魔法の使い方
「なんなのよ! 人がせっかく励まそうとしてるのに!!」
里奈は王宮の回廊をずんずんと一人歩いていく。
その後ろをリチェーヌが静かについていった。
回廊を抜けると、中庭にたどり着いた。
その中庭の遊歩道を進むと、水の出ていない噴水があったので里奈は縁に座り込む。
「はぁ……」
「大丈夫ですか?」
リチェがそっと声を掛けてくれたので、「うん、平気」と手を振りながら答えるものの、どっと疲れがこみ上げてきたので、立ち上がることができない。
「顔色が悪いです。まだ魔力を使った分の体力が戻ってきていないので、余り無理をされないほうがよろしいかと」
「そうなの? あの水龍をどうやって出したのか正直自分でも分からないんだよね……。もう一回やれと言われてもできないだろうな」
「殿下がおっしゃっていたように、召還魔法は高度な魔法です。今のリナ様の状態で、頻繁にやれば命に関わることになります」
へぇ、と呟きながらリチェを見上げる。
自分がそんなことをやってのけたなんて今でも信じられない。
第一、今まで魔法の存在も知らない、信じない、女子高校生だったのに、この世界に来てから自分がこの環境に順応しだしていることにも驚きだった。
里奈はこの際だから、魔法について詳しくリチェから聞きたいと思い、自分の隣に腰掛けるよう、彼を手招きした。
「あなたの護衛の私が、隣で座ることは許されませんので」
「いいから、座って。命令って言えばいいの?」
「…………」
リチェは、黙って里奈の隣にそっと腰掛ける。
だんだんリチェにどう接すればいいか分かってきた里奈は、この際気になることを質問していくことにした。
「私が出した水龍って一体何なの? 魔法って本当はどうやったら使えるもんなの?」
「水龍は水の精霊です」
「精霊……?」
「ええ、精霊は自然界に宿る力を統括する存在で、見える人は限られています。そして魔法は、自然界に宿る力を分けてもらい自分の願いに乗せる手法のこと。なので、あなたお一人で炎を消せたわけではないのです」
「なんか難しいね」
リチェの説明を聞いていまいちピンとこない里奈は頭を抱えて唸る。
そんな里奈に、リチェは具体的な話をするため、地面に落ちている石を拾った。
「たとえば、『この石を浮かせたい』と願うとしましょう。これを実現させるには『風』の力が必要となりますので、風の精霊に呼びかけ力を分けてもらいます」
そう言いながら彼は石を手のひらに乗せて里奈の前に差し出す。
もちろん、風が吹いたところでこの五センチほどの石ころが浮くはずなんてない。
里奈はじっとその石を見つめる。
「風よ、われに従い願いを届けよ」
リチェがそう呟いた瞬間――、どこからともなく、小さい竜巻みたいなものが彼の手のひらに巻き起こり、石を30センチほど舞い上がらせた。
「うそ!! リチェも魔法使いなの!?」
「あなたほど魔力を持ち合わせてはいませんが、一応これくらいは」
「すごい!!」
リチェの手のひらに浮かぶ石ころを、不思議そうに里奈は眺める。
間近で見ても、信じがたい現象だった。
「魔力が宿る血の強さによって、出来る幅や強度が変わります。なので魔法は血筋が重要なのです。古より受け継がれる魔力の血が、その人の魔法使いのレベルを決めるといっても過言ではありません。まあ、ある程度、修練によって魔力が強まることはありますが」
「へぇ、だからローゼンの血とかなんとか皆が言うのね」
「ええ。そして、魔法を発動させるポイントは今言ったように『自然の力を借りること』『適した魔力があること』そのほかに『心の願いの強さ』が必要になります」
「心の強さ?」
リチェは浮いていた石を地面に戻し、首を傾げる里奈を見つめる。
「集中力と願う強さの両方です。意識を『願い』に集中させ、強く思わないと発動できない。これは鍛錬が必要になります。リナ様が水龍を召還した時、『炎を消したい』と強く願ってくれたから水龍を召還できたのです」
里奈は、水龍を呼び出した時を振り返った。
確かに、あの時は無我夢中で炎を消すことだけを考えていた。
「あれだけの水を降らせることができたのは、あなたの魔力もさながら、心の願いの強さもあったからでしょう。おかげで殿下と私は助かりました。ありがとうございました」
彼は急に立ち上がり、右手を胸に当て、里奈の前で深く頭を下げた。
ありがとうと言った彼の表情は、とても柔らかく、優しく感じられた。
それは、うっかりしていたら見とれてしまいそうになるくらい。
「リチェ、いつもそんな風に笑ってほしい」
里奈は微笑みながらリチェに向かって言う。
予想外の言葉に、彼は目を瞬かせた。




