思い出
小学校高学年は難しい年頃で、特に女子はややこしい。
女の子たちは、グループで行動するのが当たり前になり、トイレに行くのも下校するのも常に誰かと一緒。
そして、なぜか低学年の頃は仲良く遊んでいた男子とは、仲が悪くなるし、休み時間一人で席に座っていたりすると、まるで変わり者やいじめられているかのように見られる。
今思えば、なんとも理解しがたいルールが女子の間で存在していた。
そんなことはちっとも気にせず、里奈はいつも男子たちと休み時間のたびに、サッカーや野球をしているものだから、女子の見えないルールなんて関係なくマイペースで生きていた。
そんな里奈が小学六年になったとき、初めて森本彩花と一緒のクラスになった。
半年たっても特に里奈と彼女は会話することがなかったので、里奈は森本彩花という人物がよく分からなかったし、興味もわかなかった。
「里奈ちゃん、森本さんってお金持ちのお嬢様なんだよ。だから、あんなに我儘なんだよ」
クラスの女子の一人である、安田愛子が、校庭から帰ってきた里奈に向かってそう告げる。
その頃になると、男子と仲がよくスポーツ万能な里奈は、女子の中でも一目置かれた存在になっており、女子と男子との間で揉め事が起きたら、里奈が仲裁に入ることもしばしばあった。
里奈は「なんかあった?」と安田愛子に尋ねると、「ほら、さっきの席替えのことだよ」と言う。
確かに、休み時間の前の学級会で席替えをしたが、それがどうしたのだろうか?
特に何か問題はなく、くじで決まったはずだ。
里奈は首を傾げ、安田愛子に尋ねた。
「席替えで、なんかあったっけ? すんなり決まったじゃん」
「すんなりじゃないよ~。森本さんの席は本当は一番後ろの窓際だったのに、急に『前にしてほしい』といったでしょ? くじで決めるってなってたのに」
確かに、彼女言うように森本は席を前にしてほしいと、皆の前で担任の先生に頼んだ。
その結果、森本の席と、一番前をくじで引いていた男子の席が交換され、森本の希望が叶った。
「私は、一番後ろの席がいいけどね。前だといっつも先生にノートチェックされるよ」
「そうだけど……」
安田が言葉を詰まらせ、分かってほしいという雰囲気を出してきたが、鈍感な里奈には彼女が言わんとすることが伝わらない。
そうこうしていると、教室の扉から顔を出して「宮下いるか?」と里奈を探す声がした。
「おーい、宮下~岡田先生が日誌持って来いって!」
「今いく~」
男子に言われ里奈は、安田に「ごめん!」と言いながら日誌を片手に教室から出て行く。
結局、この時里奈は彼女が『里奈に分かってほしかったこと』が分からなかった。
それからしばらくして、森本が教室で一人きりでいるのが目につくようになった。
今まで森本と一緒にいた女子たちは、今は別のグループと一緒になっていつも通り皆で楽しそうに笑っている。
彼女が、明らかにハブられていることが、里奈の目からも分かった。
でも、どうすることもせず里奈もまた、いつも通り男子たちと校庭へ向かう。
そんな女子の雰囲気をクラスの男子の一人が気づき、
「最近森本ってクラスの女子からハブられてんの?」
とストレートに、それもサッカーの試合の最中に尋ねてきた。
「わかんないけど、多分そう。そういうことはさ、私に聞くより愛子とかに聞きなよね!」
里奈は、パスされたボールを力強く蹴り上げ言った。
ボールは空中に弧を描きながら青空へ高く舞い上がる。
ボールを目で追うと、校舎の三階から誰かがじっとこちらを見ていることに気づいた。
目を凝らしてみると、そこは里奈たちの教室の場所で、その子は森本彩花だった。
普段皆の前で強気な彼女は、なんだかこの時は寂しそうだった。




