雨の中
一人王宮を飛び出した里奈は、行くあてもないまま城下町を歩いていた。
出ていけと言われたからには、出ていくしかない。
あんなに大声で怒鳴られたら、誰しも逃げ出すだろう。
(ああ……何で、何も持たずに飛び出してきちゃったんだろう……最悪)
いつも冷静さを欠いて、自ら窮地に落ちていく自分の性格を恨む。
気分が沈むと、なぜか両足の傷がジンジンと痛んできた。
せっかく、アンジェリカたちが消毒して手当してくれたのに、これではまた悪化する。
里奈は花が何も植えられていない花壇に腰掛け、溜息をつき、辺りを見回した。
城下町だというのに、人通りはほとんどなく、全く活気はない。
道に沿ってお店が広がっているのに、ほとんどシャッターが閉められていて、やっているお店を数えた方が早かった。
昨日見た景色と同じ光景だった。
(本当に、この国は崩壊寸前なんだ……)
リチェーヌが言っていたことが、ふと頭によぎる。
『五年前に前国王と王妃は殺害され、半年前には第一王子も失踪した――』
今にも崩壊しそうなこの状況とそのことは、きっと無関係ではない。
でも、自分にはどうすることもできない、今は自分のことで精一杯。
何度も心の中でつぶやく。
「私は間違っていない……そう、私は間違ってないんだ」
『王子の言葉を民衆の前にたち代弁する』という行為は別に民衆を騙しているわけじゃない。
それは、わかっている。
でも、魔法使いとして皆の前に立つことが、どうしても受け入れられない。
一度、人前で魔法使いとして立ってしまったら、もう後戻りは許されない。
魔法が使えない魔法使いなんて皆は知らずに、きっとたくさんの膨大な期待を自分に寄せてくるだろう。
元の世界に帰りたいと強く願っている自分には、彼らの願いを叶えることはできない。
だから、窮地に立たされているアルフォードには協力できない。
俯き、足元を見ると、首に掛かっているネックレスが大きく揺れ、きらりと光った。
里奈は、首からネックレスを外し、魔石という青い石を手のひらに置いてみるが、うんともすんとも言わなかった。
「なんで私なのよ。普通の女子高生だったのに。お母さん、私はこれからどうしたらいいの?」
里奈の目から涙があふれ、ぽたぽたと石に落ちていく。
あんなに晴れていた空がいつのまにか、真っ黒な厚い雲に覆われ、ゴロゴロと遠くで雷が鳴っている。
雷の音に気づいて顔を上げると、上から今度はポツポツと雨が落ちて、里奈の頬を濡らした。
(泣きっ面に蜂って、このことね……どこか雨宿りできるところ探さないと……)
立ち上がり、誰もいない道を歩き出す。
里奈を迎えてくれそうな温かい雰囲気の店も家もなく、どんどん制服は濡れていく。
このままでは、凍え死んでしまう……
冷たい雨は里奈の体力も気力も奪っていった。
(せめて雨にあたらない場所に――)
痛い足を引きづりながら、石畳の細い階段を上がると、教会のような建物があった。
その教会には、十字架と色とりどりのガラスがはめられたバラ窓があり、建物自体は白を基調としていて、神聖な雰囲気をかもし出している。
とりあえず、里奈は雨が上がるまでの間、扉の前で雨宿りすることにする。
(ここはきれいに手入れされているんだ……誰かいるってことよね)
しゃがみながら、教会の周りを観察すると、色とりどりの花がきれいに色別に植えられていて、雑草もあまり生えていない。
木もきれいに整えられているので、王宮の庭よりも美しい庭だった。
通り雨かと思われた雨は止むどころか、どんどん酷くなっていく。
ここまでくると、里奈は溜息しかでなかった。
(私が本当に魔法使いの血を受け継いでいるのなら、こんな雨も晴らすことができるのかな……こんな酷い自分の運命も変えることができるのかな……お母さんだったらどうするのかな……)
石畳の道に溜まっていく雨をじっと見つめる。
水たまりに映る自分の姿は、別人のように感じる。
「あ――もう! 雨よ止め――!!」
ガチャッ――
「わぁ!」
急に開いた扉は、里奈の背中を押し出し水たまりにダイブさせた。
「あんた、こんなこところでなにしてるのぉ?」
出てきたのは、修道女……?
ではなく、オネェの言葉を話す神父っぽい服を着た金髪の男だった。




