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私は魔法使いなんかじゃない!  作者: いと・うさぎ
アムステール王国再建物語Ⅰ
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エミリアとの約束

 エミリアはじっと里奈を見つめる。

 そして、溜息をつきながら、


「いいじゃろう……。明後日のその殿下の演説とやらを聞くまで、何もしないと約束しましょう。ただし条件がある」


(げっ……また条件……!?)


 里奈は明らかに嫌そうな顔をした。

 そんな里奈に、かまわずエミリアは続ける。


「今王宮に捕まっている者たちを解放してほしいのじゃ。彼らは我々からあなた方に危害を加えないよう徹底する。そして、彼ら含めた国民たちとと一緒に、演説を聞きに行くことを約束しよう」


 里奈は一瞬考え込んだが、この条件をのむほかない。


「わかりました。演説中も襲撃しないよう見張っててください」

「承知しました」



 言いたいことと、確認したかったことが一通り終わったので、出されたお茶を全部飲みきって、里奈は扉へ向かう。

 

 すると、エミリアが後ろから、


「リナ様、あなたの母君はいつ亡くなられたのじゃ?」


と意外な質問を投げかけてきた。

 

「私が三才の時に事故で……」

「事故……?」

「はい。私は小さかったのでよく覚えていないのですが」

「そうですか……」


 エミリアはしばらくその場で黙り込み、何かを考えているようだった。

 里奈は、それが何と関係あるのか? と首を傾げる。


「それでは失礼します」

「外まで送ろう」


 エミリアが横に並び、二人は来た廊下を戻る。 

 すっかり日が暮れていて、窓の外は闇に包まれていた。

 さすがにこの夜道を一人で歩くのは危険かもしれない。


「その指輪はリチェーヌが?」

「え? はい、そうです……」


(げ、バレバレじゃん! 気づいていないと思っていたんだけどな)


 バレているのに人差し指にはめられた指輪を、さっとスカートの裾で隠す。

 そんな里奈の反応を、鼻で笑いながらエミリアは、会話を続けた。


「あいつは元気にしておりますか?」

「ええ……。えっと、お知り合いですか?」

「知り合いも何も、奴はわしの一応、孫じゃよ」

「え―――――――――!?」


 里奈は急に足を止め、エミリアの方を向き、今日一番の大声を上げた。

 

(なんでリチェは、そんな大事なこといってくれなかったのよぉ!!)


 わなわなと震えている里奈をみて、エミリアも彼女が何を考えているのか理解した。


「奴は、ナイトレイ家を捨てた。あの事件当時この国にいなかったわしのことも恨んでおるからな。それに、あいつの性格上、ペラペラ自分のことは話さないじゃろう」

「確かに……ペラペラ話す方じゃないけど……でも!」


 ほっほっほっ……と笑うエミリアを横目で見る。

 笑い顔がどことなく祖父を思い出させた。

 本当は悪い人じゃないのかもしれないが、今はまだ信用できない。


「奴はわしのように悪い奴ではないから、大目に見てくだされ」

「はい。あの、あなたは私の母のことも知っているのですか?」


 思い切って、エミリアに聞いてみる。

 実際、里奈は母親と父親が思い出せない。

 多分小さかったからだと思うが、手元には写真すらなく、この間夢で見た母親の顔もおぼろげだった。

 少しでも、お母さんのことが知りたい……

 

 眉間に皺をよせ、真剣な眼差しで見てくる里奈に、エミリアは微笑み――


「よく知っておりますぞ。母君はとても聡明でおてんば娘じゃった」

「へぇ……」

「そしてよくメアリーに似ておった」

「おばあちゃんに?」

「残念じゃが、迎えがきておるようじゃ。機会があればいくらでも話しますぞ。機会があればじゃが――」


 エミリアは目を細め笑みを浮かべながら言った。

 何か違和感を感じたが、見間違えかと思いスルーする。

 

 そして、入口の扉を開けると、茂みの奥に人影が見えた。

 多分リチェが迎えに来てくれたのだろう。

 ほっと胸をなでおろし、里奈はくるりと向きを変え、エミリアに一礼する。


「約束必ず守ってくださいね」

「我々の心配よりも、あなたは殿下がちゃんと、ひるむことなく演説できるか見ていた方がよいじゃろう」

「忠告どうも。さようなら!!」


 そして里奈は茂みに向かって駆け出した。


(とりあえず、任務完了!)


 人影が見えた辺りを見回しながら、小さく呼びかける。


「リチェ? 来てくれたの?」


 茂みをのぞき見ると、リチェーヌが木の陰から出てきた。

 

「リナ様、ご無事ですか? 何かされませんでしたか?」

「うん。大丈夫だよ。来てくれてありがとう」

「早く王宮へ戻りましょう」


 そう言って、リチェは門へ続く道を警戒しながら歩いていく。

 門番がキッと睨んできたが、こちらも鼻を鳴らし彼らを睨みつけた。

 

(これでとりあえず、身の安全は守れそうね……キング牧師みたいに襲撃されたら水の泡になる……)


 木の枝につながれていた馬の手綱をほどくリチェを見てたら、はっと、さっきの件を思い出した。

 そして馬を引くリチェに詰め寄り――


「なんで教えてくれなかったの!? リチェのおじいさんがエミリア様だってこと!」

「聞かれませんでしたので……」

「え?! 聞かれなかったから答えなかったの? そういう問題?」


 問い詰める側なのに、逆に不利な立場になる。

 確かに、こちらも聞かなかったが、全く事情を知らない人は、リチェとエミリアが親族だなんて夢にも思わない。

 里奈はムッとしながら、地面に落ちている石を蹴る。

 結局、彼との距離は縮まっていないのだ。


「怒ってますか?」

「……別に……怒ってない!」


 なんでこんなモヤモヤした気分になるのか、里奈には説明できない。

 かといって、リチェにニコニコ笑いかける気分でもなかった。


「あの時のように、馬に乗れますか?」


 リチェが手を貸してくれようとしたが、里奈はあぶみに足をかけ一人で鞍に上がった。

 



 


 

 


 



 




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