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私は魔法使いなんかじゃない!  作者: いと・うさぎ
アムステール王国再建物語Ⅰ
83/235

演説まで①

「できた!」


 アルフォードは自分しかいない自室で声を上げた。

 窓を見るとすっかり日は落ち、いつのまにか部屋には明かりがともされていて、テーブルには軽食とお茶が用意されている。

 

 イリヤや侍女たちが入ってきたのも全く気付かないくらい、集中して原稿に没頭していたようだ。


「これで大丈夫だろうか……」


 原稿はできたが、果たしてこれが人々の心に届くかはわからない。

 里奈がいれば、客観的に意見をもらえるのだが。


「リナは……?」


 王子は、原稿を握りしめ、急いで車椅子に乗り換え、部屋から出ていく。


「殿下? どうされましたか?」


 扉を開けると、イリヤが控えていた。

 アルフォードは彼に、「リナの容体はどうなった?!」と詰め寄る。

 

 その勢いに圧倒され、いつもハキハキと話すイリヤの声はうわずる。


「リ、リナ様はまだ眠ったままで……」

「俺をすぐ連れていけ!」

「かしこまりました」


 そして、二人は急いで里奈が眠る部屋へと向かった。






                    *****






 セラフィードとアンジェリカは、里奈の側を離れず、ずっと看病していた。


「熱は落ち着いてきたな……」

「はい。先ほどよりも」


 一時はかなり熱が上がったので心配だったが、とりあえず下がってきたので一同は安心した。

 しかし、彼女は依然眠ったまま……

 起きる気配がない。


「今夜が峠だろう……」

「このまま、意識が戻らないってことがあるんですか?」

「何とも言えない。残念ながら、私は呪詛じゅそ返し専門ではないんだ。魔術をかけた張本人を捕まえたとしても、解き方を知っているとは限らないし」

「黒魔術……。リナ様は魔力をお持ちなのに」


 アンジェリカが、里奈の手をそっと握る。

 里奈の手は熱いものの、顔は青白く、生気が感じられなかった。


「魔力をもっていても、心が弱っていたら、かかってしまう。それに、リナ様自身、黒魔術というものの存在を知っておられたか分からない。こちらに来て間もないから、魔法のことも黒魔術のことも無知識だったと思う」


 彼らがそんな話をしていると、勢いよく扉が開き――


「リナは目覚めたか!?」


と大声でアルフォードがイリヤと共に部屋に入ってきた。


 そして、すぐさまベッドのもとへ進む。


「残念ながら、まだ目を覚まされません……。今夜が峠かと……」


 セラフィードは申し訳なさそうに、アルフォードに現実を伝えると、彼は「そうか」と短く答え、里奈を見つめた。


「殿下、演説文は出来上がったのですか?」


 黙ったままのセラフィードが、アルフォードに恐る恐る尋ねる。

 アンジェリカもイリヤも心配そうに彼を見る。


「一応な……。でも、この言葉が国民に届くかどうかはわからない……」


 いつも自信満々に、上から目線で言い放っていた王子なのに、里奈が倒れたことで相当精神的にきているようだ。

 一同は何も言えず、沈黙した。


 両親が殺されているアルフォードにとって一番恐ろしいのは、身近な人の『死』だ。


 そのことは、ここにいる皆が知っていた。

 決して楽観視できないこの状況では、皆、彼にかける言葉が見つからない。



 これ以上誰も目の前で死んでほしくない……

 


 アルフォードは、拳を握り、強く思った。



「なんで、俺はいつも何もできないんだろう。リナが目の前で倒れた時も、支えて受け止めることができなかったし、助けを呼ぶことさえできなかった。魔法もたいして使えないから、魔術を解くこともできない。ほんと……意味ないな……」


 ポツリポツリと、こぼれる声が部屋に響く。

 アンジェリカはハンカチを取り出し、涙を拭う。


 

 そんな中、イリヤは、じっと一点だけを見つめて、鋭い一言を王子に浴びせる。




「これでは、明日の演説は失敗するでしょうね」




 


 




 



 



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