たった一つの願い事
里奈は、しゃがみ魔獣と目線を合わせる。
魔獣はそんな里奈の側に寄って、
「お別れだよ。リナがちゃんと主になってくれてる間は、僕の存在は消える。だから、よろしくね、ミストルティンのこと」
と少し寂しげな表情を浮かべる。
「ちょっと、待ってよ! この使い方とか説明してくれるんじゃないの?! 契約させたのに放置プレイってひどくない!?」
「仕方ないじゃないか……。ボクはこの空間から出られない。契約者を探して、契約させることがボクの使命だから、それが完了すれば、存在できない理になっているんだよ。ちゃんとキミのこと見ててあげたいんだけどさ」
「そんな……でも……」
「こんなに誰かと話したのは久しぶりだ。すごく新鮮で楽しかった。ありがとう」
そして、魔獣は里奈に背を向け、だんだん消えていく下の階段へと進み始める。
昔飼っていた猫によく似ているからか、なんだか不思議な気持ちになった。
その飼っていた猫も突然どこかへ消えてしまった。
そして、数日後、庭の隅の木の脇で横たわっていた。
(また一人ぼっちになるんだ……)
出会いがあるから、別れがあるのだと頭では分かっている。
そして、自分は一刻も早くここを出て、アルフォードたちの元へ行かないといけない。
「リナ、さっきも言ったけど、ミストルティンは対価交換できみと繋がっている。だから、リナは元の世界へ戻れなくなってしまう代わりに、きみの願いは一つだけだけど、大抵なんでも叶うから! だから、何があっても諦めないで! 絶対、アムステールを再建して」
里奈からずいぶん離れた魔獣が、下から叫んだ。
「無責任なこと言わないでよ!ちゃんと魔法使いになるか、見張っててくれるんじゃないの?」
いくら待っても、下から返答はない。
「名前……ちゃんと聞けばよかった……」
遠くから何かが崩れる大きな音がした。
この空間が崩れ始めているのは本当らしい。
そして、とうとうこの白い空間で、里奈はたった一人になった。
手には剣になったミストルティン。
なんでも一つだけ願いが叶う聖剣……
「私が望むたった一つの願いごと……」
ミストルティンをギュッと両手で握りしめる。
これから先、きっと魔法が今よりも必要になるだろう。
魔法がどういうものなのか、、リチェから簡単に教えてもらったが、それだけではきっと足りない。
知識がないのが私の強みだと言ったが、知識がないから現に黒魔術にかかってしまった。
アムステール再建するといいながら、皆の足手まといにはなりたくない。
今まで心の中で渦巻いていたものが、一本の糸になるように、これからの自分のすべきことが理解できた。
そして、里奈は目の前の聖剣に向かって語りかける。
「ミストルティン、私の元の世界をつなぐ道を差し出す代わりに、私の願いを叶えて」
刃が白い優しい光を放ちだす。
そして、その光は里奈を包み込んだ。
『ネガイヲ……ノベヨ……』
「私のたった一つの願いは――――」




