決心
(そうだ……おじいちゃんの言うとおり、自分が今『正しい』と思うことをしよう!)
ゆっくり顔を上げると、作戦の主要メンバー以外の人たちは部屋からいなくなっていた。
もちろん、隣のおばさんたちもいない。
里奈は、立ち上がり部屋の出口へ向かおうとした瞬間――
「おい、お前! どこの娘だ?」
と中年の男二人に取り囲まれてしまった。
(げっ、やばい。どうしよう――)
里奈はとっさに、
「えっと、リナ・ローゼンと言います……」
と頭に残っているファミリーネームで名前を告げた。
すると、男たちの眉間の皺がさらに深くなり、里奈を睨みつけ怒鳴る。
「お前! ローゼン様の名前を名乗るとは不届きものめ!! さては、王宮のスパイだろう!?」
思わず言った名前が波紋を広げるとは、全く予想していなかった。
魔法使いの家系の『ローゼン』という言葉を出すべきでなかった、と後悔してももう手遅れ……
里奈は、必死に彼らに「誤解です! 私は関係ない!」と説明するが、信じてもらえるはずもない。
「どうしたのだ?」
エミリアと、里奈に着替えを貸してくれた神父が近づいてきた。
「この娘が『ローゼン』と名乗るので不審に思い、問いただしていたところで……」
「ローゼン?」
エミリアが里奈をまじまじと見つめる。
すると、首に掛かったネックレスの魔石に気づき、「それは?」と里奈に尋ねてきた。
(しまった……服の中に隠しておくべきだった……)
里奈はしどろもどろに、母の形見だと告げると、エミリアが目を細めて、
「ローゼン家は、レイラ・ローゼンを最後に血筋は途絶えているはず……」
「レイラは、母です」
エミリアは目を見開き、魔石をすくい上げる――
隣の神父も、驚きの表情を浮かべ、里奈をまじまじと見た。
(言っちゃいけなかったかも……でも、ここまで来たらどうにでもなれ!)
里奈は賭けに出た。
もし、ローゼン家が彼らにとっても特別で崇拝対象だったら、レイラの娘だという里奈に手出しはしないはず――
全身が心臓になったかのように、自分の鼓動が全身に響く。
「レイラ・ローゼンはどこにいるのじゃ?」
「母私が小さいときに亡くなっています。これは、その時母が残してくれた形見です。信じてもらえませんか?」
里奈がゆっくりはっきりと、エミリアを見つめながら言う。
実際に、母が自分に残してくれたかどうかは定かではないが、間違いなくこのネックレスは里奈があちらの世界から持ってきたもの……というか、これにより里奈がここに来る羽目になったのだから、間違いではない。
里奈たちが揉めているのを、ほかの民衆が聞きつけ自然と周りに人だかりが出来始める。
(このままでは、事が大きくなってしまう――)
「ローゼン家だったとしても、王宮のスパイの可能性が高い。ローゼン家は公爵家、そう簡単に王族を裏切れまい。この娘を地下室へ連れていけ!」
「ちょっと離して!! 離しなさいよ!!」
微かな希望が打ち砕かれた今、強行突破するしかない里奈は、必死に体格のいい男たちに抵抗したが、腕を後ろにひねられてしまい、どうすることもできない。
(どうせ捕まるんだったら、思いの丈をぶちまけてやる――!)
エミリアをはじめ、里奈を取り囲んでいる民衆に向かって睨みながら、自分の考えを叫ぶ。
「王宮から王子たちを追い出して、それでこの国がまともになるんですか!? 本当にそれが正しい道なの? きっとまた、沢山の血が流れてここにいる人の心が引き裂かれるだけ。暴力で解決することなんて何もない。私たちは、理性をもった生き物でしょ? 王宮の人たちと、どうしたらいいか話し合うのが先じゃないの?! 自分たちの考えを伝えるのが先じゃないの?!」
里奈の声が部屋中に響くが、その声が民衆に届いているかはわからない。
少なくとも、目の前のエミリアや里奈を拘束している男たちには届かなかった。
彼らはすぐさま、里奈の口がこれ以上開かないよう、布で後ろから口を覆い、何か薬品のついた布を嗅がせる。
すると、里奈は体に力が入らなくなり、その場で倒れこんだ。
「あんたたち……か弱い女の子にむかって……ふざける……な……」
この言葉を最後に、里奈の意識は暗闇へと消えていった――




