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小さきものがまねく縁

■この小説は平日更新予定です■


※しばらく、0~20時でそれぞれ時間を変えて更新します。

 それ以降になる場合や、更新が難しい場合は活動報告でお知らせします。


★大遅刻。。日付が変わってしまった。。。。。すびばせん。。。。

 王都で辻馬車を拾って三十分、南の城壁を出てすぐの場所にその公園はあった。


「公園……?」


 ユエが首をひねったのも無理はない。それは人の背丈より上がすべて高価な硝子で覆われた巨大なドーム状の建物で、どう見てもユエの知っている『公園』とは別物だった。


「すごいだろう。中の気温を通年同程度に保っている、『温室』だよ。王太子殿下が整備を進めている建物で、中は入場料さえ払えば散策できる公園になっているんだ」


 誇らしげにダミアンが説明する。

 その異様さにテンはほけっと口をあけて建物を見上げていた。どうやら地図の霊代である白イタチにとってもこの光景は珍しいらしい。その呆け様にどうしても見てみたくなったのか、テンの尻尾を隠れ蓑にビーオまでこっそりポケットから顔を出していた。


「さあ、行こう」


 ダミアンに手を引かれ入場すると、恭しく頭を下げた係員がドアを開ける。温かな風が吹いてあっという間にユエは懐かしい南の空気に包まれた。


「……暖かいな」


 ふう、とティハが安堵のため息を漏らす。気づけばユエも体の力が抜けていた。気温が低いと自分でも気づかぬ内に首や肩に力が入ってしまうようだ。

 周囲は冬にも関らず青々と緑が繁り、なかにはユエたちにも馴染み深いルーシェン特有の草木もちらほらとみられた。


「いいわね。やっぱりこういう所の方が落ち着くわ」


 人が居ないのを良いことに、ムッカは腕をあげてお嬢様らしからぬ伸びをする。

 彼女の『記憶の元』である母ムツカはどちらかと言うと北に位置するドゥルセ出身だが、ムッカ自身は暖かい方が好きらしい。


「喜んでいただけてなにより」


 ユエだけでなくティハや普段は辛口のムッカまで喜んでいるのを見てダミアンが頬を緩めた。


「ねえユエ。ちょっと散歩してきてもいい?そう遠くまで行かないから」


「僕も行きたいです」


 テンとビーオのおねだりにユエは少し困る。テンはイタチだからまだいいが、ビーオはさすがに人に見られるとまずい。何かないか、と探るとハンカチを持っていたのに気づいた。出掛けにダミアンの屋敷で働く老婆が持たせてくれたものだ。

 ユエはその若草色の布をフード付きマントのようにビーオの首に巻くと、彼をテンの背に跨らせた。こうすると遠目にはスカーフをした白イタチにしか見えない。テンはひと目で野生のイタチではないと分かるだろうし、ビーオも隠れられて一石二鳥だ。


「人に見つからないように気をつけてくださいね」


 許可をもらった白イタチと小人は揃って嬉しそうな顔をする。そのままぴょんと地面に飛び降りると、木々の下を生き生きと駆けていった。


「おちびさん達は元気ねえ」


「ふふっ。そうね」


 呆れたようなムッカに、ユエは笑って同意する。ティハは羨ましそうにふたりの消えた木陰を見ていたが、さすがに舗装された道を外れて冒険するのは成人した『人間』の男の取るべき行動ではないと考え自重したようだった。




 ダミアンに誘われるがまま、温室に併設された喫茶室でお茶を楽しんだ一行。


「あの子たち、どこまで行ったのかしら」


 帰ってくる気配の無いテンとビーオにムッカが首を傾げる。彼女がティハに目配せすると、黒蜥蜴(ティハ)は金の瞳を僅かに細めつつ、ユエから何かを辿るように中空へ視線を移した。


「……こっちだ」


 腰をあげたティハが言葉少なに先導する。ダミアンは不思議そうな顔をしていたが、ユエにはティハが霊代の繋がりを視ているのだとすぐに分かった。


「とりあえず、行ってみましょう」


 そう促して後を付いて行くと、ティハは主だった遊歩道を抜け、さらに脇道へと入って行く。


「……たぶん、この向こうにいると、思う」


 歯切れ悪くティハが指差したのは、通り抜ける隙間も無いほど葉の密集した生垣の向こうだった。ユエたちは思わず顔を見合わせる。


「この下から抜けて行ったんじゃないかしら」


 生垣の下に小動物なら通り抜けられる程の隙間があるのを見つけたムッカが難しい顔をする。


「この向こうはどうなっているのでしょう?」


「うーん……。この向こうは何も無いことになっていたと思うけど。管理用の区画でもあるのかな?」


「どなたか呼んで来たほうが良いでしょうか」


 ユエとダミアンが顔を付き合わせて考え込んでいると、ムッカがふう、と大きく息をつく。そして「ちょっと汚れるけど、仕方ないわね」と言うやいなや突然地面に身を伏せた。


「ムッカ?!」


「ちょっと行ってくるわ。私なら、多分通り抜けられるから」


 可愛らしいワンピースが汚れるのも構わず、ずりずりとほふく前進で進んで行くムッカ。

 本人が気に入って買った真っ白なコートは温室に入ってからクロークに預けていたのでまだいいが、それでも庶民のユエからすれば高かった服が汚れていく様に思わず目を覆った。同じくダミアンも、こちらは彼が普段付き合っているお嬢様方なら絶対にしない行動にあんぐりと口を開けている。


「ああ……服が……」


「豪快だね……」


「ムッカー!どうだー?」


 唯一動じていないティハが様子を探るために声を張り上げる。しばらくして、生垣の向こうからムッカが叫ぶのが聞こえた。


「いたわー!……でも、今ちょっと取り込んでるの。迎えがそっちに行くから、少し待ってて!」


 ユエとダミアンはまた顔を見合わせる。


「取り込んでる?どういうことだろう?」


「迎えって、誰が来るんでしょうか?」


 管理人でも来るのだろうかと待っていると、キイ、と何かが開く音がする。きょろきょろと辺りを見回せば、蔦が絡み合っている所為で隠れていたと思われる鉄の門がひとつ、そしてそこから男性が姿を見せたのが分かる。


「あなたは……」


 その予想外の人物に、ダミアンが驚きの声をあげた。


「まったく。テンとビーオに続いてムッカまで。驚きを通り越して呆れてしまいましたよ、まったく」


 そこには、頭を掻いて苦笑する、ギードがいた。

 シュトカ村自警団所属であるはずの彼が、なぜ王都の温室の、しかも非公開の場所から出てくるのか。今日だって用事があるからとユエ達の外出に同行しなかったのに。

 てっきり友人にでも会いに行くのかと思っていたので、ダミアンだけでなくユエとティハも困惑の色を隠せない。


 ギードは特徴的な髭をひと撫ですると、ユエを見て困ったように眉を下げる。そして非常に言いにくそうに口を開きこう告げた。


「……ユエ、殿下(・・)が呼んでいる。申し訳ないが、来てもらってもいいか」

ご覧いただきありがとうございます。

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