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私は魔法使いなんかじゃない!  作者: いと・うさぎ
アムステール王国再建物語Ⅰ
20/235

分かれ道

「食べないのか? さっきの腹の音はなんだったんだ?」

 笑いながらフォークを動かす王子を無視し、里奈もフォークを取った。


(あれ、これって、エビと水菜? この白いのはカブよね?)


 里奈が側に控えているアンジェリカに食材を聞くと、里奈が思っていた通りの名前が出てきた。

 どうやら、あちらの世界とこの世界には共通点が多いようだ。

 さっきまで食が進まないと思っていたが、この美味しすぎる料理を前にしたら、そんなことは言えなかった。

 前菜のエビのマリネ、かぼちゃのスープ、白身魚のムニエルオレンジソース添え、レモンシャーベット、牛肉のステーキ

 一流フレンチのフルコースのような料理が次々出されていく。

 そして、きれいに盛り付けされた料理を里奈は残さずたいらげていった。

 

「本当にどれもおいしい~」


 そう言いながら食べる里奈の姿にほっとしたのか、アンジェリカたちも嬉しそうに微笑んでいる。

 一方の王子様は、

「いつも通りの味だが、庶民にとってはこれがおいしいのか?」

 と不思議そうに里奈を眺めながら黙々と食べていた。


 そして、最後のデザートのチョコレートのムースが置かれ、ティーカップにアンジェリカが紅茶を注ぐ。

 里奈は注がれる紅茶を見つめながら、自分の今後をどうすべきかを懸命に考え始めた。

 

(こいつの奴隷になるか、ここから出ていって過酷な道を進むか――)


 窮地に立たされている。

 こんな究極な選択を自分がしないといけないなんてあんまりだ……

 里奈は神様を恨んだ。

 

「おい、決めたか?」


 悩む里奈に、アルフォードが声をかける。

 アルフォードは勝ち誇った顔で里奈を見つめていた。

 まるで全て自分の思い通りになると思っている……

 そんな目つきだった。


(毎日野宿は嫌だな……こんなところでのたれ死ぬのも…こいつの奴隷になったほうがましなのかも)


 里奈の心は、アルフォードの方へ傾く。

 しかし決心できない。

 もう少しこの王子の性格がまともだったら、すぐ選べるのだが――


「俺の言うことを聞いているだけでいいんだぞ? 何をそんなに悩むんだ。お前はただ、俺のそばで民衆に向かって俺の言葉を代弁すればいい。魔法なんて使えなくても問題ない。魔法使いだと言えば、どうせ馬鹿な民衆はお前についてくる」

「つまり――私に国民のみんなを騙せっていってるの?」

「そうだ。魔法使いはカリスマ的存在なんだ。神から授けられた力をもつ万能な存在。民衆はお前を崇め奉るだろう。お前は荒れ果てたアムステールの希望の女神なる」


 何かが違う――


 心がざわついた。

 この人は大きな勘違いをしている。

 私は確かにこの国の血を受け継いでいるが、昨日やってきた新参者だ。

 そんな私がこの国をどうにかすべきじゃない。


 心臓の鼓動が速くなるのを感じた。


「そんなの…王子のあなた自身がすべきことじゃないの? 私はこの国のことを何も知らない。そんな人に何を言われても国民には届かないよ。この国がボロボロになった理由も何も私は知らないけど、あなたは知っているのでしょう? 痛みも悲しみもきっとみんなと共有できる。あなたが前に立って導くべきよ。私はできない」


 里奈は一気に言った。

 さっきまでの怒っている口調ではなく、諭すような口調で。


「それができたらお前には頼んでいない。私にはできないから言っているのだ!!」

「なんで? そんだけしゃべれればスピーチの一つや二つ――」


 バンッ!



 両手でアルフォードがテーブルを叩きつけ、里奈を睨む。

 その瞳には怒りが込められていた。

 里奈は彼のそんな姿に眉をひそめる。


「理由は何? なぜできないってい言うのよ。何かまだ私に隠していることがあるんでしょ?」


 アルフォードは、里奈を睨みつけたまま黙った。

 部屋中に沈黙が訪れる。

 側にいるイリヤ、アンジェリカ、リチェーヌたちも何か知っているような素振りを見せるが、黙ったままだ。

 

 しばしの沈黙の後、ゆっくりとアルフォードが口を開いた。


「……言ったら協力するのか?」


 彼の目は真剣に里奈を見つめている。

 あまりの目力に里奈は目を逸らしたくなったが、ここでひるんではいけないと思い、我慢しながらその返答をする。


「聞いてみないとわからない」

「……もういい。お前には頼まない。出ていけ」

「え? ちょっと……ま……」

「早くここから出ていけ!!」


 アルフォードは扉を指指しながら叫んだ。

 イリヤが、アルフォードをなだめようとするが、「うるさい!お前も追い出されたいのか!?」と今度はイリヤに対しても怒鳴る。


 そんな彼を見て、里奈はすぐさま立ち上がり扉へ向かった。

 アンジェリカが名前を呼んだが、振り返ることなく部屋から飛び出した。

 

 別にここに来たくてきたわけではない。

 連れてこられたのに、今度は出ていけだ?

 ふざけるのにも程かある。

 傲慢性悪王子め!


 里奈は城の外に通じる扉をひたすら開け、何も持たずに一人走り出した。




 


  








 

 

 


 

 






 



 


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