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下っ端役人は失態をおかす

ユニークが600を超えました。地道ですが、ちょこちょこ祝はやる気のために続けるじぇ(*゜∀゜*)え


ふだんは平日18時更新ですが、金曜日休んでしまったので例外であげます。月曜からはふだん通りの予定です。

 バシリカの街。

 領主からの命令を受け取った役人は頭を抱えていた。


「なんだって、大トカゲなんか……」


 お貴族様の考えることはよく分からない。常々そう思ってはいたが、まさか聡明だと噂のうちの領主様がこんなことを言い出すとは。


 シュトカ村に現れた大トカゲの噂は役人の耳にも入っていたが、どうせ闇の中で何かを見間違えたのだろうと周囲の者ともども一笑に附していたのだ。なのに庶民でさえ本気に取ろうとしなかったそれを「捕まえろ」との書状が届いたときの驚きといったら。これまでの優れた統治を知っているがゆえに落胆は大きい。


「こんな馬鹿らしい役目、やりたいなんて奴いないよなあ……」


 一応「大トカゲを捕まえられなかった時は珍しい鳥でもよい」と但し書きはついているが、基本的に貴族の命令は絶対だ。そうそう簡単に「はい、居ませんでしたので鳥にしました」と言えるものでもない。言い訳ができるだけの大捜索を行った後で、やっと鳥で手を打つことができるのだ。

 大トカゲなど居ないと分かっているからこそ、そんな面倒な任務に就きたがる酔狂な者は役人の周囲にいなかった。


 という訳で、今は街の飲み屋でヤケ酒を煽っている。ぐいっとジョッキを傾けると、カウンターの向こうからマスターが気遣わしげな視線を向けてくる。今日はもう十杯ほど飲んでいるから、心配なのだろう。


「お客さん、それ以上の飲むと潰れっちまうよ」


「……なあ、マスター。シュトカ村の大トカゲ、本当にいると思うか?」


「ああ、その話かね。……どうせ、酒に酔ったやつの戯れ言でしょうよ」


 今のあんたみたいな、とでも言いたそうなマスター。役人はいやいや、と首を振った。


「僕だって、そんなもの居ないと思ってるさ。……でも、領主様が捕まえろ!って命令を出しちまってさ……。どうすりゃいいんだか。そんな馬鹿げた任務、誰がやりたいって言うんだよなあ」


 がん、とカウンターに突っ伏す。額を打ち付けたが、そんな痛みよりもこれからのストレスで荒れそうな胃のほうが心配だ。結局、何人か嫌がる同僚を引っ張って、自分が先頭に立って動くしかないのだろう。はああ、と大きなため息が漏れた。


「おう。その話、俺たちが受けてやろうか」


 ダン、と頭のすぐ横に大きなジョッキが置かれる。顔を上げると、にやにやと笑う偉丈夫が三人、役人を囲んでいた。


「大トカゲだったな。それを探すためなら、もちろんラガルティハの森にも入れるんだろう?」


「あ、ああ……。領主の委任状があれば、な……」


 気圧された役人がのけぞる。あまり良い雰囲気ではない三人組に、思わず委任状の入った懐を押さえた。その仕草をみて、にやりと一番大きな男が笑う。強い力で役人の腕を掴むと、カウンターに金を叩きつける。


「おい、こいつの分もこれで足りるだろう。……俺たちはこいつに用がある。少し黙っといてくれよ」


 マスターを脅すと、男たちは有無を言わさず役人を引っ張って飲み屋を後にする。書類仕事ばかりで力のない役人は、抵抗することもできずにそのまま暗がりに連れ込まれてしまった。



 翌朝。傷だらけになった彼が路地裏で見つかり、役所は騒然となる。領主の委任状は無くなり、捜索はしたもののすでに街から男たちの姿は消えていた。馬を調達していったらしい、と情報があがって、怪我をした役人の上司は唇を噛む。

 今から追いかけても、きっとシュトカ村に着くのは奴らが先だ。……悪いことが、起きなければいいが。四十年前の事件が頭をよぎったが、上司はそれを振り払って檄を飛ばした。部下の失態は、自分が拭わねばならない。


「馬を用意しろ!奴らの後を追う!」



*****



 ――バシリカで領主の委任状が奪われる、四日前。


 ティハが村に来て、十日以上が経った。ユエは毎日配達と薬の調合をしている。


 薬匙の件はすでにマリーと話をつけて、価格の半分をバルバの懐から出してもらうことになった。

 マリーの料理修行も順調に進んで、本はすでに三冊目に入り、昨日はユエの家でトージに食べさせる料理の試作もした。ムッカはもちろんその間ポケットから出られないので、たまにもどかしげに動くのを誤魔化すのに苦労した。きっと言いたい助言が色々あったに違いない。


 ティハはというと、バルバから高価な薬草の在り処を聞いては資金稼ぎに勤しんでいる。彼にとって森は庭も同然なので本当は聞かなくても分かるのだろうが、気を遣ってかバルバに聞いたものしか採ってこない。

 初めはお金の使い方に悩んでいたようだが、やりたい事を見つけた今は積極的にお金を稼いでいて、表通りの店でも色々購入していたと噂で聞いた。ちなみにマリーいわく、鍛冶屋にも来たらしい。


