散歩道に咲く冬の花
■この小説は平日更新予定です■
※しばらく、0~20時でそれぞれ時間を変えて更新します。
それ以降になる場合や、更新が難しい場合は活動報告でお知らせします。
★土日ですが、木金休んだのであげちゃいます(´・ω・`)
翌日、ユエはダミアンに連れられて王都を散策していた。
「ねえ!次はあの本屋さんに行ってみたいわ!」
「何を買うんだ?」
「もちろん、料理の本に決まってるでしょ。王都なら最新のものがあるに違いないし」
もちろん、ティハやムッカ、ポケットの中の霊代たちも一緒である。手に軽食の包みを持ち嬉々として先を行く二人を見るダミアンの視線は心なしか澱んでいるように見えた。
「……すみません。せっかくお誘いいただいたのに」
気まずげに小さな声で謝ると、ぼんやりしていた碧眼がはっとしたようにユエを見る。濃い金色の髪をくしゃり、とかきあげたダミアンは少し眉を下げて笑った。
「……いや、いいんだ。君の側には霊代が居るのが当たり前なんだから。……まあ、例外も一緒だけど……」
ダミアンはもちろんユエ一人を誘ったのだが、「霊代は契約者が近くに居ないとダメなのよ。研究者のくせに、そんなことも分からないの?……やあね、『恋は盲目』とはよく言ったものだわ」と腰に手を当てたムッカが喧々と非難し、さらに「出かけるのか?オレも行く」といそいそとティハまで後を付いて来たものだから、どうしようもない。
ダミアンが篭絡しようとしている張本人であるユエだが、美味しそうな屋台を見つけたムッカたちにたかられている彼を見ていると申し訳なさに小さくなるしかなかった。ちなみにポケットの中ではテンとビーオが嬉しそうにダミアンに買ってもらった蒸し菓子を分けあっている。
「ねえ、ここにしましょう、ここ!」
楽しそうに声を上げたムッカが一軒の本屋に飛び込んで行った。
ねずみ色の石造建築が多い王都にあってその本屋は二階の窓辺に飾られた花のおかげで明るい雰囲気を醸している。冬の只中に咲く花を不思議そうに見上げながら、ティハもその後を付いていく。
仕方ない、とばかりに肩を竦めたユエは「行きましょう」と傍らのダミアンに声をかけた。その彼は何故か本屋を見て渋い顔をしており。
「……どうかしましたか?」
「いや、なんでもない。大丈夫だよ」
頭を振って苦笑したダミアンは「ムッカのような幼い見た目ならいざ知らず、君のような淑女は男性にエスコートされて入店するものだよ」とユエに腕を差し出す。
知識としては知っていても、こんな街中でエスコートされた経験の無いユエは赤くなった。だがさすがは都会、周囲を見渡せば男性と女性が腕を絡めて優雅に歩く姿があちこちに見られる。郷に入っては郷に従え。覚悟を決めたユエはこくりと息を飲んでから、遠慮がちにダミアンの腕に自身の腕を絡めた。
そんな自分より頭ひとつ分背の低いユエを見下ろしダミアンは優しく微笑む。彼が空いた手で本屋の重厚な硝子入りの扉を開けると、チリチリン、と可愛らしい呼び鈴の音がした。
「いらっしゃい。……おや、ダミアン君じゃないか」
入口に近いカウンターで眼鏡を掛けた女性が出迎える。艶やかに掠れたその声は、聴く者を穏やかな気分にさせる不思議な声音だった。
「どうも、チカさん」
「この店に来るのは久しぶりだね。……恋人かい?あの小さかった君が、大きくなったものだねえ」
ダミアンの腕に捕まるユエを見て、チカと呼ばれた女性は目を細める。手にしていたペンをことりと置くとするりとカウンターを抜け出してきた。
「こんにちは、お嬢さん。私はチカ。お名前を伺っても?」
「あ……その、ユエ・マウロと申します」
「そう、ユエ。この子は悪い子じゃないんだ。家のことで色々あると思うけれど、仲良くしてやってほしい」
ふわりと笑った彼女は物腰が柔らかいがどこか中性的だ。ダミアンの小さい頃を知っているということはそれなりに歳を重ねているはずだが、その細い体躯と病的に白い肌からは年齢を窺い知ることは出来なかった。
