開かれた扉
里奈は腕の縄をほどく為、手首を動かしてみるが縄が切れる気配はない。
何度も何度もトライしても結果は同じ。
自分ではどうすることもできなくてイライラしてきた里奈は、転がっている本に八つ当たりした。
「あ~もう! どうせなら本じゃなくてナイフが落ちてればいいのに!」
拘束目的でここに閉じ込められているのに、ナイフという危険物を置いておく馬鹿はいないだろう。
里奈は、壁や床をドンドンと蹴ったり踏んだりして溜まっていく怒りを発散させようとした。
すると、本を誤って蹴ってしまい、バサリと中のページが開かれた。
本の中から、小さいカッターの破片に近い尖った刃物が挟まれている。
「ウソ……ラッキーかも……」
すかさず、その刃物を右手の指先に持ち、両腕を拘束している縄にゆっくり当てていく。
刃物が錆びているせいか、切るのに多少時間はかかったものの、何とか里奈は縄を切ることに成功した。
「いてて……ツイテいるんだか、いないんだか分からない日だな……」
溜息をつきながら、すぐさま次の行動に移すため、小窓の壁へ近づき狙いを定めた。
そして、狙った石壁のくぼみに手と足をかけ、小窓に向かってよじ登る。
「あと少しぃ~」
限界まで手を伸ばして格子を掴み、体を上へと引き上げ格子の隙間から外の様子を覗う。
しかし、全く外の様子は見えず、灰色の物体が見えるだけだった。
この格子も硬く金属の部品で四隅が止められているので、外すことは不可能に近い。
里奈は途方に暮れる。
「リナ様!」
「へ!?」
いきなり背後から声をかけられ、格子を掴んだ状態から上半身を捻り、声の主を探すと、目の前にリチェーヌが立っていた。
「ぎゃっ!」
あまりにびっくりして、里奈は思わず格子を掴んでいた手を緩めてしまい、派手に落下――
「イタタタ……え? どうしてリチェーヌさんが?!」
里奈は、打ったお尻をさすりながら、リチェーヌを見上げる。
彼は相変わらず無表情で「助けにきました」とだけ里奈に言った。
「助けに来たって、どうしてここが分かったの? っていうか、私よりも今は王宮なの! 皆は無事なの!?」
「……言っている意味がよくわからないのですが」
「皆がアルフォードを追い出そうと企てているの!! このままだと、王宮が大火事になるわ! 今何時なの!?」
里奈はリチェーヌの両腕を掴み、揺さぶりながら必死に訴える。
しかし、リチェーヌはそんな里奈を見ても全く動揺していない。
彼は里奈が質問したことに答えるため、上着のポケットからゆっくりと金の懐中時計を取り出した。
「ちょうど今、正午を回ったところです」
「正午!? じゃあ、あの作戦会議の翌日ってこと?! まずいわ……作戦は、あの王子の昼食の後の読書タイムに決行されるの……時間がないじゃない!」
里奈は一人うろたえ、頭を抱えながら部屋をぐるぐる回り始めた。
リチェーヌはそんな彼女を捕まえ、肩に手を置き、里奈の目線に合わせて屈む。
「リナ様、とりあえず、今すぐここから出ましょう。話はそれから聞きますから」
里奈が頷いたのと同時に、リチェーヌは里奈の手を取り、扉に向かう。
部屋の外に出ると通路には、数人の男たちが床にひれ伏し倒れていた。
(これって……リチェーヌさんが?)
そんなことを想いながら、彼の背中を見つめる。
繋がれた手は意外にも温かった。
里奈は少しだけ、ずっと緊張していた心を解放することができた。




