ホームシックの対処法
「なんだ? その『ホームシック』というのは?」
「故郷や家庭を懐かしみ、異常に恋しがる気持ちのことです、殿下」
アンジェリカがポケットから手帳らしきものを取り出し、なにやら書き留めている。
「リナ様は、こちらに来て日も浅いです。それも今まで暮らしていた環境とかなり違う上、知り合いもいないので、心がこの状況に適応できていないのでしょう。リナ様、急に故郷のことを考えて帰りたくなりませんか?」
里奈は枕を抱えながら「帰りたい……」と、ポツリとこぼす。
「で、どうしたらいいんだ?」
アルフォードが、アンジェリカを見上げながら問いかける。
「そうですね……、とりあえず引きこもっていても仕方ないので、まずは着替えて食事をとって体を動かしてストレス発散したほうがよいかと……」
「おい!リナ、聞いたか? 早くベッドから出て着替えろ!!」
「うるさいな! 大きな声出さないでよね!」
そう言うなり、アンジェリカを残し、アルフォードは部屋から出ていった。
「リナ様、殿下はああ見えて、とてもリナ様のことを心配されているのですよ」
とクスクス笑いながら言う。
「心配してるなんて思えないよ。どうせ弱っている私を見て楽しんでるだけでしょ?」
ベッドから立ち上がり、用意されたお湯で顔を洗う。
あの性悪王子が心配しているだなんて、簡単に信じられるほど自分は純粋ではない。
きっと、何か裏があるはずだと思ってしまう。
寝巻きを脱ぎ、用意されたフリルのついていないシンプルな紺色のワンピースを着ながら、アルフォードの行動を予想する。
「リナ様、私はあなた様の側でお仕えしていて、とても毎日が充実しております。少しでもリナ様のお力になりたいと思っておりますので、なんなりと仰っていただきたいのです」
「アンジェリカさん……ありがとう」
「申し上げにくいのですが、もしや、リチェーヌ様と何かありましたか?」
いきなり的を射られてしまい、動揺する里奈は手に持っていた櫛を落とした。
それをアンジェリカが、すかさず拾い上げ、里奈の髪をとかし始める。
「えっと……別に何かあったとかじゃないのよ? ただ、その……リチェが肝心なことを教えてくれなかったから信用されていないのかなって思ってしまって。そんなこと考え始めたら、なんか色々自分のしてることに自信がもてなくなったというか……うまく皆とやってけるか不安になったというか……」
ちょっと気まずくて、里奈は早口になってしまったが、アンジェリカは、うん、うん、と頷きながら話を聞いてくれた。
それが少しだけ、里奈の心を軽くする。
「リチェーヌ様は、その方に不都合があるかもしれないことは、軽々しく口にしないお方ですから、あまり気にされなくてもよろしいかと。それに、周りとは距離を置いていらっしゃいますので、なかなか難しいところがあるのかもしれませんね。決して、リナ様のことを信用していらっしゃらない訳ではないと思います」
里奈の髪を一つに縛り、ワンピースと同じ紺色のリボンを結ぶ。
「そうかな……」
「ええ。では逆に伺いますが、リナ様はリチェーヌ様のことを信用されていないのですか?」
「もちろん信用してるけど……」
「では、好いていらっしゃるのですか?」
「!?」
里奈が、勢いよく後ろに立つアンジェリカの方を向く。
彼女はふふふっと笑いながら、ちょっと赤らめた里奈の顔を見る。
「好きとかそういうんじゃないから!! リチェはどっちかっていうと、家族とか同志に近いっていうか……」
「ほほほっ……若いって素敵ですわぁ~」
「アンジェリカさん! 誤解しないでください!」
「あら、わたくしは何も見ておりませんわぁ~ほほほっ」
「アンジェリカさん! アンジェリカってば! あ、そこの二人も今笑ったでしょ!!」
これがアンジェリカの作戦だなんて、露にも思っていない里奈は、上手く彼女の手のひらで踊らされていたのだった。




