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女子たちのお茶会

なんとー!!!

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ありがたうございまふ・゜・(ノД`)・゜・感涙。。。

 テーブルに座ったマリーが、勢いよく鼻をかむ。

 目元も真っ赤で、ひと目で泣いたことが分かるようなひどい有様だ。それでも、涙はようやく止まったようだった。

 そんな彼女の前に、カミラがことりとお茶を置く。


「どう?落ち着いたかい?」


「……はい。すみません、なんだかみっともないところを見せちゃって」


 恐縮しているマリーに、ユエは濡れ布巾の間に湿布用の薬草を挟んだものを渡す。


「これ、目元に当てると腫れが早く引きますから、どうぞ」


「ありがとう。迷惑かけてごめんね、ユエ」


 少し気の弱いところのあるマリーは、ユエの三つ年上だ。

 鍛冶屋の娘だが女性では力仕事を継げないと弟に家業を任せ、いつもは表通りの食堂でこまネズミのようにくるくる働いている。カミラに引っ張られるままクリエル家まで来てしまったが、仕事は大丈夫だろうかとユエは心配になった。昼は特に忙しいはずだ。


「お仕事、大丈夫ですか」


「あ、うん。……実は、手持ちで本を買うお金が足りなかったから、家に取りに帰りたくて今日だけ無理言ってお休みもらっちゃったの」


 駄目な大人よね、とマリーは眉を下げて笑う。年下のユエは何と言っていいか分からず、もごもごと口ごもった。

 するとカミラがぽん、と彼女の肩をなぐさめるように軽く叩く。


「たまにはそういうときもあるもんだよ。いつも一生懸命やってるって知ってるから、食堂のベルタだって休みをあげる気になったんだよ」


 ベルタとは、食堂を切り盛りしているご婦人だ。確かに、気っ風の良い女将さんで通っている彼女ならば、様子のおかしいマリーを気遣って半休を取らせてあげるくらいのことはしそうである。

 上手く助け舟を出してくれたカミラにユエは感謝した。


「ところで、どうしてあんなに泣いてたんだい?」


 カミラはマリーの向かいに座る。ユエもそれに習って隣に腰を落ち着けた。マリーは少し逡巡してから、ぽつりぽつりと話しだした。


「わたしが、トージに結婚を考え直したいって、言ってしまったんです。……その、アイーダに、女の方が身長が高いなんて旦那が馬鹿にされるからやめた方が良いって言われて。元々わたし、少し気にしてたから……」


 ユエは眉を寄せた。確かにマリーは女性にしては背が高い方だが、トージとの差なんてわざわざ背中合わせに比べなければ分からない程度だ。それに、彼女は細身なので筋肉質で大きく見えるトージとならば並んでもまったく気にならない。

 むしろ、優しげなマリーを引っ張りつつ守るトージ、といった風情でユエは応援する。


 まったくアイーダは人の恋路を邪魔して何が楽しいのだろう。元々あまり好きな相手ではなかったが、先日の件と合わせて評価は急速に下降中だ。


「私は、二人はお似合いだと思いますけど」

「そうだねえ。私も気にしなくて良いと思うよ」


 ユエがアイーダの言ったことは理解できないと不服そうにつぶやくと、カミラも大きく頷いて同意した。

 マリーがそれを聞いて、弱々しげに笑う。


「ルイにも、そう言われたわ」


 そこでルイが出てくるのか。ユエは先を促した。

 結局、マリーが話した内容をまとめると、こういうことだった。



 ルイとトージは歳も同じで家も近いので小さい頃から仲が良い。

 そして独り身の二人はよく一緒に食堂に来ていて、働いていたマリーと顔見知りになった。しばらくしてマリーとトージが付き合いはじめ、結婚の約束もした。本当ならここでめでたしめでたし、というところだ。


 だがアイーダがマリーの不安を煽ったことで、事態が急転する。

 マリーが「結婚をやめたい」と言い出し、そのことを知ったルイが考え直すようマリーを説得する。客観的な意見を聞くことができたマリーも頭を冷やし、直接トージと話し合おうと決意した。

 なのに、間の悪いトージが、話を聞いてもらったお礼にとマリーがルイにお菓子を手渡しているところを目撃。彼女がルイに乗り換えたと勘違いする。


 誤解だと何度も言ったが、熱くなりがちなトージは一切聞く耳を持たず、結果ルイと殴り合いの大喧嘩に発展。

 二人とも全治二週間ほどの怪我を負い、いまだに家から出られていない。



 この件のおかげで、バルバがルイの仕事をしばらく請け負うことになり、ユエも森に通えなくなった。そしてティハがおあずけに我慢できず人として村に潜り込み、ユエともども村の人たちの注目を浴びるはめになった、ということだ。

 ユエはその波及効果の大きさに、震源地であるアイーダにさらなる怒りを覚えた。


「……まったく、アイーダさんも余計なことを」


 するとカミラが肩をすくめる。


「まあまあ。アイーダもね、村の結婚してない女の子のうちじゃあ一番年上になっちゃったもんだから、焦ってるんだよ。……だからといって、人の結婚話を壊そうとするのは良くないけど」


 そう言ってアイーダを庇ったかに見えたカミラは、その後しっかり「性格のきつい子だからねえ、貰い手は村の外で探さないとダメだね」と容赦の無い言葉を吐いた。


 一通りの話を飲み込んだユエは、ごそごそと自分の籠をあさり今日買った「これで彼の心は私のもの!女子力向上☆マル秘レシピその七」を取り出した。


「……それで、この料理本がどうして必要だったんですか?」


 テーブルに置かれたその本の表題を読んでカミラが目を丸くしているが、それはこの際無視することにする。後で絶対何か言われるに違いない。

 マリーは本の表紙をそっと撫でて、その顔を赤らめた。


「……あのね。わたし、料理が出来ないの。だから、今までトージに手作りのものを食べさせたこと一度も無いし、食堂のお手伝いだって、給仕と盛り付けだけ、任されてる。ルイにお礼として渡したお菓子だって、お母さんが作ったもので……」


