民衆の思い
「そうだったんですね……」
その一言しか出てこない。
里奈がおばさんの方をじっと見ると、手を取られギュッと握りしめられた。
「あんたも大変だろうけど、この作戦が成功すればきっとこの国はもとに戻るよ。今は辛いけどあと少しの辛抱だよ」
「この作戦って……?」
「あんた、何も知らずにここに来たのかい?! 今からあたしらはね、あの城から王族たちを追い出し自分らで新たに国をつくるんだよ」
「王族を追い出すんですか?」
「そうだ! 我々国民のために何もしないのに、高い税金だけ徴収し、いい生活を送っている王子らを引きづり下ろす。そのために今我々は団結せねばならん!」
前に座っている老人が、里奈の方を向き、力強く言う。
(つまり……もうすぐ王宮を襲撃するってこと?!)
里奈が口を半開きにしているのなんかお構いなしに、周りの人々は口々に自分の思いを語り始める。
「だいたい、王子はいったい何をしているんだか。噂では、第一王子のジークフリードは失踪したというじゃないか。第二王子のアルフォードはいつまでたっても人前には出てこないし!」
「そうだ、そうだ。我々がどんな思いで、貧困生活を送っているかしらんだろうな、あいつらは。魔法使いが隣国にとられたのだってあいつらが、しっかりしていないからだろう」
「そうよ、魔法使いがいれば、こんな干ばつに見舞われることもなかったし、隣国から盗賊がくることもなかった」
国民の不満は最高潮に達している。
もう間もなく、この不満が王宮に押し寄せることになる。
そうなると、アルフォードたちは吊し上げに遭うだろう……
(フランス革命的なことがこの国に起こる……どうしよう、巻き込まれたらますます、帰れなくなりそう……)
次から次へ、異常事態が里奈を襲う。
里奈は再び両腕に顔を埋めた。
「ただ今より、全体集会を始める、まず初めにエミリア様に一言頂戴する」
その言葉で、顔を上げると、司会者の中年男に導かれ、白い長い髭を生やした老人が黒板の前に現れた。
ガヤガヤとうるさかった部屋が一気に静まり返る。
彼らのそばには、先ほどの神父もいた。
「間もなく我々の戦いがはじまる。厳しい長い闘いになるかもしれぬ……」
老人は皆に向かって語り始めた。
誰一人として口を開かず、エミリア様と呼ばれた老人の言葉を、一言たりとも聞き漏らさぬよう、皆じっと前を見つめている。
里奈には異様な光景に映った。
「もともとこの国を支えていたのは、国家魔法使いたち、それもローゼン家の魔法使いだ。しかし、ローゼンの血も世界の混沌とした状況に飲み込まれてしまった。五年前のあの事件により、我々は魔法使いという剣と盾の両方を失い、この国の柱であった国王も失ってしまった。今残されたのは、二人の王子のみ……」
知っているワードが出てくるたびに、里奈の心臓の鼓動が速く大きくなっていく。
「彼らがこの国を建て直してくれると我々は願ったが、もう時間切れじゃ。あれから五年経ったが、よくなるどころか、悪化する一方……これ以上黙ってみておれぬ」
エミリアが里奈の方を見てきた。
里奈は、彼と目が合って、さらに鼓動が早くなる。
(え……? 私を見てる……?!)
じっと自分を見つめて話をつづけるエミリアを、里奈もまた見つめた。
「今こそ、一致団結し、我々の力で王子らを引きづり下ろし、魔法使いを隣国から奪還し新たなアムステールを建国するのじゃ!!」
歓声と拍手がわっと巻き起こったのと同時に、皆が立ち上がる。
里奈だけは、その場に座ったまま動かなかった。




