リチェーヌの目的
里奈とリチェーヌは、ひたすら廊下を突き進む。
見張りがもっといるかと思ったが、扉の前にいた男たちだけで誰もいない。
(もしかして、もう皆王宮へ殴り込みにいっちゃったの?!)
石の階段をひたすら登り、分厚い木の扉を開けるとやっと外に出ることができた。
はぁはぁと息を切らしている里奈の横で、リチェーヌは涼しい顔をしながら辺りを見回している。
「おかしいですね、誰も見当たらない。来たときは見張りの者がいた気がするのですが……」
「きっと、皆王宮に向かったんだよ……はぁはぁ……早く私たちもいかないと王宮が燃えて皆の命が危ない……」
息を整えながら、リチェーヌを見上ると彼は首を傾げていた。
里奈が言っていることは全く理解されていないようだ。
「だから、あの王子が国民のことを全く気に掛けず、一度も皆の前に現れないから、国民の皆さんが激怒して今まさに、クーデターを起こそうと王宮に向かってるのよ! 王子が温室にいるところをめがけて、放火するって! あの人たちは、そのタイミングで一気に城を乗っ取るつもりなの!! だから、リチェーヌさんは私のことよりも、早く王宮に向かってあげてよ!」
リチェーヌに話す隙を与えず、一気に一方的に伝える。
「なるほど……やっと話が繋がりました。でも、この国の者ではないあなたには関係ないのでは?」
意外な一言が里奈の心に刺さる。
嫌味で言ってるわけではないとは思うが、まさか彼の口からそれを言われるとは思いもしなかった里奈は、一瞬言葉を失った。
「私が、あなたを助けに来たのは、この国を救ってもらうためではなく、元の世界に戻すためです。とりあえず、今はあなたを安全なところにお連れするのが私の任務であり指名。なので、王宮にはいけません」
「リチェーヌさんが、元の世界に戻してくれるの? でもどうやって?」
里奈はその時、はっと自分の胸元に見る。
「あ、ネックレス!」
連れ去られる前と全く同じように、ネックレスが首からかかっていたのに安堵した里奈は、ゆっくり息を吐き、リチェーヌを見る。
彼もまた、そんな里奈の動作を見て、忠告する。
「魔石は絶対に誰にも渡してはいけません。それは皆が、喉から手がでるほど欲しがっている魔石なのですから。その魔石がなければあなたは元の世界にも帰れなくなる。今すぐとは無理ですが、条件がそろえば私の魔力でもあなたを送り出すことができるかもしれません」
「条件?」
今度は里奈が首を傾げる番になった。
つまり、リチェーヌは魔法使いということなのだろうか?
里奈の頭に、クエスチョンマークが並ぶ。
「リナ様、とりあえず詳しい話はあとにして、ここから逃げましょう」
そういって、彼はまたもや里奈の手首をつかみ引き寄せる。
普通の乙女ならドキッとしてしまうだろうが、里奈にこういう手は全く効かない。
意外に強引な彼の手を、里奈もまた左手でさらりと解く。
「待って! でも、リチェーヌさんは、アルフォードの騎士じゃないの? 主は私じゃないでしょ? それとも、王子の命令なの?」
「はい。殿下の命令です。あなたを見つけるよう仰せつかりました」
「じゃあ、元の世界に帰っても平気ってことなの? 自分でこの国を立て直す気になったってこと?」
「いいえ……あなたを元の世界に返すというところは自分の判断です」
リチェーヌが言っていることがすぐ理解できない。
王子は自分を探せと言ったが、リチェーヌは探すことはしたが、王宮に連れていかずに自分を元の世界に帰そうとしている。
つまり、リチェーヌは王子の命令を無視して、自分を元の世界に帰そうとしている、ということなのだろうか?
里奈が何も言わずにただリチェーヌを見つめていると、彼は急に里奈の前に右膝を立てて屈む。
そして、左胸に右の手のひらを当てて
「私は、ローゼン家に生涯を捧げるためにここにおります。だから、私の真の主はあなた様なのです」
と、頭を下げ彼は言った。
(っちょっと、待ってよ……さすがにこれは……)
流石にこの状況は、里奈の心もどぎまぎさせた。
イケメンの男の人に、こんな言葉を、それも立膝を立て見つめられながら言われるこの状況は、まるで映画のワンシーンあるいは、少女マンガしかない。
出会ってきた男の人はみんな、里奈と同じようなスポーツバカあるいは、がり勉だった。
こんなジェントルマンなイケメンはいないし、自分を女の子扱いさえしてくれない男たちだった。
まさか、男勝りな自分にこんな日がくるなんて――
里奈は、顔だけでなく耳も真っ赤にさせ、うろたえた。




