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私は魔法使いなんかじゃない!  作者: いと・うさぎ
アムステール王国再建物語Ⅰ
80/235

深い深い闇のなかで

「ううっ……」

「セラフィード様! リナ様が急にお苦しみに!」


 ずっと里奈の手を拭いていた侍女が、叫び声をあげる。

 里奈は掛け布団を握りしめ、うなり声を上げ始めた。

 額から汗がにじむ。


「薬草が聞き始めた。そのまま、体を冷やしてくれ」

「はい」


 太陽がとうとう傾き始め、オレンジの日差しが窓から差し込む。

 時間が一刻一刻とせまってきていた。


 セラフィードは、ポケットから懐中時計を取り出し、時刻を確認する。

 里奈が倒れてから、もう四時間は経過している。


 高熱が続くと内臓や脳が危険になる。

 なんとかして、この熱を下げないといけない。


 こんな時に、なぜアニシナがいないのか……


 窓の外を眺めながら、ここにいない同朋を恨んだ。



                

                    ******




 皆が奮闘していた、ちょうどその頃、里奈は真っ暗闇にいた。

 なぜか足元のみが光に照らされているが、一寸先は闇……。


「おじいちゃん? ねぇ……どこ?」


 なんで、自分の人生はこうも、踏んだり蹴ったりなのだろう……

 神様は私のことがこれほどまで、嫌いなのだろうか?


 里奈はムッとしながら、取り合えず一歩踏み出してみる。

 さっきまで自分の家にいたのになぜ、急に闇に放り込まれているのか、訳がわからない。


「だれかこの状況を説明してよね。ほんと……なんなのよ」


 上を見上げても光はない。

 なぜ足元だけが光っているのか?

 この光はどこから出ているのか謎すぎる。


「あの~誰かいませんかね~。出口ってどちらですか~?」


 叫び声が反響する。

 つまり、ここは天井があるってことなのだろうか?

 里奈は首を傾げ、ぐるりと上を見渡す。


 

「さっき、変な声がしたと思うんだけど……」


 その声が聞こえた瞬間、いきなりおじいちゃんが消え、台所から暗闇の中にいたのだ。

 あの声の主が、ここへ自分を連れてきたとしか思えない。


「あの~変な声の主さん! あなたは私をここに連れてきて、何がしたいんですか??」


 見えないが、ひたすら話しかけてみる。


「いや……ちょっと待てよ……ここってまさか……死後の世界とか……」


 暗闇に沈黙が訪れる。

 そして、ちょっと間をおいて、

 

「ぎゃ――――――――あたし、死んじゃったの―――――――――――!?」


 

 誰もいない場所で、頬に手を当て絶叫した。

 そして膝を折り、両手を地面につきながら、うなだれる。



『うるさいな~。はぁ……こんなのが新しい主だなんて先が思いやられる』


 

 待ち望んだあの時の声が、どこからか降ってきた。

 里奈は、声の発信元を懸命に探すが、暗闇なので意味がない。


「ちょっと、あんた! 私をここに連れてきたんでしょ!? 私まだ、やり残したこといっぱいあるの! 早く元の世界へ戻しなさいよ~!」

 

 正座の体制で、拳を握り天に向かって突き上げる。


 やっとつかんだ出口への手がかりを、みすみす逃すわけにはいかない!


 里奈の鼻息は荒かった。


『ここはきみの中だ。ボクは、何もしていない』

「は?! 意味わかんない! ここにきてちゃんと説明してよ!」

『ああもう……うるさいな~』


 すると天井から一筋の光が降り注ぐ。

 暗闇に慣れていた目に一気に光が映り、思わず目をつむってしまう。


 ポテっ


 なんか奇妙なものが膝にあたった。

 ゆっくりまぶたを開けてみると――



「で、きみの帰りたい場所はどこなんだ? リナ・ローゼン」



 猫のような、狐のような得体の知らない生き物が膝に乗っていた。


 大きさは猫ぐらいだが、ウサギのように耳が長く、尻尾はまるで狐のよう。

 色はきつね色だが、首回りがモフモフした毛でおおわれている。


(なんだっけ……ゲームのキャラクターに、こんなのいたような……)


 

 あまりゲームに詳しくないが、ボールでモンスターを集めるゲームに出てくるあるキャラクターに、見た目がとても似ていた。


 そして、その生き物は平然と里奈にしゃべりかける。


「あれ? きみは早くここから帰りたいんだよね? いいよ、僕がきみをここから出す手助けをしてげるよ」

「……それより、あなたは猫なの狐なの?」


 次の瞬間、勢いよく尻尾を里奈の足にバチっと叩きつけた。


「いった……なんなのよぉ……気になるから聞いただけじゃない!」

「無礼者! 僕は、お前が首から下げている魔石に宿る魔獣だ!」

「またこの魔石~ほんと厄介ねこの石は……」


 里奈は、首から魔石を遠ざけながら目の前に掲げる。

 その発言も、魔獣には失言だったようで――


「お前! その魔石があったから黒魔術から一部だけでも脱することができたんだぞ!? ミストルティンがなかったらお前なんか即死だ! もういい、お前なんか助けない!」


とヘソを曲げてしまい、そっぽをむいて歩いて行ってしまう。

 里奈の呼び名も、『きみ』から『お前』へ変わっている。


(後姿がやっぱ猫よね……あ、いかんいかん!!)


 頭を切り替え、里奈は今自分の置かれている立場を思い出した。

 そして、魔獣に向かって「ちょっと待ってよ! ごめんなさい! 助けてください!」と叫ぶ。



「お前……本当に助けてほしいのか?」

「も、もちろん! お願いします!」

「どこに帰りたいんだ?」

「えっとそれは……」


 

 ふと頭をよぎったのは、あの懐かしい家ではなかった。

 ぼんやりと、思い出されるのは、美しい部屋と手入れのされていない庭園と長い廊下。

 そして、車椅子に乗った人と長身の茶色の髪の人。

 でも顔がはっきりしてこない。



「お前、黒魔術に半分記憶を持っていかれたな。忘れた記憶は、思い出したくない記憶もしくは、強く心に残っていた記憶のどちらかだろう……」

「記憶……なくしちゃった……大切な記憶……どうしよう」

「リナはそこに帰りたいのか?」


 魔獣の真ん丸のエメラルドの瞳が、里奈を見つめる。

 里奈の答えは決まっていた。


「私が戻りたい場所は、あの国のみんなの所……」










 



 

 

 





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