酒屋エドガーが言うには
「いい、もう一度言うけど、あくまでもこれは、彼らの事情聴取じゃなくて、『正しい国づくりのための話合い』だから、今までされたことはいったん棚にあげて、ちゃんと相手のことを聞くこと。感情的にならず、偉そうにしちゃだめだからね!」
「お前が一番感情的になるんじゃ……」
「うるさい! じゃあイリヤさん、お願いします」
「かしこまりました」
そういうとイリヤは扉近くに控えていた侍従に、犯人を連れてくるよう指示した。
ここは会議用に作られた部屋で、奥の窓近くに里奈とアルフォードが座り、その前に三メートルほど開けて椅子が一脚置かれている。
そして、里奈たちと椅子の間には机と椅子が一脚置かれ、書記としてイリヤが座り、話の内容を書き留めることになっていた。
まさに面接スタイル形式だ。
そして、ノック音が部屋に響き渡った。
「入れ」
アルフォードが扉に向かって告げる。
(いよいよね――)
なぜかちょっと不謹慎にもわくわくしている里奈を見て、アルフォードは溜息をつきながら「緊張感のない顔はやめろ」と注意する。
本当にこれが名案なのか……?
王子は開けられた扉を見つめ腕を組み直した。
兵士に連れられやってきた男は、手を後ろで縛られ逃げられないように鎖でつながれている。
そして、用意されている椅子に座らされると兵士はその鎖を椅子につなぎ、足も同じよう椅子に固定させ立てないようにした。
そして、作業が終わったところで、イリヤが兵士に向かって質問をする。
「この者は?」
「は、あの時温室付近におりました者でございます」
「お前、名前と職業を述べよ」
そう言われた男は頭を下げたまま「エドガー・バール……酒屋の店主でした」と、か細く言った。
それをそのまま帳面にイリヤは書き記していく。
「で、お前が放火を企てたのか?!」
「ち、違います! 殿下、本当に私ではありません。信じてください!」
「じゃあ誰だ! 言ってみよ!!」
「そ、それは……」
「ストープ!! ちょっとすみません」
里奈がすぐさま隣の王子脇腹を肘で小突っき、「だから、それじゃ意味ないんだって! これは事情聴取じゃなくて『話し合い』なのよ。あの人ビビっちゃってるじゃない……」とヒソヒソ言った。
しかし、里奈が思っているより話声は大きく、イリヤにも、男にも丸聞こえだった。
そして、いてて……と身をよじりながら脇腹を抑える彼に代わって、里奈が質問する。
「えっと、エドガーさん? あなたはどうして、王宮を襲う計画に乗ったんですか?」
「…………」
「思っていること吐き出してもらえませんか? あの、この隣に座っている王子は空気だと思って言っちゃってください!!」
「お前、誰が空気だと!」
「うるさい、あんたは少し黙ってて!」
「この国の王子に向かって黙ってろだと! 何様だと思って言ってるんだ」
「ああもう、だから、そうやって怒鳴らないでよ! 話し合いの場なんだから」
男は、目の前に繰り広げられる王子と里奈の言い争いに思わず顔を上げ、唖然としてそれを見つめた。
それは、イリヤが咳払いし「殿下、リナ様……」と二人を制するまで続いていた。
言い争いにつかれた王子はぐったりと椅子に深く腰掛け、手でパタパタ仰ぎながら、「早くお前、言いたいことがあるなら話せ。今日は何を言っても免除してやるから」と男に向かって言う。
そして里奈は笑顔で「そうですよ。こんなことはめったにない機会ですよ! この性悪王子に直接悪口ぶちまけても大丈夫ですから!」と親指を立てながら言った。
そんなことを笑顔で言われても信じられない……
男はそう思ったが、結局自分は罪人になるのだからと腹をくくる。
「全部王宮の、あんたたちのせいだ。我々国民はどんなに貧しい生活を送っているか、お前らは知らないだろう? 一生懸命家内と作った店だってこの不景気で潰れ、挙句の果てに家内は病で倒れてしまった。医者に見せる金もない。王宮が何とかしてくれる……そう信じてたのに……一向に国は……景気はよくならねぇ」
男は頭を下げ、床を見つめる。
里奈も王子も黙って彼の話を聞く。
部屋に響くのは彼の声とペンの音だけだった。




