王子の秘密
里奈は、近くにいた侍女が手に握っているハンカチを見つけると、
「これかして!」
と言いながら、そのハンカチを自分の鼻と口に被さるよう巻きつけ、火の消えた温室の入口へと向かう。
扉は外れていたが、ガラスが割れて床に散らばっているので、出来る限り踏まないよう、ゆっくりと中へ入る。
「リチェ~!! アルフォード~! どこ~?」
大声で叫びながら、彼らの居場所を探すが、視界が悪くなかなか見つけられない。
温室の中は、案の定ひどい有様で、草木のほとんどが燃え尽き、灰へと変わり、窓枠やガラスも溶けて原型をとどめていない。
美しい温室は影も形もない。
瓦礫の間をぬいながら、やっとの思いで真ん中までたどり着く。
白い煙が立ち込めているので、二メートル先までしかよく見えないが、人影がかすかに動いているのを発見した。
「リチェ? アルフォード? 生きてる――?!」
もう一度大きく叫ぶ。
すると、微かに奥から、何か聞こえてきた。
すぐ走って向かいたかったが、里奈の前に大きな大木が横たわり、その上に瓦礫が覆いかぶさっていて行く手を阻まれる。
「ちょっと待ってて!」
里奈は周りに倒れてくるものがないか確認し、床に落ちている使えそうな鉄の棒を拾う。
そして、その棒で瓦礫を追い払い、大木の下に入れ、ぐっと力を込め下に押す。
「う~……あとちょっと……とりゃ~!!」
大木が浮いたところで里奈は右足の踵でその木を一気に蹴りあげた。
ゴロンと、大木は横に転がり、なんとか人が一人通れる道を確保することに成功し、よし! と一人ガッツポーズをしながら前へと突き進む。
「リチェ、アルフォード!!」
進んだ先に、二人の姿を発見し駆け寄る。
リチェーヌはアルフォードに覆いかぶさったまま動かないし、里奈の呼び掛けにも彼は応答しない。
里奈がリチェの肩に手をかけ、軽くゆする。
すると――
「おい、お前……ほかに……誰か来ているのか?」
アルフォードがゆっくりと口を開いた。
「大丈夫なの? 二人とも生きてるの?」
里奈が涙目でアルフォードに声をかけると彼は、生きているからこいつを連れていけ、とか細い声で命令した。
里奈は力をぐっと入れて彼の上体を起き上がらせ、アルフォードの無事を確認する。
触れても、リチェは目を閉じたまま動かない。
「リチェだけ連れていけるわけないじゃない! 馬鹿!」
「馬鹿とは……なんだ……。ここもいつ崩れるかわからない。お前一人で、男二人をここから連れて行くのは不可能だ。俺はいいから、こいつを連れていけ!! 早く!!」
王子も状態を起こしながら里奈に向かって叫ぶ。
そんな王子に里奈も反論し、
「それじゃあ意味がないのよ! あんた、もしかしてどこか怪我してるの?」
と王子に向かって同じように叫んだ。
里奈は、支えているリチェが呼吸していることを確認し、ずるずると少し引きづりながら、机の足に彼を上体を託す。
そして、今度はアルフォードの側へ駆け寄り、手を差し出した。
「無理だ……立てない」
アルフォードは里奈を見上げながら言う。
彼は、なぜか申し訳なさそうな顔をしていた。
「足を怪我したのね、私が支えるから!」
そう言いながら里奈は彼の足を触ろうとすると――
「怪我じゃない! もともと歩けないんだ――」
里奈は言葉を失い、彼は唇を噛みしめ俯く。
バリっという瓦礫が崩れる音が響き渡る。
里奈は彼の力の入っていない二本の足をじっと見つめたまま、立ち尽くす。
(今は深く考えている場合じゃない――急がないと皆生き埋めになる――)
俯く彼の頬を両手で軽く引っ張りながら――
「歩けないなら、さっさとそう言ってよ! とにかく、私はあんたも助けるって決めてるんだから!」
彼の青い目を見つめながら宣言する。
「お前馬鹿か、だからお前ひとりで男二人は運べないといって――」
「私は大丈夫です……」
よろよろとリチェーヌが立ち上がった。
里奈はそんな彼に駆け寄り体を支える。
「リチェ、大丈夫?!」
「すみません……大丈夫です。それより、王子は私が担ぎますから、リナ様も早くここから脱出してください」
「大丈夫なの……?」
「おい、俺はいいからお前らで――」
「うっさい! 馬鹿! ちょっと黙ってて!!」
リチェはすぐさま、王子の両手を自分の肩に回し、彼を背負い上げ立ち上がる。
里奈は、リチェが王子を背負ったのを確認し、彼の前を歩いて障害物を次々どかしていく。
「二人とも、ガスが発生してるからなるべく吸わないようにね!!」
「はい」
こうして、三人は外へと向かって進んでいった――




