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私は魔法使いなんかじゃない!  作者: いと・うさぎ
アムステール王国再建物語Ⅰ
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原稿を考える

 次の日から、アルフォードと里奈は、執務室へこもり演説の原稿作成に取り掛かった。

 しかし、最初から二人がうまくいくことはない。

 部屋からは言い合う声が漏れて、通りかかる侍従や侍女を驚かしていた。


「だから! なんでそんなにあんたは上から目線なのよ! そんなんじゃ伝わるものも伝わらないでしょ!」

「うるさいな! じゃあ、どこがどう駄目なのか言ってみろ」

「最初からよ! 『国民の諸君、アムステール第二王子ことアルフォード・ヴィ・アムステールがわざわざお前たちの前に出てきて話をするのだから、ありがたく思いたまえ』って、国民の誰もあんたに演説してくれなんて頼んでないし、ありがたいなんて思ってないわよ。最初が肝心だって、さっきから言ってるでしょ」


 里奈は、彼の書いた原稿分に赤ペンで大きく×を書いた。

 これで二十枚目の紙が没になり、机の隅に追いやられていく。

 けちょんけちょんに言われたアルフォードは、ムッとした顔で頬杖をつき、里奈に反撃する。


「じゃあ、お前が書けばいいだろう!?」

「それじゃ意味ないでしょ! 例えば、キング牧師の演説は『I have a dream. One day ~』って感じで語りかけて演説してるでしょ?」


 里奈はそう言いながら、昨日アルフォードに見せた英語の参考書を再び開く。

 まさか、高校の参考書が一国の王子の演説の資料に使われているとは、出版社も驚きだろう。

 里奈自身もまた、重いだけの参考書や教科書が、この世界で意味のあるものになるなんてびっくりだった。


「……キング牧師って誰だ?」

「え? えっと……アメリカの人種差別撤廃を訴えノーベル平和賞を受賞した人よ……。昔、私たちの世界の一部の国では、人種によってトイレとか、公共交通機関とかレストランとか分けられていたの。で、キング牧師は皆の前で人種によって差別されるのはおかしい、って訴えて黒人の人たちは勇気を与えた。これはその演説文の一部よ」

「ふ~ん」

「……あんた、ふ~んて……なによ。人が説明してあげたのに」


 アルフォードは里奈の差し出した参考書をじっと見ている。

 ちょっとは何かいい言葉を思いついたのだろうか?

 っていうか思いついてくれないと困るのだが……


「殿下、リナ様、お取込み中申し訳ございません。その演説の日程は如何致しますか?」


 イリヤが気まずそうに近づいてきて、アルフォードと里奈の顔色を覗う。

 

「あ、そうだよ。いつやるか決めないと、集まってもらえない! どうする? 流石に明日は無理だし、でもさっさとやらないと、また皆の怒りが爆発しそうだし……」

「三日後、城門前で執り行う」


 読んでいた参考書を机に置き、真剣な目でアルフォードはイリヤに言った。

 里奈が口を挟もうと思ったが、それよりイリヤが「かしこまりました」と一礼して出て行ってしまう。

 それは一瞬の出来事だった。

 なんで、大事なことを一瞬で決めたのか里奈には理解できなかったが、三日後には何か意味があるようだった。


(本当に三日後で大丈夫なのかしら……。原稿間に合うの?)


 

 一方の王子は、余裕しゃくしゃくなようで、英文を眺めながら、


「一人で考えるから、お前はもういいぞ?」


と里奈に言う。


「え……本当に一人で大丈夫? 三日後でしょ?」

「お前がいるとぎゃあぎゃあ五月蠅くて集中できない。この本があれば大丈夫だ」


 彼がそういうのだから、仕方がない。

 文章を考えるのはアルフォード自身ではないと意味がないと思っている里奈は、彼の言葉を信じ部屋を出ていくことにした。


「頑張って」


 そう一言だけ残し、里奈は静かに扉を閉めた。



 キング牧師は素晴らしい演説を各地で行った。

 しかし、彼は遊説活動中に暗殺されてしまったのだ。

 アルフォードには伝えたくなかった部分であり、伝えられなかった部分――


 アルフォードには、キング牧師のように皆の心に希望を与えるスピーチをしてほしい。

 でも、絶対にキング牧師のようにはならないでほしい。

 ムカつくことが多い奴だけど、死んでほしくはない。


 里奈は、深く深呼吸した。

 そして、扉の前に控えていたリチェーヌに向かって、


「お願いがあるの」


と真剣な表情で言う。

 




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