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私は魔法使いなんかじゃない!  作者: いと・うさぎ
アムステール王国再建物語Ⅰ
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お守り

(この人……私のことを試してるんだろうか?)


 里奈は率直に感じた。

 

 一人で敵地に赴く覚悟がないと、エミリア様には会わせない。

 それがあなたに出来るかしら?

 

とでもいうような口ぶりだ。


(いちいちムカつくのよね……この人……)


「リナ様……それは……」

「一人で行けますから会わせてください!」


 リチェが警告しようとしたが遅かった。

 里奈が啖呵たんかを切ったので、リチェはどうしようもない。


「あら、男前ねぇ~。いいの? 敵地でしょ?」

「自分の身は自分で守るために、剣道をやっているので平気です」

「ケンドウ? 何かの武術かしら……でもあなた女の子なのよ~?」


 剣道をやってるから大丈夫とは言えないが、ここで逃げ出すわけにはいかない。

 あのおじいさんにも、あの作戦を企て実行した人たちにも、ちゃんと伝えないといけないことがある。

 

 里奈は心の中で自分を奮い立たせ、強い眼差しで神父を見つめる。

 部屋に一瞬だけ静寂が訪れた。


「わかったわ。エミリア様へアポ取ってあげるから、ちょっと待ってなさい」


 里奈の本気が伝わったのか、そう言い残し、神父は部屋から出ていく。

 見返りを請求されるかと思ったが、とりあえず保留にして頼みを聞いてくれたようだ。



 里奈は安堵あんどして、ソファにもたれかかった。


「リナ様、一人でいくなんて危険過ぎます。何かあったらどうするのですか?」

「大丈夫だよ、多分」

「あいつらは、殿下を殺そうと企てた人たちですよ。何もしてこないと思っているのですか?」

「…………でも一人じゃないと会わしてもらえないし」


 イリヤはそんな里奈に近づき、彼女の目線の高さに合わせひざまずく。


「よく考えて行動してください。何かあっては遅いのです。あなたは、この世界から早く去るべき方なのに、この国の事情に足を突っ込みすぎです」


 勢いよく責めたててくるが、里奈は目を泳がせた。

 心配してくれてるのはよく分かるのだが、ちょっと距離が近くはなないか……?

 リチェとちょっと離れつつ反論を試みる。


「そうかもしれないけど……ちゃんと最後まで見届けるって決めたの。今更後に引けない」

「エミリア様に会うのがそんなに重要ですか?」

「重要よ。だって、アルフォードを狙うとしたらあの人たちなわけだから、ちゃんと釘をさしておいた方がよくない? それに、やり方が卑怯だって言ってやりたいし」

「あなたの命を懸けてまですることですか?」


 リチェの茶色の瞳が怖い……

 里奈は、視線を彼の瞳から逸らす。


 

 別に命を懸けてしようとか思っていない。

 でも、リチェがそこまで言うのだからかなり危険なのだろう。

 

 さっきまでの勢いがだんだんしぼんでいった。

 そうこうしているうちに、神父がやってきてしまう。

 ここで止める訳には――



 すると、彼は首からかけていたものを外し、里奈の前に差し出した。


「どうしても、行くというなら止めません。ただし、これを必ず身につけていてください」


 彼の手のひらにあるのは、小さい青い石のはまっているリングだった。

 そして、リチェは里奈の手のひらにのせる。


「もし、何かあったらすぐあなたの元へ駆けつけれるように――」

「でも、大事なものなんじゃ……」


 里奈はそのリングをまじまじと見ながら、彼に問いかける。

 

 確かシルバーリングって高価なものなんじゃないか……

 それも、リングには幾何学模様の彫りが施されているので、とっても貴重なアンティークではないのだろうか?

 

 普段アクセサリーを身に着けない里奈でも、普通のリングでないことがすぐわかった。


「それは、あなたの祖母メアリー様の形見の指輪です。あなたに何かあれば、私の持っている魔石に知らせてくれますから」

「そんな大切な形見落としちゃったら困るよ!」


 里奈が勢いよくリチェに指輪を差し戻す。


「そもそも落としたら、あなたを探せないので、絶対に落とさないでください」

「うっ……そうだけど……でも!」

「前に話した通り、私はメアリー様にお仕えしていました。残念ながら、彼女を守り抜くことができなかった。だから、絶対にあなただけは絶対に守りたいのです。理解していただけますか?」


 彼の茶色い瞳に光がともり、窓から入ってきたそよ風が彼の前髪を揺らす。


(五年前の事件……)


 リチェが自分を責め続けていることがよくわかっていたので、里奈はコクリと頷く。


「大丈夫。私は簡単に死んだりしない。無茶なこともしないように約束する。だから指切りをしよう」


 そう言って、今度はリチェの前に自分の右手の小指を差し出した。

 指切りの仕方がわからないリチェは、首を傾げる。


「日本ではね、約束を守る誓いを立てるときにやるんだ。こうやって小指を立てて、互いの小指にかけて『指切りげんまん嘘ついたら、針千本の~ます、指切った』っていうのよ。いくわよ」


 されるがままに、リチェの小指は里奈の小指に絡ませさせられ、上下にぶんぶん振られる。

 


「指切りげんまん嘘ついたら、針千本の~ます、指切った! よし、これで大丈夫!」


 手を離した瞬間、今度はリチェが里奈の手を取り、手のひらの指輪を回収する。

 そして、優しく、里奈の右手を取り、人差し指にはめた。

 その動作があまりにも優雅なので、里奈は少し俯きながら目を瞬かせた。

 

(なにこのシチュエーション……漫画じゃないんだから!)


 里奈が自分を保とうと必死なことなんて全く知らないリチェは、里奈の右手の上に自分の手を重ねて――


「この指輪に宿りし魔力よ、わが主をどんな危険なものからも守りたまえ。リチェーヌ・ナイトレイが命じる」


 すると、指輪の青い石がそれに応えるかのようにきらりと光った。






 

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