里奈の頼みごと
雲の多い昼下がり――
里奈は小さな紙袋を携え、あの教会に来ていた。
リチェーヌが「入られますか?」と里奈に尋ねる。
「うん。借りたこの服返さないとだし、私の大事な制服も回収しないと……」
その紙袋には、洗濯してもらって綺麗にアイロンがかけられたワンピースが入っている。
それは、あのオネエの神父が貸してくれたものだ。
借りたものは返す主義の里奈は、教会の扉を叩いた。
「どちら様ですか?」
中から、一人の若い女性が出てきた。
首にはロザリオ、黒い修道服を着ているので、彼女はシスターだろう。
「あの……この間、神父様に服を貸していただいたので、お返ししたいのですが」
「…………少々お待ちください」
そう言ってシスターはまた中に入っていった。
一応今回は無難な膝下ぐらいのフリル少な目ワンピースを着ているのだが、不審者に思われたようだ。
里奈は、しばらく扉の前で待ってみる。
「会えると思う?」
いつもの無表情で隣に立っているリチェに話かける。
「どうでしょう。向こうは我々を警戒していると思うので、確率は低いかもしれません」
「そうだよね……明らかにスパイだもんね……」
すると、再び扉が開き、さっきのシスターが「どうぞ」と二人を招き入れた。
里奈とリチェは顔を見合わせ、指示に従い中に入る。
この間連れて行かれた時とは違う通路を歩いていくと、突き当りにきれいな装飾が施された扉があった。
その扉をシスターが軽くノックすると、中から「どぉぞ~」と緊張感のない、無理に高くした声が返ってきた。
里奈とリチェーヌが中に入っていくと、
「こんにちは。スパイのお嬢ちゃん。元気にしてたぁ?」
(出た……オネエ神父……)
この間の神父が目の前に立っていた。
「こんにちは……。この間は服を貸していただき、ありがとうございました。あの、借りてた服をお返しに」
里奈は低姿勢で紙袋を神父に渡す。
「あら、わざわざどうもね~。で、本題はこれじゃないんでしょ? あ、フリン、お茶三つ持ってきてくれる?」
「かしこまりました」
そう言ってシスターは出て行ってしまった。
部屋には、オネェと里奈とリチェのみ。
とりあえずお掛けなさい、と目の前のソファに二人を誘導し、自らも一人がけの椅子に座る。
(うっ……鋭い。さすが聖職者は違うわ……バレてるなら仕方ない……)
里奈は腹をくくって神父を見つめる。
「はい、そうです。お願いがあってきました」
「お願い? どうしようかしらぁ~それを聞いたらあなた何が私にしてくれるわけ?」
(聖職者なのに見返りを期待するわけ? このオネェ……本当にこの人は神父なの?)
「じゃあ何をしてくれたら、私のお願い聞いてくれますか?」
「そうね、あなたの願いに見合う対価を要求するから、まずはあなたの願いを言ってちょうだい」
神父は里奈の鼻に指を当て、にやりと笑う。
完全に里奈はおちょくられていた。
なんだこのイラッとする感じは……
里奈はムッとしながら自分の頼みごとを言う。
「エミリアっていう人が、あなたたちのリーダーですよね? あの人に会わせてもらいたいんです」
「エミリア様に? どうして?」
「直接伝えたいことがあるので」
腕を組み首を傾げ、里奈をじっと眺めるオネェ神父。
一体この子は何をしようとしているのか?
彼の目はそういう目だった。
一方、側についているリチェは、黙って彼をじっと監視するように見つめている。
「直接伝えたいこと? 王宮を襲うなって言いにきたの?」
「それもあるんですけど……ちょっと違います」
「ふうん。ま、いいわ」
(ま、いいわって……聞いといて何なのよ!)
里奈は心の中で一人つっこむ。
なんか、さっきからこの人と話しているとペースが狂う。
里奈は視線を足元に下げて深呼吸をし、ペースを立て直そうとしたその時――
「会わせてあげる」
さらっと神父が言った。
対価がどうとか言ってたのは一体なんだったのか?
里奈は首を傾げて彼を見つめる。
「ほんとですか?」
「ええ、いいわよ」
よし!と一人ガッツポーズしながら里奈はうれしそうにリチェを見る。
「でも~私はついていかないし、そこのイケメンの彼も一緒に連れて行けないけどいい?」
神父は出した条件は、里奈一人で敵地に赴くことだった。




