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私は魔法使いなんかじゃない!  作者: いと・うさぎ
アムステール王国再建物語Ⅰ
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遠い日の約束

 目の前に広がる光景は、さっきまで自分がいた部屋でもなく、薄暗い牢屋でもなかった。

 ブランコやジャングルジム、砂場が夕焼けに照らされ、オレンジ色に染まっている。

 

(ここって……公園? 私戻ってきたの!?)


 里奈の心は一気に高鳴った。

 でも、なんかおかしい……

 見る光景のアングルが、なぜか自分の意志で変えることができないし、なんだかジャングルジムもブランコも大きく見えた。


(もしや、私死んじゃったの――?!)


「里奈!」


 長い髪の若い女性がこちらに走ってきて、自分の名前を呼ぶ。

 すぐそばで、幼い子どもが転んでいた。

 両足の膝が激しくすりむけて、血が流れている。


(え!? この子って私――!? 一体どうなっているの?!)


 里奈の思いは完全無視され、時間が進んでいく。

 彼女は、幼い里奈を立たせ、傷口を確認する。


「大丈夫、大丈夫。イタイのイタイの飛んでけ~」

「なぁにそれ?」

「痛くなくなるおまじない。ほら、痛くないでしょ?」

「いたいよぉ、ママ」

「ちょっと待っててね」


 そう言い残し、彼女は長い髪を揺らしながら、水飲み場へ走っていった。

 そして、水で濡らしたハンカチを幼い里奈の膝に当てる。


「いたいよぉ~」

 幼い里奈の目から大粒の涙がこぼれる。

 

「里奈、大丈夫だから。ママが魔法の言葉を特別に教えてあげる」

「さっきのやつぅ?」


 鼻水をすすりながら、涙を目に貯め、幼い里奈は彼女を見上げる。


「さっきのやつじゃないよ。これはね、特別な呪文よ。だからあんまり使っちゃだめなの」

「うん……」

「じゃあいくね」


 彼女は幼い里奈から少し離れ、両手を前に差し出し、目を閉じる。


「ローゼンの血よ、私の言葉を伝えておくれ。皆が持っている力を一つにして私に力を貸しておくれ――」


 すると、全く吹いていなかった風とピンクの花びらがどこからともなくやってきて、幼い里奈の足を包みこんだ。

 それは、本当に一瞬の出来事だったので里奈は何が起きたのか理解できない。


「ママ! 見て血がないよ。痛くなくなった!」

 

 次の瞬間、幼い里奈の膝から出ていた血も傷口もきれいになくなっていた。

 

(これが魔法なの!? やっぱりお母さんは魔法使いなの……!?)


 ぴょんぴょん飛び跳ねる幼い里奈を、愛おしそうに眺めている彼女は、まぎれもなく里奈の母親。

 でも、里奈の位置からよく見えない。

 見たいと思ってもアングルが固定されて見ることができなかった。


(お母さん! 私、聞きたいことが山ほどあるの!!)


 里奈は叫んだが、声にならない。

 里奈の叫びが届くことはなかったが、母親は幼い里奈に向かって話しかけていた。


「里奈、この力はね、里奈にもあるよ。でもね、絶対に人前で使っちゃいけない力なの」

「なんで~? イタイの飛んでったよぉ? リナもやってみたい!」

「里奈が大きくなったら、ちゃんと使い方教えてあげる。この力を使うにはね、里奈がちゃんと正しい大人にならないとダメなの。里奈が強く願えば本当になってしまう力だから、ちゃんと正しいことと、悪いことを理解しないといけない」


 母親は幼い里奈に目線を合わせるために屈む。

 夕日が母親の背中を照らしているので、逆光になってしまい、彼女がどんな顔をしているのか里奈はわからない。


「この力で絶対やってはいけないことが三つある。里奈がそれを理解できるようになるまで、この力は使ってはダメ。里奈がもっと大きくなって、字が読み書きできるようになったら教えてあげるからね」

「え~」

「それまで、里奈はご飯をたくさん食べてたくさん勉強するの。ママとの約束」

「うん……わかった」


 そして、彼女は里奈の額に右手を当て、深呼吸し、唱える。


「この者に流れるローゼンの血よ、この者が強く願い欲するまでどうか静かに眠り、彼女の身を危険なものから守りたまえ」


 温かい白い光が里奈の額に現れ、消えていく――


 すると、テレビの映像が乱れたときのように、風景が途切れはじめた。

 途切れる映像のなかで、里奈は必死に留まろうとする。


(まって! お母さんの顔だけでもみせてよ――!!)


 里奈の叫びも届かぬまま、意識が途切れ、また暗闇へといざなわれたのだった。


 


  

 

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