デュエロ
「魔法使いはこの世界では『武器』と同じ――。より強い魔法使いが国にいるということは、無敵の武器を持っていると同じことです。その武器を使ってこの世界は戦争をしています。かつては国民から選出された兵士が敵地に赴き戦争を行っていましたが、多くの命が失われ損害も大きいことから、世界的にそういった戦争は禁止になりました。その代わりに、それぞれの国が保持している魔法使いを戦わせる『デュエロ』という手法に切り替わりました」
「デュエロ……?」
里奈は眉をひそめた。
戦争という言葉に、ドキリとする。
今までいた里奈の世界と、この世界が「戦争」という言葉でつながってしまう。
どこの世界でも争いは起きているのだ。
「その国の代表である魔法使いを一対一で戦わせる『戦争』です。負けたら、相手の要求を呑まないといけない。魔法使い一人に国の全てをかけて戦わせる残酷な戦争です」
「そんな……。まさか、相手が死ぬまで戦わせるんじゃないよね?」
「それはありません。魔法使いは世界でとても貴重な存在ですから。しかし、負けた魔法使いは、勝利の国へ引き渡すというのがルールですので、死も同然です。私たちはそういった戦いを、何十年も行ってきた。アムステールは、魔力の強い魔法使いに恵まれていたので、たとえ他国からデュエロを申し込まれても、ほとんど勝つことができた。ローゼン家が滅ぶまでは……」
太陽がだんだん沈み始め、当たりをオレンジ色に染めながら二人の前に長い影を作り出す。
風も先ほどより冷たく感じ始めたので、リチェーヌが自分の上着を里奈の肩にかけた。
その時、彼の手がかすかに震えているような気がした。
(リチェ……?)
彼の顔を覗き見ると、眉間の皺がさらに深くなっていた。
それでも彼は話を続ける。
「ローゼン家はこの国の一番の魔法使いの家系。あなたの祖母にあたるメアリー・ローゼン様は世界でも名を轟かすほどの力の持ち主だった。そして、あなたのお母様のレイラ様も……。先代も先々代の国王陛下も、ローゼン家の者を『デュエロ』に積極的に送り出した。ずっとローゼン家たちのおかげで、勝ち続けてきたアムステールは『デュエロ』は賭け事としか思わなくなっていた。彼女たちの力が底を突き始めていることにも気づかず、戦場へ送る日々……。そして、ローゼン家を慕っていた民衆がとうとう暴動を起こした」
「暴動!? 民衆が?」
「ええ、ローゼン家はとても民衆にも慕われていましたから。どんなものでも、志さえあれば道は開かれると説き、貧しい民衆にも施しを与えていたんです。そんな彼らを一人で戦地へ送り出す王宮に腹を立て、クーデターが起きました」
里奈は地面に出来た自分の影をじっと見つめる。
一人で全てを背負って、戦いに行く気持ちを想像したら吐き気がした。
負けたら奴隷のように扱われるかもしれない、自分のせいでいろんなものが奪われていく恐怖。
自分だったら逃げたくなるだろう。
里奈の目から涙が自然と溢れていく。
「国が滅ぶときは、外からではなくほとんどが内部からです。前国王陛下は国民をこの土地を守るために仕方がなく、魔法使いを戦地へ送るしかなかったのでしょうが、周りから見れば、魔法使いを軽んじて見ているようにしか映らなかった。国から奪われていく貴重な国家魔法使いを、取り戻したい一身で国民は王宮に訴えました。しかし、メアリー様によって彼らは鎮圧された」
「え? なんで? 自分のために起こしてくれてるのに?」
自分のために怒ってくれている人がいる――
それだけでも心強く感じただろう。
里奈は会ったこともない顔もしらない祖母の気持ちを想像してみる。
「国家魔法使いが戦場に送られるのは当然のこと。身を盾にし時には剣となり、アムステールを守るのがローゼン家の務めだと。メアリー様は、この時にはとうとう最後の国家魔法使いになってしまい、自分の家族を全て失っていたというのに……それでも毅然な態度で、暴動を起こした国民に語りかけて争いを収めて下さった。本当に素晴らしい偉大なお方です」
「そうなんだ……」
リチェからは尊敬の眼差しが感じられた。
彼もまたメアリー・ローゼンのことを慕っていたのだろう。
自分のことを褒められている訳ではないのだが、彼女と同じ血が自分にも流れていると思うと里奈も誇らしい。
リチェは一瞬笑みを見せたが、すぐいつもの無表情に戻す。
「しかし、その直後に悲劇は起きた。『デュエロ』で他国から手に入れた魔法使いに、何者かが力を貸し、王宮に攻め入らせたのです。複数の魔法使い相手に、メアリー様だけでは太刀打ちできなかった……。結果メアリー様は破られ、彼らは前国王陛下や前王妃様、そして、二人の王子に襲いかかった」
ごくりと里奈はのどを鳴らす。
強い風が里奈の背中に駆け抜け、後ろ髪と近くの木の葉を舞い上がらせた。
誰も通らないこの場所は、リチェーヌの声だけが響いている。




