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私は魔法使いなんかじゃない!  作者: いと・うさぎ
アムステール王国再建物語Ⅰ
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現状と今後

 肖像画の飾ってあった部屋を出て、一つ隣の大広間に入ると、そこにはえんじ色のテーブルクロスが掛けられた、かなり長い長テーブルと、美しい装飾の椅子が左右に5脚ずつ、そしてお誕生日席にそれぞれ一脚ずつ置かれており、奥のお誕生日席にはアルフォードが座っている。

 テーブルの中央には見事に生けられた赤と白バラの花が置かれており、テーブルセッティングも完璧だった。


(テレビで見たことがある高級フレンチのお店みたい……)


 リチェーヌがアルフォードと向かいになる誕生日席の椅子をひき、里奈を座らせ椅子をそっと押す。


 里奈は生まれて初めてエスコートしてもらい、少しうれしくなった。 

 こんなことは、あちらの世界ではなかなか体験できない。

 そう思うと、ちょっと得した気分になった。


(だめだめ! 浮かれるな里奈!)


 心を落ち着かせ、目の前にきれいに折られている白のナプキンを取り、膝に置く。

 すると、そばに控えていたアンジェリカが水をグラスに注いでくれた。

 知っている人が少ない里奈は、彼女を見て少しほっとする。

 微笑かけてくれるアンジェリカに笑顔で「ありがとう」と伝える。


「おまえ、ありがとうって……こいつらは侍女でそれが仕事だ。いちいち礼を言わなくていい」

「自分がほかの人に何かしてもらったら、『ありがとう』というのは礼儀よ。そんな当たり前なことも知らないの?」


 里奈が注がれた水を飲みながら、アルフォードに嫌味をいうように言った。

 その言い方が気に入らなかったのか、明らかに彼は不機嫌になり、テーブルに頬杖をつき「生意気だ!」と言い放つ。


「なんでお前がローゼン家の末裔なんだ。ローゼン家は由緒正しい公爵家でもあるんだぞ。こんな、ちんちくりんな女しかいないなんて――」

「そんなこと言われたって知らないわよ。こっちだって、好きでここに来たんじゃないのよ。私の方が泣き叫びたいわよ。さっさと元の世界に戻してよね!」

「馬鹿かお前。さっき私が言ったこと覚えていないのか? お前の脳みそは小鳥以下だな」


 小鳥以下といわれて黙っている里奈ではない。

 王子に向かって反撃に出る。


「あんたの方がよっぽど失礼よ! 初対面の私に、さっきから馬鹿だの、小鳥以下だの本当に暴言ばっかり!!」

「お前が話をちゃんと聞いていないからだろうが! 私はちゃんと言ったぞ? こちらの世界とお前の世界を行き来するには相当な魔力が必要で、それができるのもごく少数の魔法使いだけだと。つまり、お前自身の魔力によってこちらに来たのだ。なんでも人のせいにするな!!」

「それじゃあ、おかしいじゃない。私自身の力で来たのなら、何で、リチェーヌさんが、私が路頭に迷って彷徨さまよっているところで現れたの? いくらなんでもタイミングが良すぎでしょ?」

 

 里奈はアルフォードに向かって、たたみかけるように言った。


 確かに里奈が言うことは一利ある。 

 アルフォードたちが無理やり里奈をこちらの世界に移動させていないのなら、里奈がやってくるタイミングや場所も知りえるはずかない。

 

 きっとまだ何か、自分に教えられていない重要なことがあるはずだ――

 

 里奈はじっとアルフォードを睨みつける。

 そんな緊迫した空気の中、アンジェリカたち侍女は料理を手に持ったまま、テーブルに置くことができずに待機している。

 そんな彼女たちにはもちろん気に留めることなく、アルフォードは話を続けた。

 

「お前が首に掛けているその魔石は、ローゼン家のというかこの国の秘宝で、対になる水晶が存在する。

私は失われた魔石を探すために水晶を使った。お前の母親のレイラが持ち出し、異世界に渡っていたことや、そちらの男と夫婦の契りを結んだこと、レイラに娘がいることもその水晶が教えてくれた」

「じゃあ、ずっと監視していたの!? 私がこっちにくるまでずっと?! 」

「まあ、そういうことになるな」

「じゃあ、着替えとかも見ていたんじゃないでしょうね!? 変態! スケベ!!」

「私に向かって、変態、スケベだと――?! お前の着替えなんか興味はない!!」


 里奈は拳をテーブルに叩きつけた。

 テーブルの上のグラスたちがゆれ、ガチャンとフォークとナイフが乱れる。


「最低……」

 

 里奈は軽蔑の目で、目の前にふんぞり返っている王子を見る。

 アルフォードは思っていた王子様像とは、はるかにかけ離れている。

 

(さっさとこんなところから帰りたい――)

 

 里奈は切に思った。


「私自身の力でこちらに来てしまったということならば、結局あなたに頼っても仕方ないってことでしょ。だから、あなたたちも私に『国家魔法使いになってこの国を救え』とかなんとか言っても協力しませんから」


 鼻を鳴らしながら、窓の外を眺める。

 あいかわらずムカつくほどいい天気だ――

 里奈の心とはうらはらに、ゆっくりと白い雲が流れてく。


「お前、もう少し口に出す前に、頭を使ったらどうだ? 今のお前に何ができるというんだ。魔法の使い方も知らないお前が自力で帰れるとでも? 帰るどころか、のたれ死ぬのがオチだろうな」


(確かに、こいつの言うとおり、この国のお金も持っていないし知り合いもいない……毎日生きていけるかもわかんない……)


 里奈が黙りこくっているのをみて、ますます王子は調子に乗り自分の立場が里奈よりも優位だということを示しだした。


「お前が、私に協力すると言うなら、お前の衣食住や身の安全は守ってやろう。ちゃんと私の命令に従うことが条件だ」

「……」

「食事が終わるまでに決めろ。おい、料理を運べ」


 アンジェリカたちは、料理をテーブルに置く。

 温かい料理じゃなくて彼女たちは内心ほっとしていた。

 料理が冷めているものなら、きっと作り直しを命じられていただろう。


 やっと食事にありつけるというのに、里奈の心は重かった……

 里奈は唇を噛み、拳を握りしめたまま料理を見つめている。


 


 


 

 




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