リチェーヌの作戦②
「はぁ!? なんで私が魔法使いになるって話になるわけ!? 嫌だから! 絶対、人前でそんなの!」
思わず立ち上がり、リチェに詰め寄る。
しかし、リチェも負けてはいない。
「失礼ながら、はっきり述べさせていただきます」
(はっきり述べさせていただくって……さっきからハッキリ言ってる……)
その場の三人は心の中で同じことを思ったが、ツッこむことをせずに、黙って彼の話を聞く。
「殿下の演説だけでは、国民を納得させるのは不可能です。あちらには、エミリアがついている。彼は、かつての国家魔法使いで、何度もデュエロへ赴いているいわば国民の戦士。エミリアに匹敵する存在を、こちらも用意していかないと、国民は話も聞いてはくれないでしょう。笑われるだけです」
「でもあの人は、肝心な時にいなかったじゃない! それをばらせばいいでしょ!」
冷ややかに話す彼を睨みながら、里奈は反論を試みる。
「リナ様、それは逆です。肝心な時に『戻ってきた』と国民は思っているのです。彼は、今この国の唯一の魔法使いだと思われている。エミリア派はそれを利用しているに過ぎません」
「確かに、リチェーヌのいっていることは一利ある。エミリアを信じる国民の説得は厄介だ。奴をこの国の王にしようとしている一派に、ほかの国民が影響されているからな」
アルフォードは、空になったティーカップを脇へ置きながら、リチェの話に賛同した。
思っていた以上にエミリアという存在は厄介だ。
昨日話してちょっといい人かも……と思った自分が情けない。
ここにきて、また「魔法使いになれ問題」が浮上するとは……
里奈は唇を噛み、眉間に皺を寄せた。
そして――
「やる、やらないは別として、一応そのリチェの案を聞かせて」
リチェから視線をそらしつつ、強気な態度で言ってみる。
一方のリチェーヌは、じっと里奈を見つめている。
「青薔薇の魔法使い、別名ブラウエ・ローゼンと呼ばれている、黒髪の女性はこの国の……いえ、世界を救ったと言われている偉大な魔法使いです。この世界が大洪水やひどい干ばつに襲われ、水や食料を奪う為に各地で戦争を長年続けていました。彼女は、魔法で災害から土地を守り、貧困や戦争に喘いでいた民衆を一つにまとめ、世界を平和へと導いた救世主。リナ様には、その役をやっていただきます」
「は?! 無理だよ! そんなの、こないだアルフォードが私にやれって言ってきたことと、ほとんど同じじゃない! 国民を騙すなんてできない」
バチバチとバトルするリナたちをよそに、王子は机の上で優雅に紅茶を飲んでいる。
そして、隣のイリヤに、長引きそうだから食事はここに持ってくるよう指示する。
一番の当事者をそっちのけで、話はどんどん進んでいる模様――
「同じではありません。あの時と違うのは、あなたは、もうすでに魔法が使える『魔法使い』だということ。そして、実際、あの火災を消し止め私と殿下を救った救世主です」
「…………。でも、ほら、私はこの国の人じゃないし……」
リチェが急にふっと笑った。
それは嫌味だとすぐ分かる笑いだった。
「あなたは、殿下に覚悟を決めろとか何とか言っているのに、あなた自身逃げていらっしゃる。結局、あなたこそ、口だけなのでは? そして立場が悪くなったら、自分の国に帰ればいいとか思っているのでしょう?」
「そんなこと……」
否定しようとするが、うまく言葉が出てこない……
何か言わなきゃ、反論しなきゃ、と思うが頭が動かない。
「おい、リチェーヌ……急にどうしたんだ?」
いつもは、嫌味を言う立場のアルフォードが、今回はすかさず仲裁に入ってくれたが、心臓がバクバクいって彼の言葉も耳に入ってこない。
代わりに、目に涙が溢れだした。
(だめ……ここで泣くな、里奈!)
懸命に涙をこらえようとするが、コントロールできない。
耐えられなくなった涙が、ぽたぽたと膝に落ちていく。
「リナ? おい……えっと……大丈夫か?」
アルフォードが「泣いているのか?」ではなく「大丈夫か?」と聞いてくれたことに感動することもできず、里奈はすぐさま立ち上がり、扉を急いで開けた。
「おい、リナ!!」
折れかけていた心が、音を立てて崩れていく。




