闇の入り口
咳払いをしながら、リチェーヌは説明の続きを再開する。
まずいことを言ってしまったのだろうか?
リチェの顔をじっと観察すると、ちょっとだけ耳が赤くなっている。
(もしかして照れてる……?)
「リナ様? 話を続けてもいいでしょうか?」
「あ、はい! どうぞ!!」
「水龍を召喚したときに何か話しませんでしたか?」
「話したよ。確か、ウォーティって呼んで下さいって。あと何か言われた気がするけど覚えてないや」
「それでは、水の精はあなたと契約したことになりますので、これから水魔法を使うときは、比較的自由に使えると思います」
「そうなの? へぇ~」
とはいっても、火事には二度と会いたくないのでそんなに使うことはないだろう。
里奈は、頭の中で呟く。
「これから先、大きな魔法を使うたびに精霊がやってきて、あなたと契約を結んでいくでしょう。水の精は友好的だったと思いますが、そうじゃないものたちもいますのでどうか、お気をつけ下さい」
「精霊でもそういうのあるんだね……人間と一緒ね。リチェは魔法に詳しいけど、この世界の人ってみんなそうなの?」
一番初めに出会った怪しい男たちも魔法について知っていたし、性悪王子もイリヤも、あのエミリアとかいう老人も詳しそうだ。
もしかしたら、これは一般教養なのだろうか。
「魔法という存在はほとんどの人々は知っていますが、今話した内容については魔力を持つ者、あるいは高貴な身分の者しか知りません。魔法は民衆にとっても遠い存在で、身近で見ることができる者はいないはず。特に、今のアムステール王国には魔法使いがいませんから……」
リチェーヌが遠い目をしながら言葉を発する。
前国王陛下たちの肖像画を解説してもらった時と同じ表情だった。
そんな彼を見ていると、質問してもいいものか迷ってしまう。
きっと五年前の事件と関係があるのだと分かるが、それ以上はどんなに考えても誰かに真相を聞くしか先へは進めない。
真相を探ろうとすればするほど、リチェやみんなの心の傷をえぐることになってしまう。
(聞いときたいけど、話をするのは辛いよね……)
心配そうにリチェを見上げている里奈に「失礼します」といいながら、隣へ腰掛ける。
そして静かな声で、
「あなたにはちゃんと、五年前のことを伝えないといけませんね……。話をしているうちに気分が悪くなってくるかもしれません。辛くなるかもしれません。それでも、最後まで受け止めていただけますか?」
リチェは真剣な表情で里奈の反応を伺った。
ふわりと二人の間に風が通っていき、里奈の前髪を揺らす。
里奈は手のひらをぎゅっと握り締め同じように真剣な眼差しで、彼を見つめ返して、
「うん。ちゃんと最後まで聞くから、教えてほしい……。五年前何があったのか、どうしてアルフォードの両親は殺されたのか、なぜ、国家魔法使いがいなくなったのか……全部教えて」
自分の決意を伝えた。




