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私は魔法使いなんかじゃない!  作者: いと・うさぎ
アムステール王国再建物語Ⅰ
18/235

アムステールという国

 アルフォードがひとしきり笑い終ると、イリヤが食事の準備ができたと声をかけた。

 同じように座ってむくれている里奈にも声をかけ、別室へ移動を促す。

 

「リチェーヌ、こいつを部屋に連れていけ」

「はい、殿下」


 里奈が後ろを振り返ると、リチェーヌはずっと、後ろの扉付近に控えていた。


(リチェーヌさん、ずっとここにいたのね……気づかなかったわ)


 そして、里奈のもとにやってきて「ご案内いたします」とだけ言い、扉へ向かって歩いていく。

 里奈も彼に続いて部屋を後にしたが、アルフォードとイリヤは部屋から出る気配がなかった。

 

 首を傾げながら、なぜ一緒に移動しないのかと思ったが、通された部屋に入ったら一気にそんなことはどうでもよくなった。


 そこは、食堂でもなければ調理場でもなく、肖像画がびっしり飾られた応接間みたいな部屋だった。

 それぞれの肖像画にはプレートが付いていて、中には家族で描かれているものもある。


「え? ご飯ここで食べるの?」

「準備が整うまでこちらでお待ちください」

「でもさっき、食事の準備ができたって……」

「すみませんが、こちらで少しお待ちください」


 何かトラブルがあったのだろうか?

 里奈は、待てというリチェーヌの指示に従い、この部屋にかかっている肖像画たちを見て回る。

 どの絵の人も立派な王族の衣装をまとい、女性は美しいきらびやかなドレスを着ているので、歴代の王様やその家族の肖像がだということはすぐ分かった。

 そして、里奈はもう一つ、あることに気づく。


「この文字って、英語ですよね?!」

「えいご? その文字はこの国だけでなくこの世界の共通文字です」

「この人の名前は、アデルバード・ヴィ・アムステールって読みますか?」

「ええ、そうです。前国王陛下で、アルフォード殿下の父君でございます」


 里奈は隣の肖像画たちのプレートもじっくり見る。

 どれもやはり英語で表記されており、里奈にも読めた。

 

(文字は私のいた世界でも使われているものなんて……共通のものもあるんだ……)


 肖像画をじっと見つめ、里奈は元の世界のことを想った。

 

 自分がいなくなってどうなっているのだろうか?

 迎えに来た親戚は急に消えてしまった自分のことを探してくれているのだろうか?

 

 ジワリと目に目頭から目尻に涙が溜まっていく。

 涙を抑えるため、里奈はリチェーヌにとっさに話しかける。


「もしかして、アルフォード王子のお父さん亡くなっているの?」

「ええ、父君だけでなく母君でいらっしゃる、クリスティーヌ前王妃も五年前の暗殺事件でお亡くなりになられています」

「五年前の暗殺事件?!」

「……ええ。後程、殿下からこの国の情勢について、説明があると思いますが、現在のアムステール王国はかなり不安定で危機的状況に陥っております」


 里奈の横でリチェーヌも肖像画を見上げた。

 彼は表情を全く変えずに、個人的感情を入れることなく淡々と里奈に事実を伝えていく。

 リチェーヌがそのことをどう思っているのかは全く読み取れないが、何か思うことがあるのだろう。

 彼の瞳は肖像画をとらえているはずなのに、どこか遠いところを見ているように見えた。


「かつて、たくさんいた国家魔法使いたちも、もういません。国を守れる存在はもうどこにもいないのです。唯一残ったのは、資源の乏しい土地と、何もできない民衆、そして生き残ったアルフォード殿下とその兄君、ジークフリード殿下です」

「お兄さんがいるの?」

「ええ。しかし、半年前から行方不明です」

 

 幸せそうな笑顔を浮かべている前国王陛下と王妃のそばに、小さい男の子が二人いる肖像画があった。

 一人は金髪に青い瞳――幼いころのアルフォード王子

 その隣にいるアルフォードより少し背の高く、栗毛の男の子がどうやら兄のジークフリード王子らしい。


 性悪王子の壮絶な過去の一部を聞いて、里奈は複雑な気持ちになった。

 自分も両親を亡くし、最近育ての親であった祖父を亡くしているので、家族を失うことがどういうことかは理解できる。


(あいつも、色々大変なんだ……)


 里奈は侍従が扉をノックするまで、じっと黙ってその絵画を眺めていた。

 


 

 




 


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