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私は魔法使いなんかじゃない!  作者: いと・うさぎ
アムステール王国再建物語Ⅰ
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忍びよる罠

「おい、こっちにこい!」


 急にアルフォードが叫ぶ。


(こっちにこいって……なんなのよ……)


 里奈はしぶしぶアルフォードの言うとおりに、祭壇の方へ歩いていく。


 祭壇の近くにいくと、床に大きな魔方陣が描かれていて、天井から降り注ぐ光でキラキラと線が輝いていた。


「きれい……」

「リナ、魔石は持っているか?」

「持ってるけど……何?」

「自分の手のひらに乗せろ」


(一体なんなの……? さっきから命令ばっかり!)



 里奈は、彼の言うとおりに首からかけている魔石を、右の手のひらに乗せた。



「俺が今から言う言葉を復唱しろ」

「え? ちょっと、何しようとしているかちゃんと説明してよ」


 アルフォードから離れて警戒する。

 そうやすやすと、彼のペースに飲み込まれるわけにはいかない。


 アルフォードは溜息をつきながら、


「お前を自分の国へ帰してやる」


とぶっきらぼうに言う。

 

 一体この王子に何があったというんだ?!

 急に優しくなりだしてなんだか気持ち悪い。


 里奈は眉間に皺を寄せ、信じられないという顔をした。


「なんだよ。言ったからにはちゃんとこの国を再建してから帰ってほしいが……。まぁ、どうしても帰りたいというなら仕方がない。精神的に追い詰めてしまってすまない」

「……どうしたのよ。あなたが謝るなんて……なんか変なものを食べたの?」

「お前な! 人が親切にしてやってるのに……。帰りたいのだろう? それじゃあ、言われた通りにしろ!」


 彼はそう言いながら魔方陣の中心を指さした。

 そこに立てということなのだろう。

 でも、里奈の足は動かない。


(帰りたいけど……でも……)


 モヤモヤしたはっきりしない気持ちが、心の中でぐるぐる回る。

 


「どうした? 魔法使いになりたくないのだろう? このままだと、俺も、リチェーヌも国民の皆もリナを、国家魔法使いにさせる。リチェが言った作戦は確かに、この国を再建する一番の近道だ。国家魔法使いがこちら側にいるのといないのでは、全く状況が違う。それも、お前はローゼン家の血を受け継いでいるんだ。皆の期待値は必然的に高くなる。帰るなら今しかないぞ」


 真剣な目をするアルフォードを見たら、ぎゅっと胸が締め付けられた。

 

 一緒に再建しようって私がアルフォードに言った。

 アルフォードやリチェが炎から守ったのは紛れもなく『魔法の力』だ。

 

 なんで、私は『魔法使いになること』をこんなに拒んでいるのだろう?

 帰りたいから? 皆の期待が怖いから?

 

 

 考えこむ里奈に、急に激しい頭痛が襲う。

 ズキズキと痛む頭を押さえながら、立っていられるよう足を踏ん張った。


 リナの異変に気付いたアルフォードの頭に、ふとある事がよぎる。


「リナ、お前、エミリアのところで、何か飲んだり食べたりしたか?!」

「え?」


 緊迫した声で、アルフォードが叫ぶ。

 彼は眉間に皺を寄せていた。

 

「何でエミリアのとこに行ったって知ってるのよ……」

「食べて飲んだのか? いないのか?」


 里奈のスカートをいきなり引っ張りながら、アルフォードが必死で詰め寄る。

 頭痛と彼の声が脳に響いて、今にも頭が割れそうだ。


「飲んだわよ! 出されたお茶を全部!」

「お前は馬鹿か!! あいつは敵だぞ? リチェにも気をつけろと散々言われていただろうが!!」

「だって、客として出されたお茶を飲むのは礼儀でしょ!」

「そういう問題じゃない!」


(やばい……なんか本格的に立っていられなくなってきた……目が回る……)


 次の瞬間、里奈は仰向けに倒れてしまった。


 遠くでアルフォードが呼んでいるが、返事はできそうにもない。

 今はかろうじて息をするだけで精いっぱい……

 でも、ちゃんと伝えないと。


 薄れゆく意識で里奈は声を絞り出した。


「ごめん……アル……。わたし……あなたがちゃんと……えん…ぜつ…するところ……を……見届け……たい……」


「おい、リナ! おい! しっかりしろ!おい! 目を開けろよ」


 

 倒れているリナの呼吸を確認しようとするが、車椅子からは手が届かない。

「くそっ!」と唇を噛みしめ、アルフォードは倒れこむように車椅子から床へ降り、腕の力だけで、里奈の元へ進む。


「リナ、お前、大口叩いといてこんなところで死ぬなよ! 俺と一緒にこの国を立て直してくれるんじゃないのかよ!」


 

 アルフォードの脳内に、五年前の惨劇がふとよぎる――

 

 あのころから自分は何も変わっていない……

 また、目の前の大切な人を助けられないのだろうか?


「どうしたら、どうしたらいい? どうしたらリナを助けられる?」


 混乱する頭で必死で考える。

 倒れている彼女の右手の人差し指の指輪がキラリと光った。

 急いで、その指輪を確認する。



「リチェーヌ! 聞こえるか!? リナが、リナが倒れた!! 早く来てくれ!」


 

 アルフォードは必死に叫んだ。

  




 


 





 

 





 

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