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小ライオンの勘違いとお菓子の罠

19話として1/31にあげた「深夜のべんきょうかい」を修正して「おたまの悪巧み」の後に移動します。気になる方はお手数ですが目を通していただけると助かります。

★内容はほぼ変わっていませんが、分かりにくい表現を直し、時系列を考えて移動させました。

 バルバに頼まれた採集も終わり、森の力で英気を養ったティハがほくほく顔で木立の中を歩く。


 日は傾き、西の空が薄ら茜色に染まりはじめている時間だ。

 ティハの初めての「おつかい」の成果は上々で、ユエへの対価も充分採ったし、ちょっとした贈り物も用意した。人の勢いに圧倒され疲れ果てた精神も、森の中にいれば暖かな力で癒される。


 背の高い木々が途切れ、開けた視界の向こうに村の家がぽつぽつと見え始める。

 すでに夕食の準備をしている者がいるのか、屋根から突き出た煙突から白い煙がたなびいていた。ティハはユエが料理を作っている様を思い出して、思わず腹を押さえる。力を充分蓄えているので飢餓感はないが、自分もちゃんと空腹(・・)になるのだと知ってティハは苦笑した。


 村を囲う柵が途切れた入口を目指してティハが歩いていると、それよりも少し森側にひとりの人間が立っているのに気づく。その人物は太陽を背に負って立っているので逆光で顔がよく分からない。

 しかし、服装が今日何回か見かけた自警団と同じだと気づいて、ティハは首を傾げた。


 自警団は主に村の入口の守りを担っている、とユエは言っていた。

 街道側は入ってくる外部の人間を選別し、森側は採集に行く人を管理してその日の内に帰らない者がいないか確認している。

 哨戒に出向くこともあるが、それは襲撃を企む者が潜む街道側に限定される。村はラガルティハの森唯一の入口である断崖絶壁の切れ目を覆うように広がっているので、森側を見張る理由はあまりないのだそうだ。


 だからこそティハは疑問に思う。誰か、遭難者でも出たのだろうか。彼が立っているのは村の外、森側だ。

 人影にある程度近づいたところで、人の作法に習って挨拶をする。


「こん……ばんは。どうか、したのですか」


 自警団は村を守る存在。敬語を使っておけば問題ないとティハはムッカから教わっていた。

 今は昼と夜の間だから「こんにちは」と「こんばんは」で悩むが、これから来るのは夜なので「こんばんは」と言い添える。


「……ユエの親戚か」


 想像していたより若い声だ。村で会った自警団の面々はティハの見た目より年上の者が多かった。

 さらに近づくと、ユエと同じくらいの少年が険しい顔で立っていた。


「はい。自分は、ユエの親戚です。はじめまして。ティハ・リームルバといいます」


 今日何十回と繰り返した挨拶だけは敬語でも言い慣れていたので、淀みなく答える。

 本当は握手もするのが正しい作法なのだが、今は両手に薬草を抱えているので難しい。ティハは少し悩んでから、薬草を一度地面に置くと少年に向かって右手を差し出した。


「よろしく、お願いします」


 少年は何を思ったのか面食らった顔をしてしばらく固まっていたが、はっと意識を取り戻すと狼狽えながら握手を交わす。


「レ……レオ・クリエルだ。自警団所属で、ユエとは小さい頃から家族ぐるみの付き合いがある」


「そう、ですか。それで、何かあったのですか」


 この少年はユエの両親を知っているのだな、とティハは軽く頷き、引き止められた理由を問う。

 早くバルバに薬草を渡し、ユエの家で料理を食べたかった。さっき感じた空腹で気は急くばかりだ。


 一方レオと名乗った少年は、ティハの顔をじっと見て逡巡している。ティハは早くしてくれと思い、また何かあったのですかと繰り返した。

 そうして初めて決意したかのようにレオが口を開いた。


「単刀直入に聞く。……あんた、薬師だというのは本当か。何か、別の理由があってユエに近づいたんじゃないのか」


 ティハは息を止めるが、すぐに吐き出した。驚いてはいけない。

 何人かはティハが本当に薬師か疑う、これは予想できたことだ。すでにバルバから一度不意打ちを食らっているので、思ったより早く立ち直ることが出来た。

レオの顔を見るとまた表情が険しくなっている。


「……自分は、薬師です。勉強のために、この村に来たのは本当、です」


 レオの警戒心を煽らないよう、笑顔を努める。

 しかし「別の理由」かとティハは思う。それは『料理』だが、そのことくらい言っても問題ないのではないか。親戚、いわゆる家族であるユエが作る料理を楽しみにしていると言えば、彼女に害を与えるような人物に見えることはないだろう。


「それと、ユエの料理が、食べたくてここにいます。それが、もうひとつの理由です」


 どうだ、これで心配ないだろう、と満面の笑みで付け加える。


 それを聞いたレオが目を丸くして、その後、なぜか物凄く嫌そうに顔を歪めた。

 ティハはあれ、と心の中で焦る。好感度を上げようとしての発言だったのだが、何かレオの気に障るようなことだったのか。しかし、これ以上追求されてもぼろが出るだけで良いことは何もない。


