分かれ道
「食べないのか? さっきの腹の音はなんだったんだ?」
笑いながらフォークを動かす王子を無視し、里奈もフォークを取った。
(あれ、これって、エビと水菜? この白いのはカブよね?)
里奈が側に控えているアンジェリカに食材を聞くと、里奈が思っていた通りの名前が出てきた。
どうやら、あちらの世界とこの世界には共通点が多いようだ。
さっきまで食が進まないと思っていたが、この美味しすぎる料理を前にしたら、そんなことは言えなかった。
前菜のエビのマリネ、かぼちゃのスープ、白身魚のムニエルオレンジソース添え、レモンシャーベット、牛肉のステーキ
一流フレンチのフルコースのような料理が次々出されていく。
そして、きれいに盛り付けされた料理を里奈は残さずたいらげていった。
「本当にどれもおいしい~」
そう言いながら食べる里奈の姿にほっとしたのか、アンジェリカたちも嬉しそうに微笑んでいる。
一方の王子様は、
「いつも通りの味だが、庶民にとってはこれがおいしいのか?」
と不思議そうに里奈を眺めながら黙々と食べていた。
そして、最後のデザートのチョコレートのムースが置かれ、ティーカップにアンジェリカが紅茶を注ぐ。
里奈は注がれる紅茶を見つめながら、自分の今後をどうすべきかを懸命に考え始めた。
(こいつの奴隷になるか、ここから出ていって過酷な道を進むか――)
窮地に立たされている。
こんな究極な選択を自分がしないといけないなんてあんまりだ……
里奈は神様を恨んだ。
「おい、決めたか?」
悩む里奈に、アルフォードが声をかける。
アルフォードは勝ち誇った顔で里奈を見つめていた。
まるで全て自分の思い通りになると思っている……
そんな目つきだった。
(毎日野宿は嫌だな……こんなところでのたれ死ぬのも…こいつの奴隷になったほうがましなのかも)
里奈の心は、アルフォードの方へ傾く。
しかし決心できない。
もう少しこの王子の性格がまともだったら、すぐ選べるのだが――
「俺の言うことを聞いているだけでいいんだぞ? 何をそんなに悩むんだ。お前はただ、俺のそばで民衆に向かって俺の言葉を代弁すればいい。魔法なんて使えなくても問題ない。魔法使いだと言えば、どうせ馬鹿な民衆はお前についてくる」
「つまり――私に国民のみんなを騙せっていってるの?」
「そうだ。魔法使いはカリスマ的存在なんだ。神から授けられた力をもつ万能な存在。民衆はお前を崇め奉るだろう。お前は荒れ果てたアムステールの希望の女神なる」
何かが違う――
心がざわついた。
この人は大きな勘違いをしている。
私は確かにこの国の血を受け継いでいるが、昨日やってきた新参者だ。
そんな私がこの国をどうにかすべきじゃない。
心臓の鼓動が速くなるのを感じた。
「そんなの…王子のあなた自身がすべきことじゃないの? 私はこの国のことを何も知らない。そんな人に何を言われても国民には届かないよ。この国がボロボロになった理由も何も私は知らないけど、あなたは知っているのでしょう? 痛みも悲しみもきっとみんなと共有できる。あなたが前に立って導くべきよ。私はできない」
里奈は一気に言った。
さっきまでの怒っている口調ではなく、諭すような口調で。
「それができたらお前には頼んでいない。私にはできないから言っているのだ!!」
「なんで? そんだけしゃべれればスピーチの一つや二つ――」
バンッ!
両手でアルフォードがテーブルを叩きつけ、里奈を睨む。
その瞳には怒りが込められていた。
里奈は彼のそんな姿に眉をひそめる。
「理由は何? なぜできないってい言うのよ。何かまだ私に隠していることがあるんでしょ?」
アルフォードは、里奈を睨みつけたまま黙った。
部屋中に沈黙が訪れる。
側にいるイリヤ、アンジェリカ、リチェーヌたちも何か知っているような素振りを見せるが、黙ったままだ。
しばしの沈黙の後、ゆっくりとアルフォードが口を開いた。
「……言ったら協力するのか?」
彼の目は真剣に里奈を見つめている。
あまりの目力に里奈は目を逸らしたくなったが、ここで怯んではいけないと思い、我慢しながらその返答をする。
「聞いてみないとわからない」
「……もういい。お前には頼まない。出ていけ」
「え? ちょっと……ま……」
「早くここから出ていけ!!」
アルフォードは扉を指指しながら叫んだ。
イリヤが、アルフォードをなだめようとするが、「うるさい!お前も追い出されたいのか!?」と今度はイリヤに対しても怒鳴る。
そんな彼を見て、里奈はすぐさま立ち上がり扉へ向かった。
アンジェリカが名前を呼んだが、振り返ることなく部屋から飛び出した。
別にここに来たくてきたわけではない。
連れてこられたのに、今度は出ていけだ?
ふざけるのにも程かある。
傲慢性悪王子め!
里奈は城の外に通じる扉をひたすら開け、何も持たずに一人走り出した。




