そばにいること
「おじいちゃん、そんなに餃子つくっても食べられないよ~」
皆に見られているとも知らず、里奈はむにゃむにゃ言いながら、夢の中にいた。
「こいつの頭は大丈夫なのか?」
「医者曰く、どこも頭は打っていないとのことですが……」
あの火災から丸一日、里奈は眠り続けていた。
とりあえず、寝言を言えるぐらい体力は回復しているよう。
「おい、早く起・き・ろ~!!」
「殿下!?」
アルフォードが、寝てる里奈の鼻を容赦なくつまむと――
ふごっ!
何が起きたのか分からない里奈は、夢の世界から飛び起きた。
「えっ!? あれ? あたし――」
「やっと起きたか、馬鹿娘……」
目の前には、いつもの態度悪い王子とイリヤ、そして扉近くにはリチェーヌとアンジェリカが控えていた。
「バカバカいわないでよね! 馬鹿王子!!」
「お前――」
「命の恩人に向かって馬鹿なんて言えるのぉ~?」
「…………」
睨みつける王子に里奈もまた睨み返す。
すると、イリヤが咳払いをし、食事を用意すると言って部屋から出ていく。
ふんと鼻を鳴らしながら、王子はくるりと方向を変え窓の側へ移動した。
彼が乗っているのは、間違いなく車椅子――
あの時、彼が言ったことを思い出す。
『俺は元々、歩けない……』
彼の姿を改めて目の当りにした里奈は、彼の足について聞きたくてもなぜか聞けなかった。
そんな、里奈の様子を察してか、王子が珍しく気を利かせ、口を開く――
「火事の時、お前をびっくりさせたな。この足は、五年前の事件から動かなくなった。別に、今に始まったことではないから、お前に同情してほしいとも思っていない」
「その事件で怪我したの? 治せないの?」
じっと窓の外を見つめるアルフォードに向かって、里奈は静かに問いかける。
あんなことがあったのに、彼の見つめる窓の外には、青空が広がっている。
「両足を派手に刺されたからな……いろんな医者に見せたが、治せる者はいなかった……」
「…………」
ふと、里奈は自分が祖父をなくした直後の自分と今の彼の姿を重ねた。
あの時、親友の彩花は自分に何て言ってくれたんだっけ……?
まだ、そんなに経っていないのに、彼女の声が懐かしい。
そして、悲しそうな顔をしている彼に向かってゆっくりと言った。
「どうせ一人でこの国を立て直すなんて無理だから、あんたの世直しに付き合ってあげる。その代り、ちゃんと皆のための国づくりをやってよ?」
窓を見ていたアルフォードは、里奈の言葉に目を見開き、振り返る。
その顔があまりにも、間抜けな顔だったので、里奈は思わず笑ってしまう。
アンジェリカも同じように驚いている一方で、リチェはこうなることを予想していたので、大きく溜息をついていた。
(なんだ……そんな顔もできるんだ……)
笑うな!とアルフォードが言いながら里奈の近くへやってくる。
里奈はそんなの構うもんかと笑い続けていた。
『里奈がつらい時にいるために、私がそばにいるんだよ……里奈が笑っている時は笑顔でいたいし、一緒に泣いてほしい時は一緒に泣きたい……。里奈だって逆の立場だったらそうでしょう?』
彩花、本当にありがとう。
いつも彩花に助けられてばかりだね。
だから、今度はあたしがこの性悪王子を助ける番だと思うんだ。
あたし、もうちょっとこっちの世界で頑張ってから、日本へ戻るね。
それまで忘れないで、待ってて――
里奈は笑いながら、見えぬ親友へと誓いを立てた。