「ええ……と。自分は、バルバに頼まれた薬草を届けなければ、いけません。さようなら」


 慌てて地面に置いた薬草を拾い、逃げるようにその場を後にする。

 置いていかれたレオが「どういう意味だ!」と叫んでいたが、ティハは聞こえないふりをした。



*****



 バタン、と玄関の開く音がして、ユエは薬研を動かしていた手を止める。

 今日は午前中に配達を終わらせ、午後はずっとバルバの家で薬草を挽いていた。配達はなるべく人通りの少ない道を選んだが、やはり噂を聞いた村の人たちに何度も囲まれそうになったのだ。


 だから午後は面倒を避けるためにユエは室内に閉じこもっていた。隣りで乳鉢の薬を混ぜていたバルバが顔を上げる。


「帰ってきたね」


 その言葉通り、少し髪を乱したティハが薬部屋に顔を出した。

 両手いっぱいに束ねた薬草を抱え、その隙間すきまになぜか茶色い包みがいくつも刺さっている。


「も……戻り、ました」


「おかえりなさい」


「ああ、ご苦労さん。やっぱり男前は一度に採ってくる量が違うね」


 調合途中の乳鉢が広がっている机を片付け、薬草を広げるスペースを作りながらバルバが笑う。ユエは自分が採ってくる量と比べられたと思い、しょんぼりと肩を落とした。


「……すみません、師匠。私が力が無いばっかりに、いつも少ししか採れなくて」


 片付ける手を止めたバルバはユエの顔をゆっくりと眺めると、その後、急に腹をかかえて笑い出す。

 笑われたことにユエがショックを受けた顔をしていると、バルバがティハの下ろした薬草から茶色い包みをひとつつまみだして示すように左右に振った。


「何言ってるんだい、薬草の量のことじゃないよ!小娘どもの貢物(みつぎもの)のことを言ってるんだよ、あたしゃ」


 ユエはきょとん、とする。

 バルバに渡されたそれを受け取って中を見ると、油が染みないよう蝋引きされた包みの中に、いかにも手作りと思われるお菓子が詰まっていた。机に広げられた薬草を見ると、同じようなものがいくつも埋もれているのが分かる。


「ルイがいた頃も同じような光景がよくあったもんさ。でも、ティハの方が収穫は上みたいだね」


 くくく、とバルバが楽しそうに笑う。

 ユエはがっくりと肩を落とした。彼女たちはアピールのためにティハにお菓子を渡したらしい。それも、包みの数からするとその人数はかなりのものだ。


 ティハもユエに習って包みをひとつ開けると、中のお菓子を取り出し匂いを嗅ぐ。


「これ、食べられるのか?」


 神妙な顔をして、ティハがユエに確認する。

 それを聞いたバルバはまた爆笑し始めた。途切れとぎれにしか聞こえないので定かではないが、恐らく「毒でも入ってるって言うのかい!」というようなことを言いながら笑い転げている。

 ユエはここ最近で一番の笑いを見せる師匠を呆れたように見た後、ティハに顔を向けた。


「砂糖を使った、ただの甘いお菓子ですよ。変なものではありませんので、食べられます」


「そうか。女たちが次々押し付けてくるから、何かと思った」


 そう言って、ティハはぽいっと口の中にお菓子を放り込む。もぐもぐと咀嚼した後、にっこりと輝くような笑顔を浮かべた。


「……美味しいな。甘いのも、格別だ」


 相変わらず料理を口にすると素晴らしく美麗になる顔をユエは半眼で見る。


 結局、ティハは料理だったら誰が作ったものでも良いのではないか。

 確かにずっと人の姿でいるわけにもいかないので伴侶を娶るのは難しいだろうが、その顔で料理だけを作ってくれる女の人を捕まえればなんとかなる気がする。

 ……いやでも、それだと「結婚する気のない軽薄な男」に見えるのでまた余計なトラブルを呼び込みそうだ、とユエは即座に自分の考えを却下した。


 ティハはひとつ食べ終わった後、しばらくお菓子の入った包みを見つめると、思いついたように顔をあげた。


「美味しいものは、皆で食べたい。ユエと……師匠も、食べませんか」


 ティハの料理への執着を知っているユエはその提案に目を瞬く。

 バルバはすでに「そりゃ、いいね!うまかったよ、と言ってやったときの小娘どもの顔を見るのが楽しみだ」などと言って早速包みに手を伸ばしているが、ユエは困ったように眉を下げた。


「……いいんでしょうか。それは、ティハのために用意された『料理』ですよ?」


「いい。料理は独りより、ユエたちと食べた方が、きっと美味しいから」


 迷うことなく返された言葉に、ユエはくすぐったいような気持ちになる。

 どうしてか、心の中がじわりと熱を持った気がしてふう、と息をついて目を細めた。


「……分かりました。では、私はお茶を入れてきますね」


 ユエは照れ隠しにそう言って薬部屋を飛び出したが、なんとなくこの気持ちの正体には気づいていた。

 これはきっと、嬉しい、だ。


 その日、外が闇に包まれるまで三人のお茶会は続いて、お菓子で腹が膨れたせいで晩御飯があまり食べられなくなったティハが相当に悔しがった。

 ユエとムッカはそんなティハを見て笑いながら過ごし、ユエは久しぶりに感じる暖かな空気の余韻に寝床に入るまでひたっていた。

日曜日ですが2/1、20話目の記念にあげました。

いつもご覧いただきありがとうございます。

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