帰路
あの時と同じように、里奈を前にしリチェーヌも鞍へ乗る。
そして、手綱を握りゆっくりと馬を進ませた。
日本のように、街灯は全くなく、道も舗装されていないので振動がお尻に伝わる。
前回も思ったが、馬の上は決して快適ではなかった。
真っ暗の道をひたすら進んでいく。
上を見上げると、見たこともないくらいの満点の星空が広がっていて、自然と溜息がでた。
東京にいたらこんな美しい星空は見えなかっただろう。
三日月の月も白く輝いている。
優しい風が里奈の横を通っていく。
どんどん王宮へ近くなっていくのに、二人は黙ったままだった。
(別に怒っていないけど……なんか話しかけれない……)
馬の蹄の音だけが夜道に響いていた。
リチェは自分のことを守りたいとか言っときながら、肝心なことは教えてくれない。
そもそも、彼は自分が魔法使いだってことすら教えてくれなかった。
自分は信用されていないということなのだろうか……?
やっぱり彼は、この国のことに関わらず、早く帰ってほしいと思っているのだろうか……?
さっきまでエミリアに対抗していた強気な里奈は、もはやいなかった。
街中に入っても相変わらず、誰も歩いていないし、通り過ぎる家からも薄っすらと明かりが漏れているだけ。
それが、さらに里奈の心に影を落としていく。
里奈が落ちないようにと、リチェはずっと体を片手で支えてくれているが、今やそれすら里奈のモヤモヤを増大するだけだった。
(聞いても本当のことは教えてくれないだろう……)
里奈はずっと王宮につくまで、黙って俯いていた。
*****
「おかえりなさいませ」
王宮に着くと、アンジェリカが明るく出迎えてくれたが、里奈は小さく「ただいま」と言うだけだった。
そんな里奈を見たアンジェリカは、「どこか体調が悪いのですか? 医女をお呼びいたしましょうか?」
と心配そうに言う。
「大丈夫だから、ちょっと慣れないことして疲れただけ」
「お食事はいかがいたしますか? 殿下も召し上がっておりませんので、ご一緒に召し上がられますか?」
(あいつの相手してる元気はないんだけど、一応居候の身だし、あんまり皆に迷惑かけちゃだめだよね……)
「一緒に食べます。アルフォードはどこにいますか?」
「いつも食事を召し上がっているお部屋でお待ちです」
そう言われた里奈は、アンジェリカの案内のもと、とぼとぼと廊下を歩いていく。
あの王子が自分の帰りを待っていたかどうかは、正直嘘のような気がする。
きっと、アンジェリカが気を利かせて言ってくれているだけだろう……
アンジェリカは、ゆっくり二回ノックし「殿下、リナ様がお戻りになられました」と扉に向かって言った。
(早くご飯食べてさっさと寝よう……)
里奈の気分は落ちたまま。
普段ポジティブな人が、一度ネガティブ思考に陥るとなかなか抜け出せないものだ。
そして、この世界では里奈を励ませる人は今のところいなかった。
ゆっくりと扉が開かれると、目の前にはいつも通りの性悪王子がふんぞり返っていた。
そして、里奈に向かって、
「お前、一体何時だと思ってるんだ! お前は時計も読めんのか?」
と暴言を吐いた。
(やっぱり一人で食べるっていえばよかった……)




