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私は魔法使いなんかじゃない!  作者: いと・うさぎ
アムステール王国再建物語Ⅰ
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ホームシック

 昨日とはうって変わって、次の日は朝から雨で、窓を叩きつける雨音で里奈は目が覚めた。

 いつもよりちょっとだけ早く起きたが、なかなかベッドから出れないでいる。


(ああ……何もしたくない……早く帰りたい……)


 なんでこんなにもネガティブになってしまったのだろう?

 昨日のリチェとの一件以来、なぜか前向きになれないでいる。


 別にリチェが何も話してくれないのは今に始まったことではないが、最近ちょっと距離が縮まったと浮かれていただけに、ショックが大きかった。

 それも、天敵であるエミリアと血縁関係だったなんて重大な事実を伝えてくれなかった。

 もしかしたら、色々事情があるかもしれなかったが、別に教えてくれたってよかった……というか今後にかかわることでもあるんだから教えろよ!というのが里奈の内心だ。


 ベッドの中でゴロゴロしながら、悶々とする。

 

 よく考えると、この国では心を許して相談できる人がいない。

 むこうの世界では、彩花やクラスの子や部活の先輩後輩が、里奈のくだらない話から、真剣な悩みまで聞いてくれた。

 

(今や誰もいない一人ぼっち……)


 そう思うと、里奈の心はますます暗くなっていく。

 いつもならリチェに色々聞きに行くところだが、今回はそうもいかない。


「早く帰りたい……。みんな元気かな……」


 溜息をつきながら頭まで掛け布団を引っ張り上げる。


「リナ様、お目覚めでいらっしゃいますか?」


 ノック音と共に扉の外からアンジェリカの声が聞こえてきた。

 彼女の問いかけに返事をしないと、とは思うものの、今はまだ誰にも会いたくない。

 里奈はさらに深く布団に潜り込んだ。


「……まだ、お休みになられているようね。一度戻りましょう」


 複数の足音が遠ざかっていった。

 そしてまた、、雨音だけが部屋に響きわたる。


 

 里奈は、何もすることなく、ベッドの中でしばらくゴロゴロと転がり、天井を見上げている。


 こんなことをしている場合ではない。

 演説本番は明日だ。

 アルフォードの演説原稿もチェックしないといけないし、演説練習にも付き合わないといけない。

 やることは山ほどあるのに、なぜか気持ちが前を向かない。


「はぁ……なんで私っていつもこう、余計なことに首を突っ込みたがるんだろう。正義感だけ強くて、後先考えずに突っ走るのどうにかしなきゃって思ってるのに、いっつもこうなんだから……。結局、私がやってることなんて、この国の人からしたら迷惑行為というか、部外者が余計なことをして……って思われて当然だよね……。リチェだって本当はやりたいことあるのに、こんな小娘こむすめのお守りしなきゃいけなくなって、きっとうんざりしてるのよ……。だから、肝心なこと教えてくれないんだ。アルフォードだって、もしこの作戦がうまくいかなかったらもっと窮地に立たされるわけだし……」


「大きな独り言はそれだけか?」

「!!?」


 頭まで毛布をかぶったまま、声の主の方へゆっくり首を回すと、ありえない人物が部屋の中にいた。


「……あんた……いつからそこに?」


 車椅子をゆっくりベッド脇に移動させアルフォードは鼻を鳴らす。


「お前が鬱々と独り言を言い始めたところからずっと」

「!? お、お、乙女の部屋に無断で侵入するなんて、この変態!!」


 里奈はそばにある枕を掴み、勢いよくアルフォードの顔に向かって投げつける。

 しかし、ちょっとところでアルフォードは避けたので、枕は音を立てて壁にぶつかった。


「どこが乙女だ! 怪力女の間違いだろ?」

「何しに来たのよ!!」

「お前、いつまでうじうじしてるつもりだ? 演説の練習するんだろ?」


 前向きな王子の発言に、里奈は目を丸くする。

 うじうじしていたのはアルフォードだったのに、いつの間にか立場が逆転している。

 

「そうだけど……今そういう気分じゃないの。自分についてちょっと考えたいから一人にしてよ」

「…………考えてどうするんだ? 今更お前、何を考える必要があるんだ」

「だって……私この国の人じゃないし……」

「は?」


 里奈の言っていることが意味が分からないというように、王子は怪訝けげんな顔した。

 そして、近くでアンジェリカが抱えている枕を奪うと――


 バコッッ――――


 

 里奈に向かって投げつけたのだった。

 それは見事に里奈の顔にあたる。


「ちょっと! イタイじゃない! 何すんのよ!」

「さっきのお返しだ! お前言ったよな?『この国を再建しよう』って。ここにきて逃げ出すのか?」

「……逃げ出さないけど……」

「なんでお前がうじうじしているのか知らないが、一度決めたことは何が何でもやり通すのが、お前の『ポリシー』なんじゃないのか?」


 腕を組みながら里奈を見つめる鋭い目。

 アルフォードはこんな目をしていただろうか?

 里奈はいつにもまして、まともなことを言ってくる彼に、目を見張らせた。


「でも結局、誰にも信用されてないし……誰も信頼できる人いないし……友達いないし……」

「は?」

「だって、この国に来て色々あって、心細いのに結局、誰を信用していいかわからないんだもの! リチェは肝心なこと言ってくれないし、あんただっていっつも私のこと馬鹿にするだけだし、イリヤさんは何か冷たい感じするし、アンジェリカさんは何か変だし……」


 いきなり暴露を始めた里奈を王子は茫然と見つめる。

 そんな里奈を見たアンジェリカが一言。


「もしかして、これは『ホームシック』というやつではないでしょうか?」








 

 







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