演説まで③
アルフォードが原稿を書き終わった頃、リチェーヌはというと、明日警備にあたる兵士たちと打ち合わせをしていた。
本番、何が起きるかわからない。
実際、里奈が狙われたのだから、奴らが王子に何かしてくる確率は高い。
「リチェーヌ様、それでは我々は、明朝から城外に不審者がいないか、いくつかの班に分かれて、警備にあたります」
「何かあれば、この花火で知らせてくれ」
「かしこまりました」
机の上には、その花火がたんまりと置かれていた。
騎士団団長のジャック・バレンスが、部下たちに地図をみせながら、流れを細かく指示をしていく。
その様子をリチェーヌはじっと眺めて、警備に抜かりがないか、今一度考えを巡らせた。
「それにしても、本当にいいのですか? 放火犯たちを解放してしまって。彼らが何か仕出かす可能性があるのでは?」
副隊長のカール・イ―ルが、首を傾げながら、当日のタイムスケジュールを指差す。
そのスケジュールによると、『朝八時に地下牢に捕えられている者を城の外へ連れて行く』となっている。
「里奈様がエミリアとの約束された。エミリアが『演説を邪魔しない』ことを条件に『捕えられてる者たち全員の解放』を要求してきたんだ」
「しかし、もうすでにリナ様は、彼らによって魔術に……」
「そうだが、確実な証拠がない。エミリアがやったという証拠があれば、奴を追い詰められるかもしれないが、それはあくまで仮説。だから、もしエミリアの仕業ではなく、ほかの者の魔術だった場合、捕えた者たちを解放しなかったら、奴はまた殿下の命を狙いに来るだろう」
副隊長のカールはそれ以上何も言えず、じっとタイムテーブルを見つめる。
王宮にいる兵士の数は、たかが知れている。
城の外は全員が敵だと考えた方がよさそうだ。
いつ、どこで、誰が襲ってくるかわからないこの状況下で、王子を外に出すということがどれほどまで危険な行為か、この場の全員が分かっているはず。
なのに、どうしてこんな無謀な『演説』という行為を、強行的に行うのか?
カールは眉を潜めた。
その様子を察してか、ジャックはカールの肩を掴みながら、呑気な声で彼に話しかけた。
「ま、なるようにしかならんさ。我々には、ローゼン様がついておられるではないか! 我々は殿下を全力でお守りすればいいこと! 以上!」
「隊長! あまりにそれは楽観的です! 万が一何かあったらどうするのですか?! こんな無謀な作戦、私は反対です!」
「何を今さら言っておるのかね、カール副隊長は~。そんなカリカリしてちゃ~お前の髪はすぐなくなるぞぉ?」
そうお気楽にいいながら、ジャックはカールの髪を掴んだ。
カールは、キッと睨みながら、ジャックの手を髪から振りほどき、持論を展開しはじめる。
それを見ていたほかの兵士たちは、ああ……と溜息をつきながら、彼らから距離をとった。
「隊長はもっと危機感を持っていただかないと困ります。これはアムステールにとって一大事ですよ! 殿下の命に危険が迫ってからでは遅いのです。危険を回避させるのも仕事の一環だと思います」
「しかし、『あの』殿下がやると決めたんだ。応援しないわけにはいかないだろう? こんなの五年前以来初めてじゃないか! あの引きこもりのうじうじ殿下が、部屋から出て自分の思いを民衆に伝えたいと言い出すなんて、私は絶対そんなことは起きないと思っていたよ。だよな? リチェやみんなもそう思っただろう?」
若干、失礼な発言も含まれていたが、部屋にいる面々は、うん、うん、と強く首を縦に振る。
リチェーヌもまた、ああ……と頷いていた。
しかし、カールだけは、納得できないという表情を浮かべたまま……。
「何もないなんて、言いきれないのに、なぜそんな危険なことを進めるのですか…? 私には理解できない」
「それはだね、カール副隊長、われ――」
「変えたいから」
ジャックの言葉にかぶせるように、リチェーヌがカールに強く言い放つ。
「未来を変えたいからだ。殿下もこの国も変わりつつある。それを、今みんなに伝えたい。リナ様が、『再建させる』といいながら頑張ってくださったことを、ここで無駄にはさせない!」
リチェーヌの言葉に圧倒されたカールは、それ以上何も言わなかった。
そして、少し間をあけて、短く「わかりました」とだけいいながら、椅子に腰かけた。
「カール、お前は本当に殿下思いだな~。よし、お前を殿下警護班に任命しよう!」
「は?! さっそく、ここに書いてある班を崩すおつもりですか!? そういう計画を乱すような発言は慎んでくださいと何度も言ってるじゃないですか!?」
「また、がみがみ怒って~。お前はカルシウムを取った方がいいぞ~」
「大きなお世話です!」
また、隊長と副隊長の交戦がはじまったので、他の者はそれぞれの役割について各自確認し合う。
決戦は明日――
無事演説が終わるよう、何が何でも殿下をお守りする。
それが、リナ様との約束だ。
騒々しい部屋の中で、リチェーヌは一人、心に誓った。




