いざ王宮へ
あまりにも、リチェーヌが黙っているのでしびれを切らした里奈は、恐る恐る、前かがみだった体勢をお越し、ゆっくり肩を捻って彼の様子を覗おうとする。
「危ないですから、前を向いていてください」
「あ、はい……」
いつもの冷たい口調で言われてしまったので、大人しく前を向くことに。
里奈の思いとは裏腹に、どんどん馬は街中を進んでいく。
只でさえ、人通りがないのに今日はさらに誰も会うことがない。
この街はゴーストタウンと呼んだ方がいい、とさえ思う有様だ。
(私の意見はきっと却下されたのよね……どんどん街中を進んでいっちゃうし……もう作戦は実行されてしまったのだろうか?)
里奈は空を見上げてみた。
もし、作戦が実行されたらきっと黒い煙が上がるはず――
青い空に煙を探す。
「さっきから、なぜあなたは空を見上げているのですか。下を向いたり上を見たり、叫んだりと忙しい方ですね」
「……だって、作戦が実行されていたら、きっと煙が上がるかと思って……」
リチェーヌが里奈に聞こえるよう、溜息をついて言った。
「そんなことをしていると、スピード上げれずなかなか王宮へたどり着けないのですが……」
「王宮へ行ってくれるの?!」
一気に上半身をひねり、リチェーヌを見上げると、
「お願いですから、前を向いていてください」
と注意される。
その表情はいつもの無表情。
彼が何を考えているのかは読み取れなかったが、里奈はほっと胸を撫で下ろし、言われた通り前を向く。
「ありがとう。お願いを聞いてくれて……」
「礼を言われるようなことはしておりません。主のリナ様の命令ですから」
「私はあなたの主になった覚えはないです。だから、リナ様って呼ばないで欲しいんだけど……」
「そういう訳にはいきません」
渋るリチェーヌを何とか説得できないかと必死で考えている間、彼は馬を王宮に向けて加速させていく。
「じゃあ、私もリチェーヌさんのこと、リチェって呼ぶから、里奈ってよんで。高校の友達もみんな私のことを呼び捨てで呼んでたから、そっちの方がしっくりくるんだ」
「……無理です」
「え~なんで、いいじゃん!」
「あなたは私の主ですから」
「だから、私はあなたの主じゃないって!」
どこまでも平行線の話を続ける二人。
里奈も頑固だが、リチェーヌもまた同じように頑固だった。
その場で適当にあしらっておけばいいものを、真面目な彼はそうできない。
そんな平和なやり取りを続けているうちに、とうとう王宮へ続く道へ入っていった。
綺麗に舗装されている道の両割には、大きい木々が等間隔で植えられている。
おそらく、きれいに花が植えられているはずなのに、その場所には枯れきっている草しかなかった。
王宮の窓から見た光景と同じだ。
そこを里奈たちは颯爽と進んでいった。
「ねぇ、警備の人とかいないの?!」
「ここまで、警護の騎士を置けるほどの余裕は、今の王宮にはありません」
「じゃあ、侵入され放題じゃない!!」
「まぁ、そういうことですね」
なんともないという口ぶりでリチェは言うが、これはまずいだろう。
これでは民衆がどどっと来たら防ぎようがないでなないか。
一人、今後の展開を考えている里奈にまたしても衝撃が走る。
城門の前で、二人の兵士が座り込んで目を閉じゆらゆら左右に揺れていた。
(まさか毒を飲まされ――?!)
「リチェ、私を馬から下ろして!」
言われるままに、馬を止めリチェーヌは先に馬から降り、里奈に手を貸して彼女をゆっくりと地面に立たせた。
そして、里奈は座り込んでいる兵士に駆け寄り、両肩に手を置き前後にゆする。
「大丈夫ですか!? 目を開けてください!」
「里奈様……あの……」
必死に揺らす彼女を制止させようと、彼女の肩に今度はリチェが手を置いた瞬間、兵士の目がゆっくり開いた。
「お前らなんだ~? せっかくいい気持ちで昼寝してたのによぉ~」
「誰だぁ? ぎゃんぎゃんと五月蠅いやつは」
「へ……?」
「彼らはただ寝てただけですよ、毒を盛られたわけじゃないです。リナ様……」
状況を読み込めない里奈に、やんわりと事実を伝える。
そして、急いで兵士の肩から手をどけると、里奈の顔はすぐさま真っ赤になっていった。
「ごめんなさい! 私てっきり、毒を飲まされて倒れているとばかり……ってか、門番なんだから、昼寝なんかしてちゃダメでしょうが!! ちゃんと仕事しなさいよ! 二人とも、ちゃんと人の目を見なさい! そこでちゃんと正座する! もし、不審者がこの門を突破したらあんたたちどうするわけ? それでも王宮の兵士なの? 王宮が危機的状況なのに呑気すぎるのよ!」
急に逆ギレ&説教を始める里奈に、
「里奈様……急いでいるのではないのですか?」
とリチェが声をかける。
兵士たちは、助かったとばかり、どうぞ中へお進みください、と扉を開けた。
こんなんで本当に王宮は大丈夫なのか……?
里奈とリチェーヌは彼らに馬を任せ、中へ進んでいく。




