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事件の収束と少女の決意

■この小説は平日18時更新予定です■

ユニーク1000・PV4000超えました。感謝感謝です(´・ω・`)

「では、我々の書状を盗んだ男達が死んだのは、霊代のせいだと?」


「……はい。それ以外には考えられません。男達は何か太いものに刺し貫かれて死亡していますが、現場に居合わせたのは十六歳の少女と足の悪い老婆だけです。二人ともまだ意識が戻っておらず、殺害したと思われる当の霊代は、『自分が生まれた時に何か起こった可能性はあるが、それが何なのか分からない』と言い張っています」


「はあ……領主様の気まぐれが、とんだ厄介事を引当てましたな。どっちにしろ、霊代を得た者を王都に送らねばなりません」


 報告を聞いて役人は渋い顔をした。ジークはできるだけ無表情を装っていたが、その言い草に苛立ちを隠せない。貴殿らがしっかり書状を管理していればあの男達を村に入れる必要も無かったし、霊代も生まれなかった、と言い返しそうにもなった。しかしすぐに、自分の力不足を責任転嫁しているだけだということに気づいて虚しさを感じた。


 

 バシリカに派遣したギードは街道に出てしばらくもしない内に追手の役人とはち合っていた。事情を聞いてシュトカ村にすぐ取って返したが、すでにバルバを人質に男達が森に入った後だった。そして救出の算段をつけている内にユエが害され、霊代が生まれてしまった。


 ……こんな事を二度も起こさないために、自警団に入ったというのに。 


 ジークは剣塚を前にして苦虫を噛み潰したような気分を味わっていた。

 状況証拠から考えて、今回の霊代が得たと思われる力は父のものよりさらに強大だった。着ていた服の状態や酷い貧血に陥っていることから、ユエが相当の傷を負っていただろうことは報告を受けている。それなのに身体に傷が見当たらない、と診察したルイは困惑していた。さらに、村人が採集を行う森の浅い部分一帯が草のみならず樹々まで枯れ果てていた。


 人を殺せるだけの力と、おそらく傷を癒す能力。そして因果関係は掴めていないが、草木を枯らす……というよりも、生命力を根こそぎ奪うような何か。人の姿をしたムッカと名乗った霊代は今のところ知らぬ存ぜぬを貫いているが、少なくともこの三つの力は持ち合わせているだろう。


 霊代が大きな力を得るほど、契約者の寿命は短くなる。

 人を殺す剣を霊代としたジークの父は一年で死んだ。高齢のバルバがあのような霊代を得たとすれば、すでに死んでいるだろう。であれば、霊代を得たのはまだ歳若いユエということになる。


 妻のカミラが娘のように可愛がっていた姿を思い出す。あの息子と同い年の身寄りのない少女は、あとどれほど生きられるのだろうか。


「……くそッ」


 ジークは過去の誓いを守れなかった自分を呪った。



*****



 深い眠りからユエが目覚めると、枕元にバルバが座っていた。


「ああ。起きたのかい」


「……師匠。私、助かったのですか」


 ここはバルバの家のようだ。剣で貫かれた腹を撫でると、不思議なことに傷が無かった。驚いて身体を起こそうとするが、くらりとめまいがして寝台に腕をつく。


「……血が足りてないんだ。ちょっと待ちな」


 白湯を作りに一度部屋を出て行ったバルバは、戻るなりユエの脈を取る。そして造血剤と思われる薬包を取り出した。


「飲めるかい?」


 ユエはひとつ頷くと、ゆっくりと身を起こして薬を口にした。独特のえぐみを堪えて白湯と一緒に飲み下す。


「三日も寝てたんだ。とりあえず、何か食べなきゃいけないね」


「パン粥を作ったからそれを食べればいいわ」


 バルバの言葉に当たり前のように答えて部屋に入ってきた少女に、ユエは首を傾げる。手に湯気の立つ小さな鍋を持ったその少女は、邪魔にならないよう褐色の髪をまとめている。てきぱきとサイドテーブルを片付けて食事の用意をする姿に見覚えはなかった。


「……師匠、新しいお弟子さんですか?」


「何言ってんだい。私の弟子はルイとユエのふたりしかいないよ」


「じゃあ、こちらの方は?」


 遠慮がちに目を向けたユエに少女は一瞬きょとんとしたが、すぐにころころと笑った。


「そっか。この姿を見せるのは初めてね。……人間になっちゃったけど、あたしはムッカよ」


 今度はユエがきょとんと呆ける。ユエより四、五歳は年下に見える少女は榛色の目を細めてにこにこと笑っている。小さな身体なのに、質素なワンピースに料理用のエプロンをつけた姿は妙に様になっている。


