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私は魔法使いなんかじゃない!  作者: いと・うさぎ
アムステール王国再建物語Ⅰ
23/235

民衆の思い

「そうだったんですね……」


 その一言しか出てこない。

 里奈がおばさんの方をじっと見ると、手を取られギュッと握りしめられた。


「あんたも大変だろうけど、この作戦が成功すればきっとこの国はもとに戻るよ。今は辛いけどあと少しの辛抱だよ」

「この作戦って……?」

「あんた、何も知らずにここに来たのかい?! 今からあたしらはね、あの城から王族たちを追い出し自分らで新たに国をつくるんだよ」

「王族を追い出すんですか?」

「そうだ! 我々国民のために何もしないのに、高い税金だけ徴収し、いい生活を送っている王子らを引きづり下ろす。そのために今我々は団結せねばならん!」

 

 前に座っている老人が、里奈の方を向き、力強く言う。

 

(つまり……もうすぐ王宮を襲撃するってこと?!)


 里奈が口を半開きにしているのなんかお構いなしに、周りの人々は口々に自分の思いを語り始める。


「だいたい、王子はいったい何をしているんだか。噂では、第一王子のジークフリードは失踪したというじゃないか。第二王子のアルフォードはいつまでたっても人前には出てこないし!」

「そうだ、そうだ。我々がどんな思いで、貧困生活を送っているかしらんだろうな、あいつらは。魔法使いが隣国にとられたのだってあいつらが、しっかりしていないからだろう」

「そうよ、魔法使いがいれば、こんな干ばつに見舞われることもなかったし、隣国から盗賊がくることもなかった」


 国民の不満は最高潮に達している。

 もう間もなく、この不満が王宮に押し寄せることになる。

 そうなると、アルフォードたちは吊し上げに遭うだろう……


(フランス革命的なことがこの国に起こる……どうしよう、巻き込まれたらますます、帰れなくなりそう……)


 次から次へ、異常事態が里奈を襲う。

 里奈は再び両腕に顔を埋めた。


「ただ今より、全体集会を始める、まず初めにエミリア様に一言頂戴する」

 

 その言葉で、顔を上げると、司会者の中年男に導かれ、白い長い髭を生やした老人が黒板の前に現れた。

 ガヤガヤとうるさかった部屋が一気に静まり返る。

 彼らのそばには、先ほどの神父もいた。


「間もなく我々の戦いがはじまる。厳しい長い闘いになるかもしれぬ……」


 老人は皆に向かって語り始めた。

 誰一人として口を開かず、エミリア様と呼ばれた老人の言葉を、一言たりとも聞き漏らさぬよう、皆じっと前を見つめている。

 里奈には異様な光景に映った。

 

「もともとこの国を支えていたのは、国家魔法使いたち、それもローゼン家の魔法使いだ。しかし、ローゼンの血も世界の混沌とした状況に飲み込まれてしまった。五年前のあの事件により、我々は魔法使いという剣と盾の両方を失い、この国の柱であった国王も失ってしまった。今残されたのは、二人の王子のみ……」


 知っているワードが出てくるたびに、里奈の心臓の鼓動が速く大きくなっていく。


「彼らがこの国を建て直してくれると我々は願ったが、もう時間切れじゃ。あれから五年経ったが、よくなるどころか、悪化する一方……これ以上黙ってみておれぬ」


 エミリアが里奈の方を見てきた。

 里奈は、彼と目が合って、さらに鼓動が早くなる。


(え……? 私を見てる……?!)


 じっと自分を見つめて話をつづけるエミリアを、里奈もまた見つめた。


「今こそ、一致団結し、我々の力で王子らを引きづり下ろし、魔法使いを隣国から奪還し新たなアムステールを建国するのじゃ!!」


 歓声と拍手がわっと巻き起こったのと同時に、皆が立ち上がる。

 里奈だけは、その場に座ったまま動かなかった。



 

 

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