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私は魔法使いなんかじゃない!  作者: いと・うさぎ
アムステール王国再建物語Ⅰ
51/235

平行線

 青年がいなくなってもアルフォードは黙ったまま俯いている。 

 部屋は急にしんと静まり返った。


(どうしよう……これじゃあ、アルフォードを奮起させるどころか、逆にもっとひねくれてしまうんじゃ……)


 里奈は立ち上がり、部屋を一人ぐるぐる回る。

 そんな様子を見かねたイリヤが、侍従にお茶を持ってくるよう指示を出した。

 

「おい、これで満足か?」


 アルフォードが顔を上げ、腕を組んだまま、ぐるぐる回る里奈に向かって言った。 

 冷酷さは感じられるものの、どこか悲しげに見える。

 彼の心がズタズタに傷つくことは分かっていたが、想像以上だったので里奈は罪悪感に見舞われてしまう。


「ごめんなさい。あそこまで言ってくるとは思ってなくて……。皆の声を直接聞かないとダメだって思ったけど、もうちょっとやり方をよく考えれば――」

「なんでお前が謝る? これがあいつらの本心だろう。正面から責められてまぁムカつくが、スッキリした」

「え?」

「やっぱり俺は卑怯者って言われていることがよく分かった」


 それを聞いた里奈は、意外な王子の言葉に感激し、「ほんと!?」と言いながらアルフォードに詰め寄る。

 失敗だと思っていたこの作戦が功を奏して、王子のやる気スイッチが入ったと一人舞い上がった。


「だから、この俺にどうしろと? あいつらの言葉を聞いたからといって、この俺が皆から信頼される国王になれると本当に思っているのか? お前はほんと単純でめでたい奴だな!」

「へ……?」


 鼻を鳴らしながら自分を見下す王子は、最初から根性がひねくれた人間だということを、改めて思い知らされた里奈の口からは、もはや何も出て来ない。


(一体どうしたら、こいつは自分の性格を直すようになるんだ……?!)


 里奈は、どっと疲れが押し寄せ、椅子に倒れこむように腰かけた。

 さっきから、このクソ王子とのやり取りは堂々巡りになっており、結局何一つ進んでいない。

 

「だいたい、あいつらは俺のせいにするが、こっちも被害者なんだ。人殺しだの、卑怯者だの言われる筋合いはない。それにこっちは足が不自由になったんだぞ! 歩けもしないこの姿で、人前に出られる訳がないだろうが?!」


 深くもたれ掛けていた体を起こし、里奈は軽蔑の目で王子を見つめる。


「なんだ……その目は?」

「ねぇ……本気でその言葉を言ってるの?」


 そして里奈は立ち上がり、王子の正面にきて、真剣な口調で続けた。


「歩けない人は、人前に出てはいけないの? もし、あなたが昔のように歩けたとしたら、足の不自由な人にそんなことを思うの?」

「なんだ? 急になぜお前が怒るんだ?」

「別に怒ってるんじゃない……。アルフォード自身が、そのことについてどう思っているのか聞きたいだけ。答えてよ」

「別にそう思わないが……」


 今までにないくらい、真剣に突っかかってくる里奈を、首を傾げながら見上げる。

 本気でアルフォードは、里奈が意図することが分からなかった。

 だから、自分の思ったままの言葉を口にしてしまう。


「ただ、今の惨めな自分を皆に見られたくはない。こんな姿、恥ずかしいだろう?」

「恥ずかしい……?」

「ああ、そうだ。もはや俺はどんなに頑張ったって、完璧にはなれない。自分一人で生きられない。誰かの介助なしには階段は登れないし、床に落ちたペンさえ拾うことができない人間だ。そんな惨めな人間に誰が賛同し付いていくと言ってくれる? 自分のことすらままならないのに、国のことなんて守れる訳がないと笑い飛ばされるだけだ」


 それを言うアルフォードは、いつものように怒鳴ったりせず、ただ淡々と事実を並べ言った。

 彼の言葉の一つ一つが里奈の心に響いてくる。

 自由を奪われた彼と、自分の間には深い溝が存在している。

 それは自分には計り知れない悲しみや苦しみ、悔しさの溝……


「そんなことない……。アルフォードは間違っている……」


 里奈はアルフォードに背を向けトーンを低くしてつぶやいた。

 それは彼の耳にも微かに届く。


「間違ってる……?」

「そう、間違っている。なんで、恥ずかしい姿だって決めつけるの? 何で完璧じゃないといけないの? 歩けないと誰も守ったりできないの?」

「…………なんなんだ、お前ほんとにさっきから……」


 戸惑う王子に向き直しながら里奈は、自分の思ったことを彼に伝える。

 彼が止めろと言ってきたって構わず続ける――

 そう思いながら里奈はゆっくり言葉を続けていく。


「私、両親がいないことを昔周りから悪く言われたことがある。あの子は親がいないから可哀そうだけど、一緒になって遊んじゃだめだって。たまたま、友達のお母さんが友達に言ってるのを聞いた時ショックだった。ああ、自分は皆と違うんだって、自分は可哀そうな子なんだって……。でも、本当は違ったの……」


 

 里奈は自分のことを話し始めた。

 




 






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