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触れ合いはかくも淡く

■この小説は平日18時更新予定です■


今週もよろしくお願いいたします!

「『様』はやめてくれ、クレト爺。僕はもう、爺が頭を下げるような立場の人間じゃないから」


 ダミアンが苦笑して馬車を降りる。クレト、と呼ばれた上品な初老の男性は、正装をまとった彼を眩しげに眺めた後、薄く微笑んだ。


「そういう訳には参りません。『ルーシェン』の姓を名乗られたということは、私のお仕えする(あるじ)が後継候補としてダミアン様をお認めになったということに等しいのです」


「僕は王都で職に就くために『ルーシェン』の名を取り戻したかっただけだ。……それは、爺だけでなく、アルトゥロ様もご存知のはずだろう?」


 肩をすくめて茶化すように言ったダミアンは、この話は終わりだ、という風に手を振る。そして、「それよりも」と馬車の中から動けないでいるユエをおもむろに振り返った。


「そこの金髪の彼女が今回契約を得た、ユエ・カファロだ。後ろの小さな女の子が例の『霊代』さんだよ」


 ルーシェン領によく見られる(あお)の、しかし年齢を重ねたことで色が幾分()せて見える空色の瞳が、ついっとユエとムッカをそれぞれ上から下までなぞる。値踏みされているような気がしたユエは思わず身を固くした。


「出迎えを買って出てくださったのですか。ありがとうございます。……しかし、随分可愛らしい方がお見えになったものですね」


「だろう?まあ、このままではアルトゥロ様に謁見できないだろうから、衣装くらいは整えてやってほしい。ああ、それから。後ろの馬車にバシリカの役人と、ユエの連れがふたり乗ってるんだ。一緒に案内してくれるかな」


「かしこまりました」


 クレトは後ろの辻馬車を見ると、背後に控えていた部下に指示を出す。

 ユエは自分の粗末な旅装を見下ろして顔を赤くした。謁見の際に着られるようにと用意した少しはましな服が荷物の中には入っていたのだが、船着場に降りていきなりダミアンに出くわしてしまったので着替える暇も無かったのだ。


「お嬢様方は私が案内いたします」


 恥ずかしさからぎこちない動きで馬車を降りると、クレトが自ら案内すると申し出る。今さら着替えを持っているのですがとも言えず、「はい」と大人しく後をついて行くしかない。後ろに続くムッカは相変わらず憮然とした表情で返事すらしなかったが、霊代である彼女を咎める人は誰もいなかった。



*****



 案内されたは良いものの見事な装飾の施された椅子に座るのもはばかられて、ユエは部屋をうろうろしていた。一方のムッカは構うことなくソファに腰掛け足を組んでいる。


「衣装をお持ちいたしました」


 扉をノックする音がする。ユエが「は、はい。どうぞ」とあわてて返すと、「失礼いたします」とお仕着せを身につけた若い女性が入って来た。腕には服や靴が入っているらしい箱をいくつか抱えている。


「着替えをお手伝いいたします」


 感情のこもらない平坦な声でそう告げた彼女は目を伏せたまま箱を脇に置くと、突然ユエの服を脱がそうとした。

 もちろんただの平民であるユエが脱がされることに慣れているはずもない。いきなりの行動に驚いて、ボタンを外そうとする彼女の腕を自らの手で押さえた。


「あっ、あの、自分で……」

「……っ、触らないで!!」


 突然弾かれたように身を離したお仕着せの女性の叫びに、ユエは肩を震わせる。

 すぐに我に返った彼女は、さっと顔を青褪めさせ口元を覆った。一度はユエを見たものの、うろうろと視線を彷徨わせ全く目線を合わせようとしない。


 世話を言いつけられたからここに居るだけで、彼女としては『霊代の契約者』は接触したくない相手だったのだろう。ここまで極端に恐れられた経験の無かったユエはどうしていいか分からない。


 元からユエを知っているシュトカ村の人々が遠巻きに見ているだけ、という対応をしたのはまだ可愛い方だったのだ。これから先、『ユエ』という人間を知らず、単なる『霊代の契約者』として接してくる彼らの反応はこういうものになる。