 彼女はこの年になって料理が苦手なんて、と恥ずかしそうにしている。


「だから、これで料理を勉強してトージにおいしいものを作ってあげれば、彼も話を聞いてくれるかなと思ったの……」


 ユエは合点がいった。トージは、手作りらしきお菓子をマリーが手渡しているのを見て、ルイとの仲を疑ったのだ。自分ですら作ってもらったことがないのに、といつも以上に頭に血がのぼったのだろう。


 ユエは表紙をじっと見た。

 『これで彼の心は私のもの』。まさに今のマリーにとってどんぴしゃなタイトルだったに違いない。

 しかし、この本は連作ものだ。確かに初めの頃は超初心者向けだったが、最近刊行されている新しいものはけっこう高度な技術を紹介していた気がする。


 ユエはおもむろに席を立つと、カミラにお手洗いに行きたいと申し出た。

 話途中での唐突なお願いに彼女は不思議そうな顔をしていたが、さきほどからお茶を飲んでいたのでそれほど怪しまれなかった。

 ユエは家の外に独立しているご不浄小屋の裏までまわって、小さな声でムッカにささやく。


「ねえ、ムッカ。あの本って、確か初心者向けだったのはその一かその二くらいまでだったわよね?」


「……そうだけど」


 少し間を置いて返ってきたムッカの声はずいぶん不機嫌だった。まだ読んでいない本を勝手に貸し出す約束をされて、ご機嫌斜めなのだろう。しかしユエは、マリーも喜んでムッカの機嫌も向上する策を思いついていたので、ひるまない。


「あのね、マリーは初心者だから、『その一』から読んだ方がいいと思うわ。ムッカが許してくれるなら、マリーには『その一』から順番に貸して、ムッカも読んでいない『その七』は後日ってことにしようと思うんだけれど」


 結構長い間沈黙が落ちたが、ユエはじっと我慢する。


「……大事に読んでほしいって、お願いしてくれる?」


 ムッカの声が心持ち上向きになっている。

 ユエは畳みかけるために、もちろん、と気持ちを込めて大きく頷いた。



*****



「このシリーズは序々に料理の技術を高めていく内容になっているので、『その一』から順にお貸ししようと思うのですけれど」


 手洗いから戻ったふり(・・)をしたユエは、マリーにそう提案する。マリーにとっては予想外の言葉だったのか、目を大きく見開いている。


 本は高価なので、ふつう親しい人でなければ頻繁に貸し借りしないものなのだ。ユエとマリーはお互いがどこのお嬢さんということは知っているけれど、会っても挨拶する程度の仲なので、普通からすればそれに当てはまらない。

 けれど、ユエも彼女も同じ人が原因で被害を受けたようなものだ。同情とはちょっと違うけれど、手助けしてあげたいと思ってしまった。


「……いいの?」


「はい。大事に扱ってもらえれば、貸すのは構いません」


 それを聞いてこくこくと何度も頷いたマリーは、「絶対汚さないし、写したらすぐに返す」と本当に嬉しそうに笑った。

 二人の様子を見守っていたカミラも、それを見て安心したように微笑んだ。




 明日、食堂まで本を届ける約束をして、ユエとカミラはマリーを送り出した。

ユエは腫れ止めの薬草を持たせるのを忘れない。


「今日しっかり冷やしておけば、明日には元通りになりますから」


「うん。本当にありがとう、ユエ。また明日ね。カミラさんも、お世話になりました」


 ぺこぺこと何度も頭を下げるマリーが路地の角を曲がって見えなくなり、ユエはほっと息をつく。カミラがそんなユエを見て面白そうに笑った。


「しかし、ユエでもあんなタイトルの本を買うんだね。びっくりしちゃったよ」


 やっぱり言われたと思ってユエはふくれっ面をする。


「ああ見えて、中身は結構しっかり書かれた料理の本ですから。……たしかに、タイトルはちょっと変で、あれですけれど……」


 実用的だからこそ、ムッカがシリーズが出る度に買おうとするのだし、王都でも流行ったのだろう。タイトルさえ変えてくれればユエだって恥ずかしがらずに買えるのに、なんともやるせない。


「ふふっ、分かってるよ。マリーは良い子だからね。きっと大事に読んでくれるさ。……それに、ねえ。いい『友達』になれると思うよ」


 最後はユエに聞こえない声でつぶやいて、カミラはぽんぽんとユエの頭を撫でる。そしてくるっと踵を返すと、「昼ごはん、食べていくだろう?」とユエを昼食に誘いながら家に入っていった。


 撫でられた頭を確かめるように触っていたユエは、また昼食にまで招待してもらえると思っていなかったので一瞬固まる。前回の失態を思い出して尻込みしたが、すでにその気になって準備し始めているカミラの手前、断るわけにもいかない。


 迷いに迷ったあげく、今日はレオも居ないのであのどろどろした気持ちになる事もないはず……そう、自分に言い聞かせて、ユエはあわててカミラの背中を追った。

ひとりおばさまが混じっておりますが、女子会に違いはありません。

だって女子ですから。


明日は…土曜日…更新…でっきるっかな…

たぶん、します!笑


今日もご覧いただきありがとうございます。

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