コーンウェ宮内伯
「なるほど。お話は理解致しました」
事前の通達もなく突然乗り込んできたキーゼロイデ一行を迎えたヴァル・コーンウェ・サックフサは、椅子の肘掛けを中指でとんとんとたたきながら考え込んだ。
彼は式典を司る典礼院に属する宮内伯である。ウグナペリン伯の叙任式を取り仕切る縁で、キーゼロイデに「目を付けられた」というわけだ。
「ポルメターベ卿に話を持ち掛けたのがフェルカーデ宮内伯の被官であるということが本当であれば、由々しきことですな。それをいかに証明するか……。フェルカーデ宮内伯をどこかにお招きしたとて、その被官を伴うとも限らぬし、場合によっては……」
「その被官は既に生きていない、ということですかな」
ゼレベレンが、頬をぷるるんとさせながらコーンウェを見た。
「私がフェルカーデ宮内伯ならそうするでしょうな」
コーンウェはこともなげに言った。
「そんな……被官の命はそのようなものなのですか?」
「大逆罪などという途方もない冤罪を作り出すくらいなら、その程度のことはやるでしょうな。私のような小心者は陰謀を企てることすらままなりませぬが」
コーンウェは、怖い表情にほんのわずかに笑みを付け足してリリーメルを見た。
「要は、ウグナペリン伯や私がわずかな時間で思いつく程度のことは既にやっているだろうということです。ポルメターベ卿がそうされたように、切り捨てることが容易な被官の線をたどるのは困難でしょう」
「それで、宮内伯には他に何か策はおありで?」
キーゼロイデが挑発するようにコーンウェを眺めた。
「このような事案の証拠を探るのに向いた男がいるのですが、生憎カーリルン公領に出張っておりましてね。能力は彼に一歩譲るが、やはり有能な男を動かしましょう。手掛かりを得たら、こちらからお知らせ致します」
「カーリルン公領……無能な女公爵がいるという?」
「無能? さて、そのような話は聞いたことがありませんな。あそこはもうすぐ、なるようになるでしょう」
リリーメルは、女公爵が無能ではないと聞いて少し気分が良くなった。が、話が逸れたことに気付いて赤面した。
キーゼロイデは鷹揚に頷くと、「ではよしなに」と高らかに締めて、一同を引き連れて退出した。
キーゼロイデ一行を見送った後、コーンウェは背もたれに深く身を任せた。
「背後にはあの男がいるのだろう。彼女たちが大蛇の尻尾を踏まぬようにしてやらねばな」
――それにしても……「流浪の傭兵姫」か。むしろ、あの男は余計な珍獣の尻尾を踏んでしまったのではないか。
そう思うと愉快だった。
コーンウェは、胸の深部をチクリと刺す痛みに眉をひそめた。
漆黒の心の奥底にある、砂粒ほどのそれ。
ちっぽけだが、宝石のように輝いて、漆黒の心を照らそうとする。
彼はその砂粒を漆で塗り固めて、ふうとため息をついた。
部屋の隅に控えていた被官がコーンウェに声をかけた。
「宮内伯、いかがなさいますか」
「『個人的に相談を受けた典礼院の宮内伯』として処理するだけのことだ。バンクレールフに、フェルカーデの動向を洗わせろ」
――もっとも、キルエルト伯を罠にはめた目的はそろそろ勝手に露呈するだろうが……。