 何か言わなければ、と思いながらも、どうすれば彼女の不安を拭うことができるのかさっぱり分からずにユエはうつむいた。


「……その服の着替え方なら、あたしが知ってるから。あなたは出て行って」


 ムッカが低い声を出す。その言葉に怯えたように瞳を揺らした女性は、さっと頭を下げると駆けるように部屋を出て行った。

 バタン、と音を立てて閉まった扉を見て、ユエは詰めていた息をようやく吐き出す。


「……着替え、手伝うわ」


 ソファから腰を上げたムッカが箱を開けて衣装を椅子に掛ける。手早く用意される着替えの準備を見ながら、ユエは思いをめぐらせた。


 霊代に救われたことのあるシュトカ村とは違って、世間の認識は思っていたよりも酷いのかもしれない。他の契約者達は常にこんな環境に身を置いているのだろう。霊代の契約者と知っても態度を変えなかったバルバやマリー、それにレオとカミラが特異なのだ。


 それをはっきりと感じ取って、気落ちする。それでも、とユエは下降した気持ちを断ち切るように首を振った。


 ギードだって任務とはいえ、ユエを特別扱いすることなく一緒に居てくれる。ダミアンも霊代の研究者だから慣れているだけかも知れないがまったく普通だった。

 恐れることなく接してくれる人間に囲まれている自分は、相当恵まれているに違いない。それに、霊代のムッカやティハ、テンもついているのだ。それで充分ではないか。


「ユエ、これ着せるから服を脱いでくれる?」


 ムッカに差し出された筒のような下着を受け取りながら、ユエは密かに思いを新たにした。



*****



 ―……一時間後。


「……へえ」


 ユエが謁見の控え室に現れたのを見て、ダミアンが呆気に取られる。青い顔で腰回りを撫でていたユエは、彼に気づくと改めて淑女の礼を取った。


 白金の髪に映える薄い青のドレスは、首元をブラウスのような白い生地で覆いリボンをあしらった可憐な印象のものだ。ウエスト周りはこれでもかというほど絞られ、そこから下は流れるようなラインでスカートが続く。

 そしてユエの象徴とも言えるおさげ髪はすっかり様変わりしていた。後ろから編み込んでひとつにまとめ、片側の肩に流しているのが大人びた雰囲気だ。


 後ろから少し得意気な顔をしたムッカが部屋に入ってくる。まだ幼い少女の姿を模している彼女は袖の膨らんだ可愛らしい若草色のワンピースを身につけていた。


「……あの、ギードさん達は」


 連れの姿が見えないのに気づき、ユエが顔を曇らせる。遠慮もせずじっくりとユエを眺めていたダミアンは、はっとすると目を瞬かせた。


「……あ、ああ、えっと。自警団の彼なら、バシリカの役人と一緒に先に謁見しているよ。黒髪のご親戚の方は特に紹介する必要もないから、与えられた部屋にいると思うけど」


「そうですか」


 ユエはほっと息をつく。

 部屋に隔離されているなら、ティハが余計なことでこの屋敷の人々を煩わせることもないだろう。とにかく今は、腰を締め付けるコルセットの苦痛と謁見を控えた緊張でいっぱいいっぱいだ。


 ……実際はティハの美貌を目にした者から話が伝わり、噂に惑わされたメイド達がお菓子やお茶を手に入れ替わり立ち代わり彼の部屋に出入りしているのだが、ユエはそれを知るよしもなかった。




 控え室でしばらく待っていると、扉が開いて執事のクレトが顔を出す。


「ダミアン様、ユエ様。お入りください」


 バシリカの役人とギードの報告が一通り終わったらしい。ふたりが出てこないところを見ると、この後はユエも交えて話をするのだろう。


「あたしは呼ばれなかったけど、入っていいのかしら?」


 むすっとしたムッカが腰に手を当てる。その大きな態度にユエは慌てるが、クレトは少しばかり眉を動かしただけで気にした様子もなくすっと頭を下げた。


「……申し訳ございません。お名前を存じ上げなかったもので、お呼びできなかったのです。『霊代』様もご一緒にどうぞ」


「じゃあ入らせてもらうわ。それと、あたしは『ムッカ』よ」


 霊代がわざわざ個を主張すると思っていなかった、というのが本当のところだろうが、さすが領主の執事。これしきのことでは動じないようだった。


 とはいえ、この態度はいただけない。先陣を切って謁見の広間に入っていくムッカの後を追いながら、ユエは小さく「申し訳ありません」とクレトに謝った。

ユエさん初おめかし!

どうでしょう?みなさんの想像の中でちゃんと可愛くなってますか?w

しかし…ア、アルトゥロさんまでなかなかたどり着けない…;

ルーシェン領内を出るのは何時になることやら(;一_一)


今日もご覧いただきありがとうございます。

ブクマ、励みになっておりますm(__)m感謝。。

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