今後について
急に黙ってしまった里奈に対して、アルフォードは何も声をかけられないまま、時間が過ぎ去っていく。
里奈扉付近で、アンジェリカが何か言いたそうにこっちを見つめているが、全く伝わらない。
「アンジェリカ、何か言いたいことがあるのか?」
「いえ! わたくしは別に……」
慌てふためくアンジェリカに首を傾げつつ、視線を里奈へと戻した所で、急にノックと共にイリヤが入ってきた。
「どうしたんだ?」
イリヤは王子の側まで行くと緊迫した声で告げた。
「殿下、たった今、放火犯を捕えました」
「本当か!?」
その報告に俯いていた里奈もはっと顔を上げる。
「現在地下牢へ移送中です。どうされますか?」
イリヤが、淡々とそして機械的に王子へ次の指示を仰ぐ。
それは聞かなくても分かっているかのよう。
そんな彼らを見て、里奈は嫌な予感がする。
(もしかして……処刑するつもりなんじゃ……)
そして、里奈の予感は的中した。
「放火犯も、奴に加担した者もすべて処刑しろ!! 二度と反逆をする気がなくなるよう民衆の前でな!!」
確かに、殺人未遂を犯したのだから、処罰されるのは当然だ。
でも、これで本当にいいのだろうか?
里奈は一人、アルフォードとイリヤのやり取りを黙って見ていた。
すると、リチェーヌもいつの間にか戻ってきたようで、里奈の側で待機していた。
それに気づいた里奈は、そっとリチェに声を掛ける。
「ねぇ、捕まった人ってどれくらいいるの?」
「放火した本人合わせて十数名ほど……」
「少ない……あの教会で集まった人は三十人以上いたと思う……」
「実際にこの計画を企てた張本人たちは、おそらく捕まっていないかと」
リチェを見上げながら、里奈は眉を潜めた。
それはつまり、また同じことが起こるということだろう。
そう思うと、犯人を捕まえることが解決策ではない。
「う~ん、イタチごっこしてる場合じゃないのよ……どうしたら……」
一人腕を組みながら必死で考える。
彼らの願いは、王宮からアルフォードを追い出し、彼らの望む国をつくること。
アルフォードが王座についていると、彼らの望む国にはならない……
(あれ? ちょっと待てよ……)
いい考えを思いついたとばかりに、里奈は両手を合わせながら、アルフォードやイリヤ、リチェーヌに向けて――
「ねぇ! 国民が思い描いている政治をアルフォードがすればいいんじゃない?」
と、笑顔で自信たっぷりに言った。
ドヤ顔の里奈を見て、性悪王子は「お前は馬鹿か!?」と悪態をつく。
そんは王子を睨みながら里奈続けた。
「あなたの方が馬鹿なのよ。どうして、あなたは殺されかけたと思う? 皆、あなたに王座を退いてほしいからよ! あなたの政治に国民はうんざりなのよ。つまり、ちゃんとアルフォードが国民の望む政治ができれば、 国民の不満もなくなるし、あなたも命を狙われなくなる」
「失礼なことをづけづけと……」
「あなただって、この先ずっと誰かに怯えながら暮らすのは嫌じゃないの? だから、あなたはとりあえず、捕まえた犯人から順番に国民が今どう思って、この国をどうしてほしいのか、聞きなさい!!」
アルフォードは、唇を噛みながら、じっと一点を見つめて黙り込む。
確かに、彼女の言っていることは正しい。
たとえここで力で彼らをねじ伏せても、また新たな恨みを買うだけなのは理解しているのだが……。
「国民の望む政治をしたいとは思っている。でも、民衆の前で話を聞くなんて無理だ。この姿を見せられない――」
「なんで?」
「お前……なんでって、俺の足は動かないんだぞ!? 国民の前で、立てないこの姿を曝せるものか!? 王子としての立場がなくなるだろうが!」
アルフォードが、これくらい理解しろと言わんばかりに必死に里奈に訴える。
しかし、それは里奈には響かなかったようで――
「いやいや、別に皆の前で立って歩く必要なくない? 必要なのは、皆の声を聴くための『耳』と、自分の思いを伝える『声』だけよ?」
「うっ……確かにそうだか……」
「じゃあ、決まりね。イリヤさん、犯人たちはを一人ずつ部屋に呼んで。」
「今からなのか!? お前ちょっとは、作戦をだな」
「作戦って別に戦うんじゃないんだし! 早く始めないと何日経っても終わらないわよ! そうこうしてるうちに、また主犯格に作戦を練られて襲撃されるわよ!」
それ以上何も言えなくなった王子は黙って、テキパキとイリヤとリチェ指示する彼女を見つめる。
この世界に来て間もない上に、関係ないことなのに、どうしてこうも一生懸命にできるのか……
アルフォードには理解できなかった。
そして、自分の国のことなのに何もできない自分が情けないと、彼女を見て思う。
国だけでなく、自分も変われるだろうか……
アルフォードは、ここは彼女に託してみることにした。




