王子の葛藤
里奈が大変なことに巻き込まれている一方で、王宮の執務室では、イリヤがお茶を入れながらアルフォードに問いかけていた。
「なぜ、彼女を追い出すようなことをしたのです? 我々の唯一の希望は、彼女の力……それなのに」
「うるさい! 仕方ないじゃないか! あいつが協力を渋ってきたのだから……」
窓を叩きつけるほどの雨が、先ほどから降り続いており、部屋も明かりをつけないといけないほど暗くなってきた。
「もっと言い方があったのではないでしょうか? 異世界から来たばかりの彼女を、もう少し気遣ってあげてください」
「お前は、俺の味方じゃないのか?!」
「味方だからこそ言うのです。もう少し大人になってください。このままでは、この国が終わってしまいます。彼女を探してもう一度説得しましょう……」
「……」
アルフォードは、イリヤに背を向け、雨が叩きつける窓の方を向くと、微かにゴロゴロと雷の音がした。
何もかもうまくいかない――
なぜこうなってしまうのだろうか――
アルフォードは、もはや『怒り』や『悲しみ』を通りこし、自分の不甲斐なさにあきれた。
イリヤが言っていることは正しい――
もっと、彼女を優しくしてあげれば、状況は変わっていたことぐらい、頭では理解しているし、してあげたいとも思った。
しかし、自分には『やり方』が分からない。
今の自分には、『王子としてのプライド』を保つことで精一杯で、余裕はない――
窓のガラスに映る自分の姿を見つめながらアルフォードは溜息をつく。
そして、自分の足を叩いた。
アルフォードからの返答がないので、イリヤは彼をそっとしておくことに決め、「何かあれば声をかけてください」と言い残し部屋から去っていった。
『常に、よき指導者である為に、どうしたらいいのかを考えておきなさい――』
国王であった父上の最後の言葉……
よき指導者とは、一体何なのか? 父の考える、よき指導者はどんな人物なのか?
父上に聞いたが、答えは教えてくれなかった。
その会話のすぐ後に、何者かに王宮が襲撃され、父上と母上は殺された。
五年経った今も、その光景が頭から離れず、よく夢に出てきてうなされる。
なぜ、父上は俺らを逃がして奴らに立ち向かったのだろう?
なぜ、母上は自分をかばって俺を逃がしたのだろう?
なぜ死ぬのが自分ではなかったのだろう?
父上と母上の方がこの国にとって重要だったのに――
ドン、ドンと自分の足を叩く。
あんなことがなければ、この国は今も平和で豊かだったのに――
父上と母上が何をしたというのか?
なぜ、殺されなければいけなかったのか?
なぜ、彼らも俺らも被害者なのに、民衆たちから悪者扱いされなければいけないのか?
心に沈められていた、黒い感情が溢れはじめ、止まらない……
薄暗い部屋には、雨音だけが響いている。




