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ある日森の中に家がたった

■この小説は平日18時更新予定です■


昨日でちょうど連載一カ月でした。我ながらよく続いているものだ…

 昼前、バルバの家を出たユエが森に入ると、木々がまるで誘うかのようにざわざわと蠢いた。ぐいっと差し出された枝に掴まり足を乗せれば、いつものように枝トロッコがユエを放り始める。目を開けたままだと酔ってしまいそうなので、ぎゅっとまぶたを閉じていた。


 髪や肌をなぶっていた風が止んで、ユエは終着点に着いた事を知る。

 そっと目を開ければ、視界の隅に湖面のきらめきが映り、正面には黒蜥蜴姿のティハがいる。そこまではいつもと同じだった。

 しかし、その後ろには――……

 家がすっぽり入ってしまいそうな太さの、大樹(・・)がそびえていた。


「……な、んですか、それ……」


 あまりの大きさに、ユエは目を丸くする。

 何本もの樹が絡まり合っているその大樹は、表面をツタが大量に這っていて一見すると崖のようにも見える。注視しなければ気付かないほど周囲の景色に溶け込んでいるので、普通の人であれば気付かずに通り過ぎてしまうだろう。しかしユエは、この湖に何度も足を運んでいるがゆえにその違和感に気付いた。こんな樹は一度も見たことが無い。

 茫然と立ち尽くすユエとは対照的に、ポケットから飛び出したムッカは興奮したように叫ぶ。


「なあに、なあに?!これ、ティハが作ったの?」


「そうだ。いえ、をつくった」


 ティハが自慢げに胸を反らす。


「……家?」


 これのどこが家なのだろう。ユエは不安に襲われる。まさか、中はただの空洞だったりするのだろうか。


「はいると、いい。なかは、かいてき、だ」


「入る入る!……でも、どこが入り口なの?」


 ティハの誘いに嬉々として乗ったムッカが、疑問の声を上げる。確かに、木々の低い部分はツタが隙間なく覆っていて入り口らしきものは見当たらない。

 ひとつ頷いた黒蜥蜴は、()を使った。


「こう、する」


 風もないのにツタがぶるりと葉を震わせて、まるでカーテンのように左右に開く。そして最終的に、地面に接する部分に扉と同じ大きさの空洞が一か所、それ以外にも窓のように何か所か、大樹にぽっかりと穴が空いた。


「どうぞ、おはいり、ください」


 得意げにティハはそう言って、扉と思しき穴に入っていった。ユエとムッカは一度顔を見合わせて、それから恐る恐るその後を追う。


「うわあ……」


 ムッカが感嘆の声をあげる。ユエも驚きに目を見張った。

 自然感満載だった外部とは違って、中は予想以上に()だった。壁と床は木々ができるだけ平らに組まれていて、歩き心地は悪くない。そして天井は高く、上の方に空けられた穴から燦々と太陽の光が注いでいて、室内は思いの他明るい。人が管理する家だと窓の開け閉めが大変な高さだが、力を使えるティハには何の問題もないのだろう。


「不思議……」


 ユエはテーブルの足元を見て、思わずつぶやく。床から継ぎ目なく生えている(・・・・・)そのテーブルは、ちょうど良い高さでキノコの傘のように天板が広がっている。椅子はさすがに生やすと動かせなくなるので、代わりに切り株が置かれていた。


「ねえ見て、ユエ!こっち、台所よ!」


 ぴょんぴょんと家中を跳ねまわっていたムッカが、仕切られた別の部屋から顔を出す。

 ユエがその部屋に入ると、そこは白く輝く石で覆われた台所だった。耐火も兼ねているのだろう、丸みのある石の壁をそっと撫でる。この石は湖の底に落ちているのを見たことがあった。そしてさきほどの居間にもレンガで覆われた暖炉があったが、ここにはさらに専用の炉端が設けられている。

 少し見ただけでも、ティハがこの部屋に一番力を入れていることが伺えた。


「すごい……」


 炉端に刺さる火かき棒や鍋を置くためのごとく(・・・)、流しの中の桶などの日用品は、おそらくティハが村で買い集めたものだ。しかし、その他の大工に頼むような部分についてはすべて力を使って仕上げてしまったのだろう。

 たった数日で造られた家に、ユエはただただ、感心するしかなかった。


「ユエ、ふくが、ほしい」


 黒蜥蜴のティハがユエの足元に体を寄せてねだる。


「あ……ああ、そうです、よね」


 我に返ったユエが、籠の中から服を取り出してティハの背中に乗せる。

 黒蜥蜴は服を背負ってだしだしと居間に向かうと、家にひとつだけある扉を頭で押して(・・・)開けた。ユエの家とは違って、ティハやムッカが開け閉めできるようにわざとノブを付けなかったらしい。扉の向こうには白いシーツに覆われたベッドがあったが、すぐにティハが閉めてしまったのでよく見えなかった。


「ティハの熱意には恐れ入るわね……」


 居間のテーブルに乗ったムッカがしみじみと言う。ユエは、ただこくりと頷くしかなかった。


「これで、森でも温かい料理を、食べられる」


 人の姿になったティハが改めて宣言する。ユエとムッカは「やっぱり」と思うだけだった。


「まあ……確かに、これでいつでもあったかいものを食べられるわね。服も、置いておけばいいし」


「そう……ですね。便利になったと、思えばいいでしょうか」


 とりあえず、その日のメインは鶏肉のグリルを挟んだサンドイッチだったので、付け合わせのスープを温めるだけに留まった。


「やっぱり、こうやって家で、皆で食べるのがいい」


「そう?外で食べるのって、ピクニックみたいで楽しいわよ」


「んん……それは、いつも家で食べているから、外が特別に感じるんだ。オレ(・・)は、いつも外で食べていたから、家で食べると嬉しい」


 ムッカとそんな会話をしながら、ティハは満足そうに料理を頬張っている。

 ユエはそれを見てくすくす笑った。嬉しいときの彼の顔はやっぱり緩んでいて、いつもより幼く見えた。




「次は、いつ森に来られる?」


「二日後……ですね。ですので、明日は夜であれば家に来ていただいて構いません」


「分かった」


 ティハはにっこり笑う。服を置いておくための家もできたので、見送りは人の姿のままだ。

 今までは服を持ち帰っていたのでひと揃いしか持ってこられなかったが、これならストックしておけそうだ。洗濯する必要もあるし、次に来るときにもう何着か持ってこようなどとユエは考えながら、枝トロッコに身を任せた。



*****


 湖のほとり、森の中に建つ、大樹の家。


 結局、ユエがそこを訪れることができたのは、その後の一回だけだった。

 そしてしばらく、そのツタに覆われた隠れ家は忘れ去られることになる。

ちょっと短いですが、キリがいいのでここまで。

もうすぐ物語の折り返し地点がきます。書いていると横道に逸れて長くなりがちなのが悩み…。


ブクマありがとうございます。本当に励みになります。

しかし、転生もトリップもチートもないので、自分でも物語の売りがなんなのか分からなくなってきました(-"-)人に読みたいと思ってもらえる「あらすじ」ってむずかしい。。。

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