 ユエも何をしているのか気になって聞いたのだが、「出来上がってからのお楽しみ」とティハは笑って教えてくれなかった。……全く、面倒なものでなければいいのだが。


 ――……もうそろそろ、ルイが復帰する。

 昨日、バルバがそう言った。この生活も終わりになると思うと、少し寂しかった。



*****



「師匠、おいでですか」


 夕方、ユエとバルバが薬を調合していると、家の外から男の声がした。ユエはあまり聞き覚えのない声だったが、バルバは心当たりがあったらしくすぐに返事をする。


「おはいり!」


 しばらくして、部屋の入口に男が姿を見せる。ルイだ。右手にまだ包帯が巻かれている。きっとこの怪我の所為で薬師の仕事ができなかったんだろう、とユエは推測した。


「師匠、面倒をかけて申し訳ありませんでした。……それに、ユエも。ありがとう」


 ルイは師匠に一度頭を下げると、ユエにも礼を言う。彼のはにかんだような笑みは、村の女性達が騒ぐのも無理はない、と思うほど甘い顔だ。面倒事を避けたがるくちのユエはわざとルイには近づかないようにしていたので、これほど近くで見たのは初めてだった。


「……いえ。私は、師匠のお手伝いをしていただけですので」


 あまり見ていると顔が赤くなりそうなので、ユエは視線を逸らして俯く。……自分だって、ちゃんと女の子なのだ。反応くらいはしてしまう。

 ルイは青い目を細めると、バルバに手土産だと言って酒を渡した。それから、ユエにはお菓子の包みを差し出してくる。その見覚えのある茶色い包みに、ユエは首を傾げた。それを見留めたルイが苦笑する。


「もちろん、ちゃんと店で買ったものだからね。……いくらなんでも、もらったお菓子を横流ししたりはしないよ」


 そういうあたりは気にする人らしい。人間歴の浅いティハとは違った対応が新鮮だ。しかし、この包み……もしかしたら、女性陣の何人かは店で買ったものを渡していたのかもしれない。ユエは肩をすくめた。


 そうこうしているうちに、ティハが帰ってくる。


「ただいま、戻りました」


「おかえり。……ああ、ルイ。知ってるかもしれないが、こいつはユエの親戚でね。薬師だってんで、薬草の採取を手伝ってもらっていたんだ。礼を言っときな」


 バルバの紹介にルイが興味深そうにティハを見て、挨拶する。


「やあ、君がティハ・リームルバ?僕はルイだ。せっかく村に来ていたというのに、面倒をかけて済まなかったね。ありがとう」

 

「……オレは、ティハだ。別に、森には用があったから、構わない。よろしくな」


 いつのまに砕けた挨拶を覚えたのか、ティハがルイの肩を叩く。

 線の細い美形と、ガタイの良い美形が並ぶとまさに壮観だ。ちなみに、ルイは村でよく見られる濃い金髪に青い目、ティハは言わずもがな黒髪に金の瞳をしている。女性陣がこれを見たら「きゃーッ」とかなんとか叫びそう……とユエは嘆息した。自分は問題ない。一生懸命、乙女心を両手で押さえつけているから。


「……あんたら、なんか雰囲気が似てるね。色も体つきも違うが、兄弟みたいだよ」


 バルバが鋭い指摘を吐いて、その言葉にぎくりとユエとティハが肩を揺らす。しかし当のルイがぶはっと吹き出した所為で、二人が発した緊張感は霧散した。


「ははっ……師匠、僕に兄弟はいませんよ。子供のころから知ってるじゃないですか。……でも、そうだな。ティハには礼の品を持ってきていなかったし、弟分ということで酒でも奢ろう。どうだい?」


 ルイは興が乗ったのか、ティハを誘う。一方のティハも、引っかかる部分があったのか好奇心に目を光らせた。


「……酒?飲んだことはないが、興味が、ある」


「飲んだことないのかい?!……それなら、余計にだ。一緒に行こう」


「ああ。分かった」


 ユエが止める間もなく、二人は連れ立って出て行ってしまった。

 ……酔った勢いで余計なことを口走ったりして。でも、元はトカゲだしそもそも酔ったりするのか。

 ユエは頭を抱えた。本当は付いて行った方がいいのだろうが、二十歳程度に見えるティハだけならまだしも女のユエが居れば酒場で浮いてしまう。

 ううーと唸りながら悩むユエに、バルバがにやりと笑った。


「……心配かい?運良く酒場に居合わせた女どもは騒ぐだろうね。……まあ、ルイはあしらいも心得ているから、心配しなくても上手くやるだろうよ」


 なんだか、そこはかとなくバルバが壮大な勘違いをしている気配がするのだが、ユエの気のせいだろうか。いや、気のせいに違いない。

 これ以上面倒なことを考えたくなくて、ユエは考えることを放棄した。



*****



 夜の道を、ティハとルイは連れ立って歩く。


「じゃあ、もう村を出るのかい?」


「ああ。ユエとも、そう約束している」


「……そうなんだね。てっきり、ユエと一緒になるものと思っていたんだけど」


「なんだ?」


「いや、なんでもないよ。……さあ、ここが酒場だ。入るよ」


 ルイに手招かれて、ティハはオレンジ色の灯りと騒がしい音の漏れるレンガ造りの建物を見上げた。

じわじわと近づいてくるトラブルの予感。

その前に、次回は美形ふたりの飲み会ですw


ちょっと展開がのろい気がしてきたので、今後いらぬところは省く努力をしてみます。

本日もご覧いただきありがとうございます。

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