「隊長こそ、隙を見せないでください! 何ですか、さっきのは! 民衆からの質問は、びしっと答えないと! あれでは、民衆になめられます」
「仕方がないだろうが。ボイコットのことなんて、全く考えていなかったのだから。殿下、先ほどはありがとうございました。それでは、我々は業務へ戻ります」
さらりと、アルフォードに礼を入れ、ジャックは、カリカリしているカールを引き連れ、警備へと戻っていった。
「ボイコットか……」
「殿下?」
「いや、とりあえず部屋に戻る」
ジャックが、民衆から責めたてられていた以上に、自分は民衆から吊し上げに遭うだろう。
言葉だけではなく、命を脅かされるかもしれない。
それは、覚悟しておかないといけない。
アルフォードはまた、ギュッと拳を握った。
******
そして、とうとう、約束の時間まであと三十分に。
しかし、城門前には、誰もいない。
様子を見に来たリチェーヌは眉を潜め、ジャックに話しかけた。
「解放した者たちに、ちゃんと言ったのか?」
「もちろん、言ったとも! ただな……その……ボイコットするとかしないとか……そういう話に……」
「どういうことだ?」
リチェーヌはジャックに詰め寄り、問いただす。
その表情には余裕はない。
「民衆に来てくれっていったが、奴らは殿下の話なんて、今更聞く気はないって言ったんだ。たしかに、今まで自分たちに何もしてくれなかった殿下に対する憤りは、彼らに溜まったままだし……」
「つまり、誰もこの場にはこないと?」
「それはだな……」
歯切れの悪い言葉を発しながら、ジャックは目を泳がせ頭を掻く。
なんで今日こんなにも色々責められなければいけないのか?
ジャック自身、自分の運の悪さに嫌気がさし、肩を落とした。
すると、どこからか足音が聞こえてきた。
「リチェ、おい! 見ろよ!」
ジャックが、リチェーヌに肩を回し、足音のする方へ体を向けさせる。
目を凝らすと、たくさんの人がこちらに向かって歩いてきていた。
一番前の人は、何やら横断幕を持参しているよう。
「やったじゃないか! ボイコットされずに済んだ!」
「…………」
ジャックは大喜びだが、リチェーヌの顔は冷ややかだった。
それもそのはず、前の人が持っている横断幕には――
『GO OUT , Alford !! 』 (出ていけ、アルフォード!)
と白い布に赤い字で、大きく書かれていた。
そして、彼らは城門前に設置された、ひな壇から三メートルほど離れた地点で止まった。
その中心から、一番憎い人物が現れる。
「エミリア……」
リチェーヌは腰の剣に手を掛け、いつでも抜けるようにして、エミリアの行動をじっと見つめる。
ゆっくりと前へ出てきたエミリアは、殺気立っているリチェーヌを見ながら――
「このような場にお招きいただけるとは、夢のようじゃよ。リナ様に礼を言いたいのじゃが」
平然と言い放った。
次の瞬間、リチェーヌは剣を抜き、勢いよく飛びかかる。
「お前! リナ様に黒魔術をかけたな!!」
剣をエミリアの首に当てながら、リチェーヌは低い声で言う。
周りの民衆からは、悲鳴やどよめきが起きた。
「おい、リチェーヌ! ここを血の海にする気か?! 殿下の演説の場だそ!!」
ジャックは急いで、リチェーヌを止めに入るが、殺気立っている彼には何を言っても聞こえない。
リチェーヌを止めるより、エミリアを避難させる方が賢明だと考え、ジャックはカールに指示を出す。
「おい、エミリア様をこいつから遠ざけろ!」
「はっ」
「おい、リチェ! お前らしくないぞ! 冷静になれ」
遠ざかるエミリアをじっと睨んだままのリチェーヌを、無理やり引っ張り、民衆からも遠ざける。
(本当に今日は厄日だ……頼むから今日一日何事もなく終わってくれ)
ジャックは、溜息をつき、先を案じた。




