三大禁忌
「で、国民の皆はどうしてるの? 火事以来、王宮に襲撃してこなかった?」
里奈が首を傾げながら、目の前のお茶菓子に手を伸ばす。
置いてあるのは、クッキーのようものとマドレーヌのような焼き菓子。
どちらも魅力的だが、まずはクッキーを口へと運ぶ。
「ほんと、よく食べるな……。あれ以来襲撃されていない。お前のおかげだろう」
「へ? 私のおかげ? なんで?」
「口にいれたまましゃべるな、行儀が悪い!」
「で、どういうこと?」
王子の注意を完全無視して、里奈は話を先へ進めるよう仕向けると、アルフォードは、溜息をつきながら、頬に手をついた。
だんだん里奈のペースに巻き込まれてきている自分が悔しい。
王子が仕方なく口を開く。
「炎を消すために、お前水龍を召還しただろう? それを見た民衆が、魔法使いがこっち側にいることを認識した。あれだけの魔法が使える魔法使いがいるのなら、自分たちには歯が立たないと思ったのだろう……。腰抜けどもだな。直に、放火犯も捕まる」
「そうなんだ。とりあえず休戦になってよかった」
「放火犯だけでなく作戦を企てたもの全員をとらえ、このようなことが二度と起こらないようにするから大丈夫だ」
得意げに、ティーカップを持ち上げる王子に掛ける言葉が出てこない。
この王子様は、問題の本質に全く気付いていないようだ。
里奈はマドレーヌに伸びた手をひっこめながら、溜息をついた。
「なんだ? 溜息なんかついて。まぁ、お前もやればできるのだな。誰から習ったんだ? 母親が?」
「習ってないわよ。なんであんなことができたのか今でも信じられないし……。まぐれよ、まぐれ」
「じゃあ、お前……魔法の仕組みも、三大禁忌も知らずに力を使ったのか?!」
ガチャンと勢いよくカップを受け皿に置き、身を乗り出して里奈を問いただす。
なぜ彼がそんなに真剣に聞いてくるのか分からない里奈は、眉をよせ「だから、誰にも何も教えられてないんだって!」と言い返す。
アルフォードは怒っているというよりも、どちらかというと心配している風に見える。
「いいか、魔法は無限に使えるものではない。簡単に言うと、お前に流れる血をエネルギーに起こしているに過ぎないんだ。だから、死にたくなければ、自分のキャパシティが分かるようになるまで、召還魔法なんて使うな! あと、三大禁忌魔法も絶対に使うなよ!」
「大丈夫よ、魔法使うつもり全くないし。でも、その三大禁忌って何なの?」
自分のことを一応心配してくれているんだと、ちょっと感心しながら、里奈は能天気な口調で尋ねる。
まぁ、聞いたとしても、今の自分にはそんなたいそうなことはできないだろう。
「『時を超えること』『人の心を操ること』そして――」
アルフォードは最後の一つは、少し間をあけて言った。
里奈の心臓が、ドクン……ドクンと波打つ。
「『人を生き返らせること』」
コトン……
心に何かが落ちる音がする。
『あの時、私が魔法使いだと自覚していれば、おじいちゃんは助けられたんだ――』
アルフォードやリチェに、お前は魔法使いだと言われた時に真っ先に思ったこと。
なんでこのタイミングなのか、と自分を心の中で責めて責めて、できるならもう一度やり直したいと思っていた。
魔法を実際に使って、もしかしたら……と期待していた自分がいた。
でも、結局無理なんだ。
どんな世界でも、どんな力でも『もう一度おじいちゃんに会うこと』は叶わない。
里奈はふふっと笑った。
そんな彼女を不思議そうにアルフォードが見つめている。
「やっぱり、本当に叶えたいことは魔法では叶わないんだね……」
顔は笑っているのに、彼女の言葉からは、悲壮感が漂っている。
そんな彼女を見て、アルフォードは思い出した。
彼女もまた、大切な人を皆失っていることに……




