逃げた理由
今までペラペラ話していたエミリアが急に言葉を詰まらせた。
里奈の予想通り、心に響いたようだ。
「あなたは、五年前までは国家魔法使いだったと聞いています。でも、あの事件の少し前その職務を放棄し国外に逃げた……違いますか?」
強気で質問を投げつけると、静かな声で「ああ……そうじゃ」と呟いた。
「国家魔法使いは皆この国のために戦ったのに、なぜあなたは職務を放棄したんですか? 何か理由があったんですよね?」
この情報は、少しでも何かエミリアに対抗できるものがないかと思い、リチェに教えてもらったものだ。
ある意味、里奈の唯一の切り札だった。
「確かに国を去ったが、職務を放棄したわけではない。しかし、そう思われても仕方のないことじゃ」
「どういうことですか?」
せっかくの切り札を無駄にしないよう里奈はエミリアに話を促す。
そして、ティーカップをゆっくり口に運びながら、
「あなたは、この国の、そして世界の情勢を知っておるのかね?」
と逆に里奈に質問する。
(これはまたもや試されているのだろうか……?)
ちょっと考えて、
「少しは……五年前のこととか、デュエロのこととか……魔法使いがいなくなってしまったこととか……」
と、うやむやな返事をしてみる。
絶対鼻で笑われると思ったが、さっきまでの勢いは彼にはなく、遠い目をしながら一人語りだした。
「国家魔法使いがいなくなったのは、我らナイトレイ家に力がなかったからじゃよ。何度もデュエロで負けてしまった。その当時、我々ナイトレイ家は、もてはやされていたローゼン家に対抗心を燃やしておったのじゃ。ローゼンの血に敵うわけがないのに、闘争心と手柄をあげたいばかりに、自ら進んでデュエロに向かった……そして、ナイトレイ家の魔法使いたちは国外へ連れて行かれてしまった……」
『負けた魔法使いは、勝利の国へ引き渡すというのがルールですので、死も同然です』
あの日のリチェの話が蘇り、膝の上で拳を握る。
「わしは、敵国へ連れて行かれた者たちを助けるためにこの国を出た。その時はまだアムステールには余力があったから大丈夫だ、そう思ったのじゃが……それが大きな間違いじゃった。気づいた時にはもう全てが終わってしまった後。一族の魔法使いを取り戻すこともできず、国家魔法使いとして陛下たちをお守りすることもできず、わしは無意味な存在じゃよ」
「後悔してるなら、なぜアルフォードに協力してあげないんですか?! 今助けるべき人でしょ?!」
里奈は声を張り上げた。
エミリアの話を聞いたらますます納得がいかない。
なんでそこでクーデターということになるのか里奈にはさっぱり理解できなかった。
「デュエロをするように仕向けたのは前国王陛下じゃ。あの方は政治を間違えさえしなければ、こんな状況にはならんかった。それに、一番助けるべき存在は国民ではないかね?」
「そうだけど……でも……」
「わしも、国民のみんなも初めは殿下に同情した。しかし、もうあれから五年経った。これ以上、国民たちを苦しませるわけにはいかんのじゃよ。それがわしの償いじゃ!」
「そんなの、償いなんかじゃない! 人を殺そうとしている革命が償いなんて絶対おかしい! ちゃんと話し合うべきじゃないの? あなたも、アルフォードも国民のみんなも願っていることは同じじゃないの? 誰かを傷つけるとまた復讐の連鎖が始まるだけだよ!」
里奈は必死でエミリアに訴える。
アルフォードだけでなくこの人の性格もひん曲がっている。
なんて世話の焼ける国なんだ!
里奈は心の中で悪態をついた。
そんな必死な里奈とは裏腹に、エミリアは余裕の表情だ。
「話し合って解決するならとっくにやっておる。この問題はそんなに簡単じゃ――」
「やってもないのに言わないでよね! そんな大口叩けるのなら、黙ってとりあえずアルフォードの演説聞いてよ。その話を聞いて、今後暴動に走るのか、アルフォードに協力するのか皆で決めて」
里奈は再び立ち上がり啖呵を切った。




