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私は魔法使いなんかじゃない!  作者: いと・うさぎ
アムステール王国再建物語Ⅰ
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暗い夜

 里奈は、王宮に連れてこられた綺麗な部屋にいた。

 あの時のまま、里奈の鞄がテーブルの上に置かれたままだった。


 夕食の準備ができたら呼びに来るといって、リチェは部屋から去っていった。

 一人になりたい里奈の心情を察してくれたようだ。


 優しい明かりが灯された広い部屋で、里奈はベッドに仰向けに寝転がる。

 部屋には静寂しかなかった。

 ゴロンと寝返りを打ちながら、里奈はテーブルに置かれている鞄を見つめる。



 一体、自分に何ができるというのか……?

 部外者の分際で、何も知らないのをいいことに、人の心をずけずけと荒らしていただけなのではないだろうか?


 大きく深呼吸をしても、心が落ち着くことはない。

 リチェから聞いた話は、里奈の心に重く影を落とした。


 両親を殺されたアルフォードも、慕っていた人が瀕死なのに助けられなかったリチェも、面会した民衆の人たちも、みんな心に傷を抱えたまま……


 違う世界から来た自分は、彼らにどう接すればいいのだろう?


「う~」


 里奈は唸りながら、ベッドにのた打ち回ってみても、頭の中はぐちゃぐちゃのまま。


「あ~もう! 私らしくない! こんな時は勉強するに限るわ!」


 そう言いながら、テーブルの上の鞄を開ける。

 そこには、来るときに詰め込んでいた参考書や教科書たちが綺麗に収まっていた。

 あの引ったくり泥棒に投げつけた参考書もちゃんと入っている。

 きっと、リチェが拾って入れてくれたんだろう……

 泥一つついていない参考書を、手に取り握りしめた。


「この国で使えそうな英語でもやるか……」


 本当なら一番見たくない英語の参考書を取り出し、椅子に座ってペラペラめくる。


「ああ……高校に通っていた頃がずっと昔に感じる……」

 

 そんなこと言っても自分で決めた道だ。

 ここに残って、この国をどうにかしてから帰ると決めたのは自分自身。

 無駄に正義感の強い自分の性格を、恨めしく思う。


 すると、ひとつの英文に目が止まった。


 

 Be of good cheer. Do not think of today's failures, but of the success that may come tomorrow.  ~ Helen Keller ~


『元気を出して。今日の失敗ではなく、明日訪れるかもしれない成功を思いましょう』

 ~ヘレン・ケラー~



「ヘレン・ケラー……」


 里奈は、『ヘレン・ケラーの生きた道』と題したその英文を読み始めた。

 ヘレン・ケラーは見る・聞く・話す、重複する障害の身体でありながらも、世界各国を訪問し障碍者の福祉や教育に尽くした女性だ。

 


 Although the world is full of suffering, it is full also of the overcoming of it.

 『世の中はつらいことでいっぱいですが、それに打ち勝つことも満ち溢れています』


 We can do anything we want to if we stick to it long enough. 

『こつこつと気長にやれば、人が望む、どんなことだってできるもの』



 里奈はゆっくり一文ずつ訳していくと、その言葉は今の里奈の心にしみていく。

 読み進めていけばいくほど、その言葉をアルフォードやリチェに伝えたくなった。


 

「分かってもらえないと思うけど、何もできないかもしれないけど、私が諦めちゃだめだよね……そうだよ、信じないとだめなんだよ」


 大きな独り言を叫びながら、里奈は必死で読んでいく。

 途中、ペンや紙がないかと立ち上がると、ドアのノック音が聞こえた。


「リチェ? ご飯の準備ができたのね!」


 里奈はいそいそと扉を開けると――



「話の続きを聞きに来た」


 

 車椅子にのったアルフォードが扉の外で待ち構えていた。




 


 

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