ふんわりとしたチカに期待に満ちた目で見つめられ、ユエは「恋人ではない」と言いづらくなってしまう。
「……チカさん。僕のことはいいから」
「そうかい?まあ、ラウラから『よろしく』と頼まれているからね。ちょっとしたおせっかいと思って許しておくれよ」
「……まったく、何年前の話ですか……」
ぶつぶつと恥ずかしそうに呟くダミアン。
どうやらここはダミアンの知古の営む本屋だったらしい。ムッカは何も知らないはずで、まったく偶然とは怖いものだった。
「ねえ!ここ、『これで彼の心は私のもの!女子力向上☆マル秘レシピ』がぜんぶ揃ってるわ!……なんてことなの、新刊まである!」
歓喜の悲鳴と一緒に本を抱えたムッカが本棚の隙間から飛び出してくる。頬をピンクに紅潮させ、興奮もあらわに少女はまくし立てた。
「ねえ、お願い!これ買ってくれない?!」
「おや、お嬢さんはその本の読者だったのかい?その本はもう少し上の年齢層に向けて執筆したつもりだったのだけれど……まったく、最近の子は本当におませさんだねえ」
のんびりしたチカの声にユエは驚きの目を向ける。申し訳ないがあんな本の題名を思いつくような人物にはとても見えない。執筆するというなら、どちらかといえば涼しげな純文学を書いていそうだ。
ムッカは、普段の大人びた雰囲気は何処へ、と思うほどそれはもう嬉しそうにキラキラ瞳を輝かせた。
「この本を書いたのはあなたなの?!」
「ああ、そうだよ。昔料理の苦手だった友人に手ほどきをした経験があってね……。こう見えて、私は細かい手仕事が好きなんだ」
くすりと笑ったチカは小さな一輪の花を取り出しムッカに差し出す。白い花弁を綻ばせたそれは、よく見れば柔らかな絹で出来た造り物だった。手仕事が好き、というだけあってチカ本人が作っているのだろうその造花はカウンター脇にもさりげなく飾られている。
「もしかして、窓に飾ってあった花もこれ?」
「その通り。私はこの街の殺風景な冬の景色が大嫌いなんだ。それでね。……これは愛すべき読者である可愛らしいお嬢さんに差し上げよう」
それを聞いたムッカは頬を赤らめる。
どうやらチカは女性でありながら無意識に同性を喜ばせることのできる質のようだ。恥ずかしがるムッカという珍しい画面をユエはしげしげと眺めていた。
買ってもらった新しい本の包みを抱え、ほくほく顔で歩くムッカ。その髪にはもらったばかりの白い花が飾られている。
「チカさん、良い人ね!あたしあの人好きだわ。……ところで、次はどこに行くのかしら?」
「街は大体見て回ったし……ユエは何が見てみたい?」
ダミアンの問いに、ユエは少し首を傾げる。
村を出て以来色々と大きな街を見てきたが、どうもユエは都会というものが苦手だ。万事が忙しなくすぐに人にぶつかりそうになってしまうし、背の高い建物が多くて空は狭い。他の女の子なら服や靴、可愛い小物に目移りするのだろうが、今は軒を連ねる店々に入るよりも緑に触れたい気分だった。
「公園とか……ないでしょうか」
「公園?」
「はい。ちょっと、自然が恋しくて。ゆっくりできるところがいいんですけれど……」
なるほど、という顔をして少し思案したダミアンは「そうだな」と声をあげる。
「良いところがある。暖かいし、南出身のユエなら喜んでくれると思うけれど……行ってみるかい?」
暖かいところ、と聞いてユエは一も二もなく頷く。王都エミグディアのきりきりと身を切るような寒さには正直辟易していたところだ。
視界の隅に同じくこっそり喜んでいるティハが写って、ユエは思わずくすりと笑った。
ご覧いただきありがとうございます。
というか……ここ数話、ダミアンの目の色を間違っていたことに気づきました。
ううう……。青ではなく、碧です。
目についたところは直したつもりですが、見落としあれば教えてくださいm(_ _;)m