「これでひとりでも料理ができるようになったわ。パン粥も、あたしが作ったのよ」


 腰に手を当てて誇らしげに胸を反る。おたまの面影はどこにもないけれど、その喋り方と態度はムッカそのものだった。


「……ほんとうに、ムッカ、なのね?」


 確かめるようにユエがつぶやくと、もちろんよ、とムッカは明るく笑った。

 地面に転がって動かない姿を見たとき、ユエは彼女が消えてしまうと思った。けれど、おたまは無事だったどころか人間になってしまったのだ。ほっとするやら嬉しいやらで、ユエは泣きそうになった。ムッカの手を握ってその存在を確かめる。おたまのときは冷たかったが、今はちゃんと温かい。


 やり取りを黙って見ていたバルバが、ふん、と肩をすくめる。


「挨拶が済んだんなら、さっさと食べな。栄養を取らないと治るもんも治らないよ」


 はい、とユエは泣き笑いの表情で師匠に返事をした。




「……じゃあ、ムッカが霊代ってことは、もう村の人は知っているのね?」


 バルバは「ユエの今後について役人と相談がある」と言って出かけたので、家に居るのはユエとムッカ、そして枕を背に身を起こしているユエの膝の上で不貞腐れているちびトカゲ姿のティハだけだ。玄関の前には自警団から派遣された見張りが立っているようだが、ここでの会話は聞こえない程度の距離はある。


「そうよ。ユエもババも意識が無かったし、ちょっと誤魔化せないくらい酷い状況だったから、あたしが生まれたときに何か起こっちゃったみたい、ってことにしたの」


 あの男達は死んじゃって、森も少し枯れちゃった、とムッカが言いづらそうに眉を寄せた。

 ユエはティハが癒してくれたという腹を見る。確かにあのとき致命傷を負ったはずだが、今は綺麗に治っている。こんな能力を持つ上に森から際限なく力を引き出せるティハの存在が明るみに出れば、色々な人が捕らえようと躍起になるに違いない。同じ王都で研究されるにしても、命を落とす可能性のある人間のユエと、死ぬこともないトカゲのティハとでは、その扱いから全てが違ってしまうだろう。


 ティハには命を救われた。霊代の力を欲する人間の業で彼が辛い思いをするくらいなら、今後の人生が少し窮屈になるくらい、我慢できる。


「そうね。森と契った霊代だなんて知られたら、きっとティハはどこかに閉じ込められてしまうわ」


 もっちゃもっちゃと機嫌悪くパン粥を咀嚼しているちびトカゲの頭を撫でる。ユエが食べた残りをねだったので少しずつ与えているのだが、その小さな腹はすでにパンパンだ。どうやら、ひとり森に残るのが嫌で妬け食いしているらしい。


 家の外から話声が聞こえる。どうやらバルバが戻ったようだ。ベッド脇の窓を開け、ユエはティハを窓枠にそっと置いた。


「ティハ。助けてくれて、本当にありがとう」


 ティハはユエが目覚めるのを待ってくれていたようだが、見張りのついたバルバの家にいつまでもいるのは危ない。ユエはここでティハに別れを告げる決意をした。ただ、意外と猪突猛進型のティハが独りになったときに暴走しないかどうか。それだけが気がかりだった。


 「私達はきっと王都に行くことになるけれど、あなたのことは何時でも想ってる。……だから、元気で。妬けになったり、しないで」


 最後は少し声が濡れてしまったが、一生懸命笑顔を努める。玄関の開く音がした。汐時だ。


「さようなら」

「またね、ティハ」


 ムッカが挨拶し終わったのを機に、木扉を閉めた。つぶらな金の瞳は最後までユエ達を見続けていた。



*****



 戻ったバルバは、ひどく疲れたような顔をしていた。


「四日後、村から出発するとさ。……王都まで、護衛としてギードがつくから安心しな」


「はい」


 傍らにムッカを従えて、ユエは静かな表情で頷いた。

せっかく目覚めたのにお別れでした。

もうすぐ新章がはじまりますが、トカゲはこのまま引き下がる…のか。


今日もご覧いただきありがとうございます。

ブクマ励みになってますm(_ _)m

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