懺悔(ざんげ)
「殿下! リナ様は!?」
リチェーヌがすぐ、カテドラルに駆け付け、里奈の容体を確認する。
イリヤとアンジェリカ、侍女数人も彼に続いてやってきた。
「エミリアに何か飲まされていたんだ。何かの毒が全身に回ってるかもしれない。とりあえず呼吸はしてるが、意識がないんだ」
リチェーヌは、青白い里奈の顔をそっと撫でる。
唇にも血の気がない彼女は、目を閉じたまま。
「何を飲まされた特定できないと、解毒もできませんね……」
「そんな……リナ様はどうなるのですか?!」
イリヤの言葉にアンジェリカは取り乱す。
後ろの侍女たちも口を手で押さえ、泣きそうな顔をしている。
「エミリアのところに行って毒を突き止めてきます」
いきなり、リチェーヌが立ち上がる。
いつも冷静で無表情な彼はいなかった。
そんな彼を、アルフォードが急いで制止する。
「待て! そんなことをしたら、エミリアの思うつぼだ。王宮が内部から壊れるように仕向けているんだ。それに、今お前が言ったところで、奴は簡単にリナに与えた毒を教えてくれるはずがない!」
「じゃあどうするんです!? 彼女を見殺しにするんですか? 命の恩人であるリナ様を、見放すのですか?」
「そんなこと言っていないだろ!! 何かほかに方法を考えろと言ってるんだ!!」
リチェーヌが王子を黙って睨む。
そして、拳を握りしめ、近くの長椅子に叩きつけた。
「リチェーヌ、リナをベッドへ運べ。アンジェリカ、医女をすぐ呼んで来い」
アルフォードは指示を出しながら、一人で車椅子によじ登る。
それに気づいたイリヤが、彼を車椅子へ乗せ「殿下……大丈夫ですか?」と声をかけた。
「イリヤ、この国で一番、黒魔術に詳しい者は誰だ?」
「それは……やはり、アニシナ女史かと……」
「呼べ」
「え?! 彼女をですか!?」
「早く!」
「かしこまりました」
そう言って、イリヤが急いで出ていく。
リチェも里奈を抱きかかえ、扉へと向かった。
「殿下……リナ様大丈夫ですよね? 私がホームシックなんて言ったばかりに……。もっと早く気付けば、こんなことに……」
アンジェリカが目に涙をためながら、車椅子を押す。
「大丈夫だ。あいつはそんなにやわじゃない。きっとすぐ目を覚ます」
胸騒ぎがする。
今は、「大丈夫だ」と自分に、皆に言い聞かせるしかない。
リナをこんな目に合わせてしまったのは、間違いなく自分だ。
自分がちゃんと、しっかりしていないから、彼女を頑張らせてしまったのだ。
足が不自由なことを言い訳にして、いつも卑屈になっていたから、こんなことになってしまったんだ。
いつもリナを危ない目に合わせているのは自分……。
アルフォードは、静かに、動かない自分の足を何度も何度も叩く。
そんな彼を見ながら、アンジェリカは静かに車椅子を押した。
*****
イリヤはすぐさま、執務室へ駆け込み、秘書官に「アニシナ女史の居場所は分かるか?!」と叫んだ。
「アニシナ様は、確か……しばらく国を空けると言っていた気がします……。どうされましたか?」
一番近くの短髪の秘書官の男が、書類を書く手を止め、不思議そうに答える。
ほかの秘書官たちも、一体何事か? とイリヤを見つめている。
「リナ様が毒に……いや、黒魔術に侵され、お倒れになった。だれか、黒魔術に詳しいものはいるか?」
一同が、互いの顔を見合わせた。
誰も手を挙げるものはいない。
「そうか……。任務を続けてくれ」
その言葉を残し、イリヤは執務室から出ていく。
「イリヤ様……?」
ちょうど、執務室に入ろうとしていた一人の秘書官が、イリヤの口元が笑っているのを見て、眉を潜めた。
スタスタと廊下を歩いていく、彼の後ろ姿を確認した後、執務室へ入り、皆に何事かと聞く。
「ああ、よかった、セラフィード様が戻ってこられて」
「何があった?」
「今、イリヤ様が来られて『リナ様が黒魔術にかかってお倒れになった』と……」
「それで?! 容体は?」
「あまりよくないみたいで……あのアニシナ女史に連絡を取りたいと言われたのですが、今アニシナ様は国内にはおらず……」
「それで、イリヤ様はなんと?」
「そうか……といって出てかれました。あ、誰か黒魔術に詳しいものがいないかとも聞かれましたが……誰もいなかったので」
セラフィードと呼ばれた、金髪で長い髪を後ろで結わえている長身の男は、自分のデスクに座るなり、黙って顔の前で両手を組む。
さっきの彼の笑みは一体……
「セラ様?」
「お前たちは仕事を続けてくれ……私はちょっと出かけてくる」
そう言い残し、セラフィードは執務室から出て行った。




