霊代たちの選択
■この小説は平日18時更新予定です■
遅れたうえにちょっと短いです。。。すいません。
「だれ……だ?」
ティハは狼狽する。突然現れた少女は裸だった。人間は人前で服を脱がない、そうユエが言っていたことを思い出す。であればこの少女は人では無いのか。それなら。
「分かるでしょ。……ムッカよ」
十二、三歳に見える少女は、ティハの思考に応えるように頷いた。
ティハは己れの考えをまとめ切れずにいた。この少女はムッカ。確かに、ユエとの間に霊代の繋がりが見える。でも、ムッカが人の姿になれば……、ユエの命が尽きてしまうのではなかったか。
「ユエ!ユエは」
「大丈夫、傷はふさがってるわ。息もしてる」
霊代同士、考えることは同じだった。すでにムッカはユエの傷の具合を確かめていたらしい。
ユエの胸が上下しているのを見てほっとしたティハとは対照的に、ムッカの小ぶりな顔がしかめっ面になる。
「……あたしが人になったのは、多分ティハのせいよ。力を譲渡できるのは知ってたし、もらい過ぎて今はびっくりするくらい余裕がある。……でも、勝手に人間になるなんて聞いてない。ユエの傷は治っちゃうし。ティハ、どうやったの」
「……わから、ない。ちからを、そそいだら、こうなった」
そもそも、霊代に力を譲渡できると知ったのはついこの間だ。それに、ユエに贈った花飾りのように、力を加えることで少しばかり草木の命を繋ぐことができるのは経験上知っていたが、その効果が人間にまで及ぶとは思っていなかった。
「……そう」
ムッカは少しうつむくと、おもむろに周囲に転がる男達の死体を見渡した。そして、剣の横に転がる男の側に寄り、その顔を覗き込む。
「……こいつが、ユエをやったのね」
冷たい表情でしばらく見つめた後、何かを探すように男の懐を探る。そして一枚の紙を取り出すと、中身を読み始めた。
「こんな奴らが森にいるなんておかしいと思ったら……大トカゲの捕獲、ね。領主さまも、余計なことをしてくれたものね」
ムッカが吐き捨てる。ティハは「大トカゲの捕獲」と聞いて目を見張った。こいつらがこの森に来たのは自分の所為だったのか。そんな気持ちを読み取ったのか、ムッカが怒ったようにティハを諭した。
「ティハが悪いんじゃないわ。大トカゲうんぬんの前に、いきなり人を殺そうとするこいつらがどうかしてるのよ。領主さまは人を見る目がないんだわ。……とりあえず、ユエとババを運ばなきゃ。ふたりとも、このままにはしておけないわ」
息はしているものの、流した血が多かったせいでユエの顔は驚くほど真っ白だ。バルバも頭を打っているので油断はできない。
「人間のティハは帰ったことになってるし、蜥蜴の姿で行けば捕まっちゃうし……どうしよう。ところで……これ、どうやっておたまに戻ればいいの?」
ううん、と唸ったムッカが自分の手の平を見つめる。
「もどれ……ない、のか?」
「だって、自分の意思で人間になったわけじゃないもの。戻り方なんて知らないわ」
ムッカがむう、と眉根を寄せる。結局、ムッカが意識を集中しても、ティハが力を加えてみても、姿形がおたまに戻ることは無かった。ぽつりとムッカがつぶやく。
「誰も、来ないわね。……いいわ。あたしが誰か呼んでくる」
「でも、たましろ、とばれたら」
「仕方ないわ。それに……おたまにも戻れないし、こんな状況じゃあ、誤魔化しきれないから」
枯れ果てた森の惨状と男達の死体、倒れたままのユエとバルバを見て、ムッカが肩をすくめる。
この異変を起こした人物として、恐らくユエが真っ先に疑われる。明らかに剣で斬り裂かれた、それも血まみれの服を着ているのに、傷ひとつ無く息をしているのだ。常識で説明できない不可思議な事象には、霊代が関っていることが多い。村で四十年前に起こったことを考えれば人々が答えに行き着くのも時間の問題だった。
一度疑われてしまえば、おたまに戻れないムッカを誤魔化すのは難しいだろう。
「……いやだ!ひとりは、いやだ!!いっしょに、いく!」
ティハは激しく頭を振る。せっかく命の戻ったユエやムッカと離れるのは嫌だった。
もしユエがムッカという霊代と得たと分かれば、ふたりは首都に連れて行かれることになる。ギードが言っていた通り、友人や知り合いと離れ離れになるのだ。それはこの森に住むティハとの別れも意味している。
ムッカはそっとティハを撫でた。
「ごめんね。でも、ティハが出てきたら、余計にややこしいことになるわ。森と契った霊代なんて今まで聞いたことがないもの。それこそ捕まったら何をされるかわからない。……ユエは人間だし、前例があるからひどい目には合わないはず」
血だらけの服をまとった痛ましい状態のユエをちらりと見たムッカは、さらに自分に言い聞かせるように言った。
「それに、誰かひとりでも助かるならそのほうがいいわ。……きっと、ユエもそう言うと思う」
*****
男の一人から剥ぎ取った上衣を身に付けたムッカは、ひとり村へと歩みを進める。身丈が長いせいでサイズの合わないワンピースのようになっている服の中には、どうしてもついていくと言ってきかないティハがちびトカゲの姿で入っていた。
「おい!誰か来るぞ」
詰め所に近づくと自警団のひとりが声を張り上げる。それを聞いたレオが飛び出してきて、しかしムッカを見た途端うろたえて足を止める。
通常であれば無害そうな少女の容姿をしている彼女だが、今は素肌に血濡れて穴の空いた男物の服を着た状態だ。レオが近寄るのをためらうほど、少女は異様な姿をしていた。
「バルバとユエが森に倒れているわ。誰か運べる人を寄こして。……それと、男達は死んだから」
静かに伝えられたムッカの言葉に、レオが真っ青になる。そして周囲の人が止めるのも聞かず森に走っていった。トージとルイもその後を追いかける。馬を連れた身綺麗な男と話をしていたジークが険しい顔で近寄ってきた。
「……君は、誰だ。どこからこの森に入った」
尋ねながら、じろじろとその怪しい姿を検分する。この格好で誤魔化せるはずもなく、ムッカは答えることを躊躇わなかった。
「あたしは、ムッカ。霊代よ」
「……霊代、だと」
その言葉を聞いたジークが目を見開く。取り乱すことはなかったが、顔はひどく青褪めている。
「……詳しいことは、後で話すわ。今はユエとバルバの治療を優先して」
レオの背に背負われて運び出されてくるユエを見て、ムッカは目を伏せた。
ムッカさんが人になりました。
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